フィリピンにおける養殖ハタ大量死はウイルス性神経壊死症に因る

要約

原因不明であった養殖ハタの大量死は、フィリピンで初めてのウイルス性神経壊死症(VNN)の感染発病に因るものであり、本症の確定診断は病原病理学的に可能である。

背景・ねらい

近年アジアにおいて魚介類の養殖生産量は飛躍的に増大し、総水産物生産のなかで大きな割合を占めている。しかしながら集約的養殖方法により疾病が急増し、親魚育成期および種苗生産期における重大な生産阻害要因となっている。フィリピンの種苗生産場で飼育されていたチャイロマルハタ仔魚に原因不明の大量死がみられたため、チャイロマルハタ仔魚を病原病理学的に調査してその病因を明らかにし、診断技術を確立する。

成果の内容・特徴

  1. チャイロマルハタ(図1)の瀕死魚は摂餌不良および異常遊泳を特徴とする外観症状を呈し、瀕死魚の脳および網膜組織の神経細胞に細胞壊死を伴う明瞭な空胞変性が認められる(図2)。
  2. 電子顕微鏡観察により、病理変化の観察された脳および網膜組織の神経細胞について、その細胞質に直径20-25nmの多数のウイルス粒子が検出される(図3)。
  3. 病魚頭部の磨砕濾液を接種した魚類由来株化細胞であるSSN-1細胞に、顆粒様の物質を含む球形細胞および細胞の膨化を特徴とする細胞変性効果が発現した。その細胞の細胞質に小型(直径20-25nm)球形のエンベロープを有さない多数のウイルス粒子が電顕観察により確認される。
  4. RT-PCR法より病魚および感染培養細胞から魚類ノダウイルスの外被タンパク質遺伝子が検出される。
  5. 大量死したチャイロマルハタ病魚を病原病理学的に調査したところ、その原因はウイルス性神経壊死症(VNN)である。本症例はフィリピンにおけるVNNの初記載である。
  6. 健常なチャイロマルハタを用いて感染実験を行った結果、VNN自然発病魚と同様の症状が再現された(図4)ことから大量死したチャイロマルハタの死因はVNNの原因ウイルスの感染発病によるものである。

成果の活用面・留意点

  1. 原因不明であったチャイロマルハタの大量死がウイルス性神経壊死症に因るものであることが明らかになったことから、本症の確定診断が可能となる。
  2. 本診断法を用いて同地域の高価値養殖魚種の稚仔魚期に深刻な被害を及ぼす本症の発生実態を明らかにすることが重要である。

具体的データ

  1.  

    図1
  2.  

    図2
  3.  

    図3
  4.  

    図4
Affiliation

国際農研 水産部

分類

研究

予算区分
国際プロ〔汽水域生産〕
研究課題

フィリピン等における養殖魚介類の新規疾病診断技術の開発

研究期間

2002年度(2000~2005年度)

研究担当者

前野 幸男 ( 水産部 )

DELAPEÑA Leobert D. ( 東南アジア漁業開発センター )

CRUZ-LACIERDA Erlinda R. ( 東南アジア漁業開発センター )

ほか
発表論文等

Maeno, Y., de la Pena, L. and Cruz-Lacierda, E. R. (2002): Nodavirus infection in hatchery-reared orange-spotted grouper, Epinephelus coioides: First record of viral nervous necrosis in the Philippines. Fish Pathol., 37, 87-89.

Maeno, Y., de la Pena, L. and Cruz-Lacierda, E. R. : Mass mortalities associated with viral nervous necrosis in hatchery-reared sea bass, Lates calcarifer in the Philippines. (submitted )

Maeno, Y., de la Pena, L. and Cruz-Lacierda, E. R. (2002):Susceptibility of marine fish species to piscine nodavirus from orange-spotted grouper, Epinephelus coioides in the Philippines. Abstract of the 5th Symposium on Diseases in Asian Aquaculture, November 2002, Goldcoast, Australia, 46.

Lio-Po, G. D., Cruz-Lacierda, E.R., de la Pena, L. D., Maeno, Y. and Inui, Y. (2002): Progress and current status of diagnostic techniques for marine fish viral diseases at the SEAFDEC Aquaculture Department. In "Disease control in Fish and Shrimp Aquaculture in Southeast Asia - Diagnosis and Husbandry Techniques." (ed. by Inui, Y. and Cruz-Lacierda, E.R.), SEAFDEC, Iloilo, Philippines, 97-106.

日本語PDF

2002_22_A3_ja.pdf917.44 KB

English PDF

2002_22_A4_en.pdf73.83 KB

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