ダイズ根系の改良に資する根長に関与する遺伝子座の特定
背景・ねらい
根は植物の成長に必須である水と栄養分を土壌から吸収する重要な器官である。 発達した理想的な根系の形成は、成長生育環境への適応性と低投入環境での栄養分獲得の改善を保証するため、作物生産を向上させるには不可欠である。しかしながら、根は土中にあり容易に計測することができないため、圃場条件下における根の特性評価には多大な労力が必要である。そのような中、イネにおいては、根の形質を制御する遺伝子が単離され、イネの干ばつ耐性、耐塩性、およびリン酸欠乏耐性育種に利用されてきた。一方、ダイズにおいては、根系の改良によりその生産性を向上させる例は、ほとんど報告されていない。本成果は、ダイズ遺伝資源を評価することにより見出された長根型品種に由来する組換え自殖系統を用いて、根系の改良に資する根長関連遺伝子座を同定したものである。
成果の内容・特徴
- 中国山西省の乾燥地域に由来するダイズ品種「Fendou 16」は長根型である(図1)。
- 短根型ダイズ品種「K099」と長根型品種「Fendou 16」の交雑に由来する組換え自殖系統(F2世代の個体別に何代も自殖を続けて得られる系統)集団(n = 103)を用いた、水耕試験条件下でのダイズ根長と関連するQTL(量的形質遺伝子座)の解析では、第16番染色体のDNAマーカーSat_165とSatt621間のゲノム領域に、主根長に関与する新規のQTL(qRL16.1、寄与率=30.25%)が検出される(図1)。
- qRL16.1の準同質遺伝子系統(「Fendou 16」遺伝子型NILs-Fと「K099」遺伝子型NILs-K)の比較においてもqRL16.1の効果が確認される(図2)。
- 中根長型ダイズ品種「Union」と「Fendou 16」の交雑に由来する組換え自殖系統分離集団(n = 109)の遺伝的背景でも、「K099」と「Fendou 16」の分離集団で同定されたゲノム領域と同じ領域に根長QTLが認められる。
成果の活用面・留意点
- 本研究で同定された根長を増加させる対立遺伝子をマーカー選抜で導入することにより、ダイズ根系を改良し、耐乾性のポテンシャルがある長根型のダイズ品種の開発が可能となる。
- 本研究で明らかとなった遺伝子座の効果は水耕条件下で得られたものであるため、圃場や様々な環境ストレス条件下で遺伝子座の効果を検証する必要がある。
具体的データ
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図1 短根型ダイズ品種「K099」と長根型品種「Fendou 16」の交雑から育成した組換え自殖系統集団(n = 103)において第16番染色体に検出された主根長QTL
A:「Fendou 16」と「K099」の根長の比較。B:主根長QTLの第16番染色体に座乗する位置および連鎖しているかどうかを統計学的に推定するためのLOD値。 -
図2 qRL16.1の準同質遺伝子系統を用いたQTL効果の確認
NILs-F:「Fendou 16」遺伝子型;NILs-K:「K099」遺伝子型。
**: p < 0.01。図はChen et al., 2021より改変(転載・改変許諾済)
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 研究期間
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FY 2016–2020
- 研究担当者
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許 東河 ( 生物資源・利用領域 )
Chen Hutao ( 中国江蘇省農業科学院 )
Kumawat Giriraj ( ICAR-インド大豆研究所 )
Yan Yongliang ( 中国新疆農業科学院 )
Fan Baojie ( 中国河北省農林科学院 )
- ほか
- 発表論文等
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Chen H et al. (2021) BMC Genomics, 22:132https://doi.org/10.1186/s12864-021-07445-0
- 日本語PDF
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2021_B01_ja.pdf277.89 KB
- English PDF
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2021_B01_en.pdf165.52 KB
- ポスターPDF
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2021_B01_poster.pdf246.21 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。