インドネシア・スマトラ島における移住事業後のゴム林地の所有形態の変化

要約

インドネシアの移住事業は移住地周辺の地元社会に大きな影響を与えた、移住事業の中心地であるスマトラ島では、地元旧往民の主な収入源はゴム林であるが、多くは森林を開拓して造成したものであった。移住地建設よって地元住民の利用可能な森林が制限されたことにより、地元村内におけるゴ払林地の売買が活発化し、ゴム栽培農家の階層分化が進行した。

背景・ねらい

   インドネシアでは、人口の分散と地域開発推進のため、移住事業を推進し、1969年から93年までの25年間に約600万人が移住事業に参加した。その結果、147万haの土地が移住地として開拓されたが、その多くは森林を開発したものであった。国の法律では森林は国有地であるが、地域の慣習法では森林を開拓した者が土地の所有権を得る。このような慣習法に基づき、移住先周辺の地元民は、移住地開発の以前から森林を利用してきた。たとえば、移住者の約7割が集中するスマトラ島では地元民は森林を伐開してゴム林を営んでいる。そこで、本研究では、移住事業が移住地周辺の地元社会、とくに地元民の土地利用に与えた影響を明らかにすることを目的とした。

成果の内容・特徴

  1. 農家調査は1998年8月に、スマトラ島中部、移住世帯数全国4位のジャンビ州の中の、移住事業地に近接する地元村であるブンゴ・チボ郡ダナオ村で行った。
  2. この村の場合、重要な収入源はゴム林であるが、その多くは周辺の森林を開拓して造成された。しかし、1981年から移住事業地の開発が行われた結果、村人の利用可能な森林が大幅に制限されることになり、ゴム林地の取得方法も大きく変わらざるを得なくなった。80年代を境に、かつてのように森林を開拓して土地を取得する人は激減し、かわりに他者のゴム林や休閑林を購入する人が急増した(表1)。
  3. ゴム栽培農家の大半は、専業農家(以下、「ゴム林専業農家」と呼ぶ)であるが、その他にゴム仲買や雑貨商などを営む兼業農家もいる。ゴム林地の取得方法について、両グループを比較すると、表2にみられるように、ゴム林専業農家は、主に「相続」と「森林開拓」によってゴム林地を取得したのに対して、兼業農家は、主に「購入」によって取得している。このことは、土地の売買が活発化したことにより、資金力のある兼業農家にゴム林が集積していったことを示す。
  4. ゴム林の所有規模をみると、表3 に示すように、ゴム林専業農家は1~3haにピークがあり、平均が2.5haなのに対して、兼業農家のピークは5ha以上で、平均は7.2haと、両グループの所有規模には大きな格差が認められた。

成果の活用面・留意点

   地元民の土地利用に影響を与えるものには、様々な社会状況・環境状況が考えられるが、その中から移住事業の影響を区別するため、移住地から遠距離にある地元村においても土地所有に関する調査を行い、移住地に近いダナオ村の結果と比較する必要がある。

具体的データ

  1.  

    表1 ゴム林地の取得方法の変化
  2.  

    表2 ゴム林地の取得方法
  3.  

    表3 ゴム林所有規模
Affiliation

国際農研 林業部

国際アグロフォレストリー研究センター

分類

研究

予算区分
経常
研究課題

森林の荒廃と回復に関わる地域住民の役割の解明

研究期間

平成9~11年

研究担当者

宮本 基杖 ( 林業部 )

ほか
発表論文等

宮本基杖 (2000): 森林減少とゴム林所有構造の変化一インドネシア・中部スマトラのダナオ村を事例に一. 林業経済研究, 2000年春季号に掲載予定.

日本語PDF

1998_13_A3_ja.pdf498.41 KB

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