主要普及成果
イネいもち病防除のための国際判別システム
アジアおよびアフリカで得られたイネいもち病菌菌系の病原性およびイネ遺伝資源の抵抗性に関する遺伝的変異の情報をもとに開発した国際判別システムは、いもち病抵抗性品種の開発や防除に活用できる。
背景・ねらい
いもち病はイネが栽培されるすべての地域で発生する重要な越境性病害であり、抵抗性品種の利用は有効な防除技術の一つである。イネいもち病菌菌系の病原性やイネ遺伝資源の抵抗性遺伝子の効果を評価できる判別システムは、抵抗性品種の育成や発生防除にとって不可欠な道具であるが保有する国は少ない。このためアジア、アフリカのいもち病害を引き起こす菌レース(病原性の異なる菌系)やイネ品種の抵抗性変異を明らかにしつつ、判別システムの開発途上地域での開発・普及を図ることにより、地域ごとあるいは国際的な防除技術開発のための基盤を確保する。成果の内容・特徴
- 国際農研がアジア、アフリカから収集し選定した国際標準判別いもち病菌菌系群、判別品種群は、ともに国際判別システムを構成し、イネ品種の抵抗性遺伝子や抵抗性、いもち病菌菌系の病原性の評価を一元的に行うことを可能とし、国際基準とすることができる(表1)。
- 判別システムでは、菌系の病原性や品種の抵抗性遺伝子をこの反応パターンから推定し、いもち病抵抗性品種や防除技術開発に活用できる。
- インドネシア、フィリピン、ベトナム、ラオス、バングラデシュでも、標準判別いもち病菌菌系群が選定されており、独自の判別システムを保有しそれぞれで利用できる。
- 中国産日本型の感受性品種「Lijiangxintuanheigu(LTH)」の遺伝的背景に一つの抵抗性遺伝子だけを導入した25種の判別品種群を共通材料として用いることにより、各国のいもち病菌レースの変異や世界的規模での多様性の解明が可能である(図1)。
- 例えば、いもち病菌レースの多様性は日本で小さく、中国南部(雲南省)からバングラデシュの地域で最も大きく、それはイネ遺伝資源の抵抗性変異に対応している(図1)。
- この様ないもち病菌レースの分布は、品種の抵抗性や特定の抵抗性遺伝子が利用されている栽培生態型と対応関係があり、遺伝子対遺伝子説で説明できる。
成果の活用面・留意点
- 国際判別システムの利用により真性および圃場抵抗性遺伝子などの正確な効果の評価が可能になり、それらの効果的な利用法が明らかとなる。いもち病防除技術開発のための基盤が確保でき、抵抗性品種の利用を含む適切な防除を通じて、アジア、アフリカに限らず他の地域においても、農薬使用を低減した環境調和型農業に貢献できる。
- 各国・地域で育種・植物病理学研究の利用のためには、植物防疫上の制約により、国際判別システムとは別に、独自の標準判別いもち病菌菌系群の選定とシステムの開発が必要である。
- 国際標準判別いもち病菌菌系は、広く多様な病原性をもつものを日本、フィリピン、バングラデシュ、ベニン、ナイジェリア、ラオス、インドネシア、中国産から選定されたが、各国のものも含めて菌系の病原性の確認を定期的に行う必要がある。
具体的データ
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表1 イネいもち病国際判別システム
国際判別システムは25の判別品種(横)と53の標準判別いもち病菌菌系(縦、一部省略)で構成される。選抜した国際標準選抜いもち病菌菌系は、Hayashi and Fukuta (2009)による病原性に基づいたレース名として表示した。
S:病原性(感受性)、M:中間型、R:非病原性(抵抗性) -
地域により頻度が異なり、多様な変異が認められる。バングラデシュや西アフリカでは病原性を示す菌系の頻度は高い。
- Affiliation
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国際農研 熱帯・島嶼研究拠点
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 病害虫防除
交付金 » アフリカ食料
- 研究期間
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2020年度(2016~2020年度)
- 研究担当者
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福田 善通 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
斎藤 大樹 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
小原 実広 ( 生物資源・利用領域 )
柳原 誠司 ( 生物資源・利用領域 )
見える化ID: 001780林 長生 ( 農研機構 生物機能利用研究部門 )
科研費研究者番号: 90391557 - ほか
- 発表論文等
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Kawasaki-Tanaka et al. (2016) Plant Dis., 100:816-823https://doi.org/10.1094/PDIS-04-15-0442-REKhan et al. (2016) Plant Dis., 100:2025-2033https://doi.org/10.1094/PDIS-12-15-1486-REKhan et al. (2017) Breed. Sci., 67:493-499https://doi.org/10.1270/jsbbs.17039Odjo et al. (2017) Breed. Sci., 67:500-508https://doi.org/10.1270/jsbbs.17051Fukuta et al. (2019) Plant Dis., 103:3181-3188https://doi.org/10.1094/PDIS-04-19-0870-REFukuta et al. (2019) Breed. Sci., 69:672-679https://doi.org/10.1270/jsbbs.19065Nguyen et al. (2020) Plant Dis. 104:381-387https://doi.org/10.1094/PDIS-05-19-1008-REXangsayasane et al. (2020) Plant Health Prog., 21:248-255https://doi.org/10.1094/PHP-05-20-0041-RSOrn et al. (2020) Breeding Sciencehttps://doi.org/10.1270/jsbbs.20052Santoso et al. Plant Dis. 105:675-683https://doi.org/10.1094/PDIS-05-20-0949-RE
- 日本語PDF
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- English PDF
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- ポスターPDF
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※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。