植物の乾燥耐性関与遺伝子群を制御するキイ遺伝子の単離

要約

植物の乾燥耐性の獲得に働く遺伝子群を制御している転写因子の遺伝子、ならびに乾燥誘導性のプロモーターを単離した。この遺伝子とプロモーターの利用により、複数の耐性遺伝子の制御が可能になり効果的に作物の乾燥耐性を高められる見通しがたった。

背景・ねらい

   今日、遺伝子導入植物は実際にフィールドで栽培されるようになり、病害虫耐性や農薬耐性植物など実用化に成功している。これに対して環境ストレス耐性作物はその耐性の獲得機構が複雑なため開発が遅れている。これまでに実験室レベルでいくつかの耐性植物が報告された例はあるが、耐性度が低いなどの問題から実用化のめどがたったものはない。この環境ストレス耐性植物の開発のためには耐性に関与すると考えられる複数の遺伝子を同時に改変させ、強い耐性度を確保する必要がある。本研究は植物の持つ乾燥耐性機構を分子レベルで明らかにして、乾燥ストレス耐性植物の分子育種に役立てることを目的とする。

成果の内容・特徴

  1. モデル実験植物であるシロイヌナズナより40種以上の乾燥ストレス耐性関与遺伝子を単離し、その発現と機能を解析した結果、これらの遺伝子は少なくとも四つの制御機構を介して働らいている事を明らかにした。
  2. このうちの一つの制御系を介して誘導されるrd22と名付けられた遺伝子の解析を行い、この遺伝子の発現を制御する二種の転写因子の遺伝子を単離した。この転写因子は乾燥時に遺伝子の働きをスイッチオンとし、それ以外の時にはオフとする指令を行う。
  3. この二つの遺伝子は動物で発癌遺伝子として知られているMYB遺伝子とMYC遺伝子に類似した構造を持っており、互いに協調して遺伝子の働きを調節している。この転写因子の遺伝子を用いれば同時に複数の遺伝子の制御が可能になり、効果的に植物の乾燥耐性を高められる可能性が考えられる(図1)。
  4. 実用的な遺伝子導入植物作出のためにはストレス条件下で遺伝子の働きを調節するプロモーターの開発が重要である。これまでに三つの乾燥ストレス条件下で働くプロモーターの単離を行ったが、新たに乾燥ストレスによって短時間のうちに強い遺伝子の発現誘導を起こす第4番目のプロモーターの単離に成功した(図2)。

成果の活用面・留意点

  1. 単離された二つの転写因子遺伝子は植物に導入することで同時に複数の耐性機構に働く遺伝子群を改変する事が可能であり、強力な有用遺伝子として利用できる。
  2. これまでに単離された四つのプロモーターを組み合わせることで必要性の高い新しいプロモーターの開発に役立てていける。

具体的データ

  1. 図1 乾燥ストレスによってrd22遺伝子が発現誘導されるしくみ
  2. 図2 乾燥ストレス誘導性プロモーターの働き
Affiliation

国際農研 生物資源部

理化学研究所

分類

研究

予算区分
生研機構基礎研究推進事業
研究課題

乾燥・塩ストレス耐性の分子機構の解明と分子育種への応用

研究期間

平成9年度(平成 8年~12年)

研究担当者

篠崎 和子 ( 生物資源部 )

中島 一雄 ( 生物資源部 )

阿倍 ( 生物資源部 )

浦尾 ( 生物資源部 )

篠崎 一雄 ( 理化学研究所 )

科研費研究者番号: 20124216

ほか
発表論文等

K, Shinozaki. and K, Yamaguchi‐Shinozaki. (1997) Gene expression and signal transduction in water stress response. Plant Physiol, 115, 327-334.

H, Abe., K, Yamaguchi‐Shinozaki., T, Urao., T, Iwasaki., D, Hosokawa. and K, Shinozaki. (1997) Role of Arabidopsis MYC and MYB homologs in drought‐and abscisic acid‐regulated gene expression. Plant Cell, 9, 1859-1868.

K, Nakashima., T, Kiyosue., K, Yamaguchi‐Shinozaki. and K, Shinozaki. (1997) A nuclear gene, erdl, encoding a chloroplast‐targeted Clp protease reguratory subunit homolog is not only induced by water stress but also developmentally upregulated during senescence in Arabidopsis thaliana. Plant J., 12, 851-861.

K, Shinozaki. and K, Yamaguchi‐Shinozaki. (1998) Molecular responses to drought stess. In K, Sato. and N, Murata. eds. “Stress Responses of Photosynthetic Organisms". Elsevier Science, p.149-163.

日本語PDF

1997_06_A3_ja.pdf845.66 KB

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