国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

養魚ため池の貯留水を雨季水稲と乾季畑作に利用することで収益増が期待される

要約

ラオス中部の中山間農村では、養魚用ため池の貯留水の活用により、雨季初期に水が不足する圃場の初期灌漑と乾季には畑作を行うための補給灌漑が可能になる。養魚に必要な最低水量を維持することで、ため池を養魚と灌漑に併用できる。また4月上旬に貯留水を抜く慣行法よりも、乾季畑作の灌漑に合わせて2月に水を抜く方が利益の増加が見込まれる。

背景・ねらい

ラオス中部・ビエンチャン県北西部N村の水稲作は水供給を天水に依存しており、特に水田域末端の圃場(図1)では雨季初期(水稲移植期)の水不足により移植が遅れるため水稲の収量が低い(平成27年度国際農林水産業研究成果情報C1)。また、乾期には水供給が無いため、水田域の多くで作物栽培が行われていない。この水田域の水源である2河川には6基の養魚用ため池が存在するが、流出口が高い位置にあるために水稲の移植時期にも約8,600m3の水が未利用のまま貯留されている(図2)。一方、水田で作付けが行われていない4月には養魚の収獲のために貯留水が放流されている。現状では未利用のこの貯留水を有効利用した水田域の用水計画を策定し、雨季水稲の適期移植のための初期灌漑と、乾期の畑作のための補給灌漑の可能性を検討する。

成果の内容・特徴

  1. ため池の貯留水は、水田域の末端圃場(図1)における水稲移植前の灌漑(初期灌漑:7月上旬)と水田域上流側の圃場におけるダイズ作の補給灌漑(12月~2月、計4回)に使用する。
  2. 養魚を行いつつ貯留水を灌漑利用し、従来通り4月上旬に水を抜く場合(Case 1)、養殖を行いつつ灌漑利用し、乾季畑作の灌漑に合わせて2月に水を抜く場合(Case 2)、養魚を行わずに全ての貯留水を灌漑に利用する場合(Case 3)の3例の用水計画について水収支計算を行い、灌漑可能面積を計算する(図3)。Case 1とCase 2では、灌漑時にも養魚に必要な最低水深(深さ50 cm)を維持できる貯留水を残して取水するよう計画する。
  3. 雨季の初期灌漑の可能面積は、Case 1と2が10.40 ha、Case 3が10.95 haであり、ため池の貯留水を利用することにより末端圃場(14.1 ha)の約75%で適期移植が可能になる。また乾季のダイズ作の灌漑可能面積はCase 1で17 ha、Case 2で37 ha、Case 3で52 haとなる(表1)。
  4. Case 2では養魚期間の短縮を補うための給餌代、Case 3では養魚の休業補償費を見込む。灌漑で得られる米とダイズの販売収入、養魚による収入と支出を試算すると、Case 1~3で現状(灌漑の未実施)から収益増が見込める(表1)。動物性タンパク質の供給源確保の点から養魚の維持(Case1, 2)が望ましい(表1)。

成果の活用面・留意点

  1. ため池を養魚と灌漑に併用し、Case 2の用水管理を行うことにより、ラオス中山間地の農村において貴重なタンパク源である養魚を行いつつ、農業生産性を向上することが期待できる。
  2. 本成果は、N村と同様に雨季の水稲作と養魚を行っているラオス中北部の農山村に適用できるが、灌漑可能面積は対象地の水資源、土地利用の状況などを考慮し算定する必要がある。
  3. 動力ポンプやサイフォンなどの揚水機材が必要となる場合は資材の調達および燃料などの費用負担が必要になる。

具体的データ

  1. 図1 N村の河川AとBの流域概要図1 N村の河川AとBの流域概要
    図1 N村の河川AとBの流域概要図1 N村の河川AとBの流域概要
    水田下流側の末端圃場(14.1 ha)では、雨季初期における水の不足により水稲の移植が遅れる。

  2. 図2 養魚用ため池(B2)の様子
    図2 養魚用ため池(B2)の様子
    ため池の流出口の位置が高く、貯留水の多くが流出せずに残っている。

  3. 図3 養魚用ため池を利用した用水計画
    ・Case 1, 2では、灌漑時に魚の生存に必要な最低水深(50 cm)を維持する。
    ・Case 1では4月にポンプで水を抜き、魚を収獲する。
    ・Case 2では4回目の補給灌漑に合せてポンプで水を抜き、魚を収獲する。

  4. 表1 灌漑可能面積および灌漑の実施により見込まれる現状からの増収の試算
    用水計画 灌漑可能面積
     (ha)
       
    ダイズ生産量
     (ton) d
    (b×1.4 ton ha-1)
      灌漑により得られる利益 (1,000 KIP)
     
    収量
    (ton ha-1)
    増収量 (ton) c
    (a×(3.9-2.2) ton ha-1)
       
    総収入 e
    (c×2,500 KIP kg-1

    d×8,000 KIP kg-1)
      補填費
    f
      純利益
    e-f
    初期灌漑 a 補給灌漑 b          
    現状 灌漑を行っていない   2.2 0   0   -   -   0
    Case 1 10.40   3.17   3.9 17.68   4.44   79,704   0   79,704
    Case 2 10.40   3.37   3.9 17.68   4.72   81,944   720   81,224
    Case 3 10.95   3.52   3.9 18.62   4.92   85,850   6,108   79,742
    (注1)Ikeura et al. 2016を参照し、末端圃場にて適期移植により米収量が2.2 ton ha-1から3.9 ton ha-1に増加、(注2)灌漑によりラオスのダイズの平均単収(1.4 ton ha-1)が収穫できるものとする。(注3)米とダイズの単価は2015年の聞き取りによる。また、Case 2では給餌費を、Case 3では休業補償として養魚で見込まれる純利益を貯水池所有者に補填する。10,000 KIPは133円(2018年12月6日時点)。
所属

国際農研農村開発領域

分類

研究

国名
  • ラオス
  • 予算区分

    交付金インドシナ農山村

    研究期間

    2018年度(2014~2016年度)

    研究担当者
  • 安西 俊彦 (農村開発領域)
  • 池浦 (農村開発領域)
  • Chomxaythong Amphone (ラオス国立大学)
  • Keokhamphui Khaykeo (ラオス国立大学)
  • Inkhamseng Somphone (ラオス国立大学)
  • 藤巻 晴行 (鳥取大学乾燥地研究センター)
  • 発表論文等

    Anzai T et al. (2018) Paddy and Water Environment DOI: 10.1007/s10333-018-00685-z

    安西ら (2017) 日本雨水水資源化システム学会誌 23(1):51-58

    池浦ら (2017) 農業農村工学会論文集304(85-1):II_25-II_33 DOI: 10.11408/jsidre.85.II_25

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