オイルパーム古⽊中の遊離糖及びデンプン量を決定する要因を同定

要約

オイルパーム古木中の遊離糖及びデンプン蓄積量の季節変動は積算温度に最も強く調節されている。気温と降水量を観測することでバイオマス資源として利用するオイルパーム古木の伐採適期が把握できる。

背景・ねらい

パーム油は世界で産出される植物油の約40%を占めており、その85%がマレーシアとインドネシアの2カ国で生産されている。さらに、オイルパーム古木中に含まれる樹液はバイオ燃料の良質な資源となり、樹液の糖度は古木中のデンプン量に依存する(平成27年度国際農林水産業研究成果情報C07)。オイルパームの栽培は赤道直下の熱帯地方のみに限定されており、高温や降水量の低下による強い水ストレスがパーム果房の生産性に影響を与え、季節変動をもたらすと考えられてきた。そこで、光合成産物である遊離糖及びデンプンの中間貯蔵先である幹と最終的な貯蔵先であるパーム果房量について気温や降水量との関係性を解析し、パーム古木から高糖度の樹液を得るための遊離糖及びデンプン蓄積に影響を及ぼす環境要因を解明する。

成果の内容・特徴

  1. パーム果房の容積は10月頃から増加し、5月頃に最大となり、その後、成熟パーム果実が落下する。果房容積の少ない時期にパーム古木中の遊離糖の増加が見られるが、デンプン量の増加は明瞭ではない(図1)。この幹中の遊離糖とパーム果房容積との間の強い因果関係は経験的動態モデリングでのConvergent Cross Mapping(CCM)※を用いて確認した。
  2. さらにCCMによると、観測日より約60日遡って積算した温度(以下、積算温度)からパーム古木中の遊離糖及びデンプンへは約半年のタイムラグで強い因果関係があり、パーム果房生産への因果関係はない。同様に約60日遡って積算した降水量(以下、積算降水量)とパーム古木の遊離糖やデンプンにはほぼタイムラグなしで強い因果がある(図2)。
  3. 以上の結果は、パーム古木中の遊離糖及びデンプン量蓄積にもっとも影響を及ぼす要因は温度変化であり、次に降水量であることを示唆する。
  4. 気温や降水量といった環境要因がパーム古木の遊離糖及びデンプン量に与える影響の分析結果によると、本解析を実施したマレー半島北部では積算温度が高い時期の約半年後で、積算降水量が多い10月~12月にパーム古木の遊離糖やデンプン量が増加する。
    ※CCM:非線形な挙動を示す時系列現象について、要因相互の因果関係を定量化する解析手法

成果の活用面・留意点

  1. 積算温度と積算降水量から伐採適期を導き、遊離糖やデンプン量が高い古木を収集することができる。
  2. 本成果はマレーシア国ペナン州において実施した結果に基づくものであり、異なる環境下の地域に適用する際には強い因果を示す環境要因やタイムラグを確認する必要がある。

具体的データ

  1. 図1 パーム果房の容積(右の写真に示した全組織の合計)と観測日の60日間積算降水量(A)、幹中の遊離糖とデンプン量の変動及び観測日の60日間積算温度(B)図1 パーム果房の容積(右の写真に示した全組織の合計)と観測日の60日間積算降水量(A)、幹中の遊離糖とデンプン量の変動及び観測日の60日間積算温度(B)"

    図1 パーム果房の容積(右の写真に示した全組織の合計)と観測日の60日間積算降水量(A)、幹中の遊離糖とデンプン量の変動及び観測日の60日間積算温度(B)

  2. 図2 経験的動態モデリングによって有意と示された積算温度及び積算雨量からの幹中の遊離糖及びデンプン量と果房容積への因果関係

    図2 経験的動態モデリングによって有意と示された積算温度及び積算雨量からの幹中の遊離糖及びデンプン量と果房容積への因果関係

Affiliation

国際農研 林業領域

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

高付加価値化

予算区分

交付金 » アジアバイオマス

研究期間

2019年度(2016~2020年度)

研究担当者

尚樹 ( 林業領域 )

科研費研究者番号: 90343798

小杉 昭彦 ( 生物資源・利用領域 )

科研費研究者番号: 70425544
見える化ID: 001772

荒井 隆益 ( 生物資源・利用領域 )

見える化ID: 001768

近藤 俊明 ( 生物資源・利用領域 )

科研費研究者番号: 40391106

Abdul Hamid Zubaidah Aimi ( マレーシア理科大学 )

Joseph Natra ( マレーシア理科大学 )

Sulaiman Othman ( マレーシア理科大学 )

佐竹 暁子 ( 九州大学 )

科研費研究者番号: 70506237

ほか
発表論文等

Tani N et al. (2020) Scientific Reports, 10:650

https://doi.org/10.1038/s41598-019-57170-8

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