ダイズの種子サイズと形状に関与する遺伝子座の特定
背景・ねらい
ダイズは、タンパク質と脂質の豊富な供給源として世界で最も重要な食用・油糧作物の一つである。ダイズ種子のサイズは収量を決定する重要なファクターであり、形状は外観品質的にも加工上でも重要である。そのため、種子のサイズと形状は、ダイズの品種開発における主要な育種目標になっている。用途に応じて望ましいサイズや形状のダイズ品種を開発するためには、形質を決定する遺伝子を解明する必要がある。しかし、ダイズの種子形質の遺伝様式は複雑であり、遺伝背景や生育環境によって大きな影響を受けるため、種子のサイズと形状を制御する遺伝子の探索は十分に進められていない。本研究では、種子のサイズと形状が異なるダイズ品種の交雑後代に由来する組換え自殖系統集団を用いた次世代シーケンス解析によりダイズ種子のサイズと形状に関与する遺伝子座の同定を目指し、多収で加工に適するダイズ新品種の開発に向けて種子のサイズと形状形質の改善に資する。
成果の内容・特徴
- ダイズ品種「K099」と「Fendou 16」の組換え自殖系統(F2世代の個体別に何代も自殖を続けて得られる系統)集団(n = 94)を用いて次世代シーケンス解析を行い、連鎖地図(1,662マーカー)を構築した後、QTL(量的形質遺伝子座)解析を行い、種子のサイズと形状に関与する80個の有意なQTLを検出している。
- 検出したQTLのうち、24個のQTLが11個のクラスターに分類され、特に効果の大きい3個のQTL(qSL2.3、qSLW2.1およびqSLT2.1)が第2番染色体にクラスター化して座乗している(qSS2)(図1)。
- 準同質遺伝子系統を用いた2年間の圃場試験により、QTLクラスターqSS2が種子のサイズと形状に与える効果を実証している(図2)。
- 遺伝子発現データベースを用いた解析から、qSS2の候補遺伝子として、5個の遺伝子(Glyma.02G269400、Glyma.02G272100、Glyma.02G274900、Glyma.02G277200およびGlyma.02G277600)が推定されている。
成果の活用面・留意点
- 同定されたダイズ種子のサイズと形状に関与する遺伝子座に関する情報は、関連する遺伝子の単離や種子形質を制御するメカニズムの基礎的な理解だけでなく、実際の育種目標に応じて、望ましい種子サイズと形状を持つダイズ品種の分子デザイン育種への利用できる。
- QTLクラスターを形成する各QTLは隣接する独立した遺伝子ではなく、同一遺伝子の多面発現の可能性も考えられる。
具体的データ
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図1 「K099」と「Fendou 16」の組換え自殖系統集団において第2番染色体に同定された種子のサイズと形状に関与するQTLクラスター(qSS2)
染色体の右側にcM単位の距離を表し、左側にマーカーを表す。qSL2.3、qSLW2.1およびqSLT2.1はそれぞれ種子の長さ、長さ/幅、長さ/厚さのQTLとして同定されている。 -
図2 qSS2の準同質遺伝子系統を用いた2年間の圃場試験(2018、2019)により種子のサイズと形状に関与するQTLクラスター(qSS2)効果の確認。(A)種子の外観;(B)種子のサイズ;(C)種子の単粒重;(D)種子の形状
NILs-F:「Fendou 16」遺伝子型;NILs-K:「K099」遺伝子型;SL:長さ;SW:幅;ST:厚さ; SLW: 長さ/幅;SLT: 長さ/厚さ;SWT: 幅/厚さ。図はKumawat and Xu (2021)より改変(改変・転載許諾済)
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金
- 研究期間
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2016~2021年度
- 研究担当者
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許 東河 ( 生物資源・利用領域 )
Kumawat Giriraj ( ICAR-インド大豆研究所 )
- ほか
- 発表論文等
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Kumawat, G. and Xu, D. (2021) Frontiers in Genetics, 12: 646102https://doi.org/10.3389/fgene.2021.646102
- 日本語PDF
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- English PDF
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2021_B02_en.pdf267.37 KB
- ポスターPDF
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2021_B02_poster.pdf423.9 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。