国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

イネ⽣育に対する⼟壌のリン供給能は室内分光スペクトルから迅速に推定できる

要約

土壌サンプルの室内分光計測で得られた分光反射スペクトルを用いて、土壌からイネへのリン供給能の指標となる酸性シュウ酸塩抽出リン含量を迅速に推定できる。空間変動の大きいマダガスカルの水田や畑のリン供給能の迅速評価に利用できる。

背景・ねらい

リンを強く吸着する鉄酸化物に富む土壌が卓越する熱帯農業生態系において、その低いリン供給能は作物生産を制限する最大の要因である。したがって、生産性向上のための効率的な肥培管理の実現には、生産農家の水田や畑の土壌が持つリン供給能の把握が必要である。そのために、土壌中のリン含量の迅速評価法の確立が求められているが、これまでにリン含量を高い精度で迅速に推定できる手法は確立されていない。そこで、これまでの研究からマダガスカル中央高地の水田や畑においてイネへのリン供給能の指標として有効であることがわかっている土壌の酸性シュウ酸塩抽出リン含量について、その分光スペクトルによる迅速診断法の開発を目指し、高い精度で迅速に推定するモデルの開発と分光波長域を明らかにする。

成果の内容・特徴

  1. マダガスカル中央高地に分布する水田や畑の表層土壌(深さ0–15 cm、51地点)の酸性シュウ酸塩抽出リン含量は、広域だけでなく近接する圃場間でもばらつきがみられることから(図1:変動係数はそれぞれ0.85と0.45)、圃場ごとのリン供給能を把握するための多点分析を可能にする迅速評価法の確立が必要である。
  2. 携帯型分光放射計(FieldSpec, ASD Inc.)を用いて、上記土壌を対象に、可視・近赤外領域(400–2400 nm)の分光反射スペクトルを暗室内で測定後、一次微分処理を加える。次いで遺伝的アルゴリズム(生命の進化を模した機械学習の一種)による波長選択法を組み込んだ部分的最小二乗回帰(PLS回帰)を行う。このPLSモデルにより、酸性シュウ酸塩抽出リン含量を高い精度と再現性で、迅速に推定できる(図2、図3;測定時間は1サンプルにつき約1分)。
  3. 土壌中の鉄酸化物や有機物などに関連する波長が、酸性シュウ酸塩抽出リン含量の推定に強く関連する(図3)。

成果の活用面・留意点

  1. イネ生産におけるリン供給能の指標となり、空間変動の大きい酸性シュウ酸塩抽出リン含量を、化学分析を経ずに迅速に推定できるため、生産農家は所有する水田や畑のリン欠乏程度を把握し、適切な施肥管理を行うための基礎情報として活用できる。
  2. 携帯型分光放射計は高額であるため、測定には研究機関の協力が必要である。将来的には、特定波長のみを用いた安価な機器による測定法を開発する必要がある。
  3. 土壌のpHが高く、カルシウムと結合したリンが多い土壌や、粘土含量の少ない砂質土壌については、同様の結果が得られるか検証する必要がある。

具体的データ

  1. 図1 酸性シュウ酸塩抽出リン含量の空間変動
    図1 酸性シュウ酸塩抽出リン含量の空間変動
    左はマダガスカル中央高地の半径約100 km内に散在する広域の圃場から採取した土壌試料(n=35)、右は同一村内の圃場から採取した土壌試料(n=16)の酸性シュウ酸塩抽出リン含量の箱ひげ図(Nishigaki et al., 2019)。

  2. 図2 酸性シュウ酸塩抽出リン含量の実測値とPLSモデルによる推定値の関係
    図2 酸性シュウ酸塩抽出リン含量の実測値とPLSモデルによる推定値の関係
    RMSECV:クロスバリデーションによる二乗平均平方根誤差。
    RPD: 回帰モデルの再現性の判定指標。判定基準RPD =1.71–2.42:スクリーニング可能(Kawamura et al., 2019)。

  3. 図3 PLSモデルで選択された波長
    図3 PLSモデルで選択された波長
    赤線:遺伝的アルゴリズムを組み込んだPLSモデルで選択された波長。Fe oxidesが鉄酸化物、CHが有機物の吸収波長(Kawamura et al., 2019)。

所属

国際農研生産環境・畜産領域

国際農研社会科学領域

分類

研究

国名
  • マダガスカル
  • 研究課題

    肥沃度センシング技術と養分欠乏耐性系統の開発を統合したアフリカ稲作における養分利用効率の飛躍的向上

    プログラム名

    農産物安定生産

    予算区分

    受託JST/JICA SATREPS肥沃度センシング技術と養分欠乏耐性系統の開発を統合したアフリカ稲作における養分利用効率の飛躍的向上

    研究期間

    2019年度(2017~2021年度)

    研究担当者
  • 西垣 智弘 (生産環境・畜産領域)
  • 川村 健介 (社会科学領域)
  • 辻本 泰弘 (生産環境・畜産領域)
  • Andriamananjara Andry (アンタナナリボ大学放射線研究所)
  • Rabenarivo Michel (アンタナナリボ大学放射線研究所)
  • Rakotoson Tovohery (アンタナナリボ大学放射線研究所)
  • Razafimbelo Tantely (アンタナナリボ大学放射線研究所)
  • 発表論文等

    Nishigaki T et al. (2019) Plant and Soil, 435(1-2):27-38 https://doi.org/10.1007/s11104-018-3869-1

    Kawamura K et al. (2019) Remote Sensing, 11(5):506 https://doi.org/10.3390/rs11050506

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