フィリピンにおける養殖ミルクフィッシュの成長と肥満度は水温で予測できる
背景・ねらい
養殖魚の成長に関する情報は、養殖の生産計画や経営費用の管理において重要である。また、養殖魚の肥満度や水温の情報は、品質(脂質含量の多寡)および魚の健康状態なども把握できる。そこで、フィリピンにおいて最も重要な養殖対象種であるミルクフィッシュについて、水温の変化が成長や肥満度に及ぼす影響を明らかにする。実際のミルクフィッシュは野外の養殖場で生産されるが、水温に着目した先行研究はほとんどない。そこで本研究は、野外において成長、肥満度、水温に着目する。成果の内容・特徴
- ミルクフィッシュ養殖における養殖日数、水温と成長の関係について、高水温期と低水温にフィリピンで現地試験を行うとともに統計的な解析を行い、最も当てはまるモデルとしてロジスティックモデルを提案する(図1)。一般的な養殖方法に準じ、飽食(満腹)給餌として実験しており、ミルクフィッシュの魚体が大きくなるほど日々の成長率(日間成長率)は低減する(図2)。当該モデルは、このような生理的特徴も反映されている。
- 肥満度と水温の関係として、低温期(29℃~30℃前後)に肥満度(脂ののり)が高くなり、より高温期(>30℃)になると肥満度が低下する。また、最低温期(27~28℃)でも肥満度が低下する(図3)。
- 肥満度と水温および餌料要求率には関係があり、高温期には餌料要求率が低下し、肥満度も低下する。低水温期には、餌料要求率が上昇し、肥満度も上昇する(図4)。
成果の活用面・留意点
- これまでの研究では、線形回帰によって分析されており、出荷サイズ(300–400 g/尾)までの成長予測は過大に推計される傾向にあったが、本モデルではこのような過大推計を補正できるため、より正確な成長予測や養殖経営体による出荷予測などに活用できる。
- 魚体重と成長率の関係から、どのサイズで出荷すれば養殖の効率性が高いのか予測することができる。ただし、費用のデータを分析していないため、養殖経営体にとっての最適なサイズを推計することはできないことが、今後の課題である。
- 水温を把握することによって、肥満度の予測の可能性を示すことができるが、これらの予測をさらに精緻化するために、さらになるデータ収集とモデル修正が必要である。
- どのような水温の時期に、どの程度餌を与えれば良いのか、例えば低温期の給餌量を削減し、肥満度を通年一定化させるなど、給餌量の目安を提供できる。魚類養殖において、餌料代は最も大きな割合を占める経費であり、これを抑制することに貢献することが可能である。
具体的データ
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図1 養殖水温など異なる条件の成長の推計例
実線と破線は異なる養殖施設場所。高温期は3回、低温期は4回実験を実施。80g/尾の種苗で試験を開始。 -
図2 日間成長率と魚体重の関係
日間成長率=100×exp(((ln(Wf) –ln(Wi))/養殖期間) –1)。
Wfは計測時の重量(g)、Wiは養殖開始時の重量(g)。
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図3 肥満度と水温の関係
肥満度=魚体重(g)/(体長(cm))2。赤が高温期、青は低温期、×は最低温期のデータ。 -
図4 肥満度と餌料要求率の関係
餌料要求率=飼料摂取量(g)/生産重量(g)。最低温期のデータは含んでいない。図はKodama et al. (2021)より改変(転載・改変許諾済)
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 熱帯水産資源
- 研究期間
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2016~2018年度
- 研究担当者
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児玉 真史 ( 水産領域 )
Diamante Rose Ann ( 東南アジア漁業開発センター )
Salayo Nerissa ( 東南アジア漁業開発センター )
Castel Raisa Joy ( 東南アジア漁業開発センター )
Sumbing Joemel ( 横浜国立大学 )
- ほか
- 発表論文等
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Kodama M et al. (2021) JARQ 55: 191−200https://doi.org/10.6090/jarq.55.191
- 日本語PDF
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2021_B07_ja.pdf420.14 KB
- English PDF
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- ポスターPDF
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2021_B07_poster.pdf294.81 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。