国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

人工気象器を用いたダイズの省スペース・低コスト高速世代促進技術

要約

閉鎖環境栽培で昼間に不足しがちなCO2を補充できる人工気象器を用い、未熟種子を利用して、適切な光・温度条件のもとでダイズを栽培することにより、年間5世代の交配を伴う世代促進が可能である。

背景・ねらい

ダイズは油やタンパク源として、世界的に重要な作物である。近年の気候変動下における食料および栄養の安定供給を実現するために、収量性の高いダイズや干ばつなどのストレスに対して強いダイズの開発が期待されている。これらの品種開発において、交配による有用遺伝子の集積や背景遺伝子の除去、次世代種子の増殖が必須である。しかしながら、ダイズの開花や交配効率は生育環境の影響を受けやすいため、圃場や温室では作業時期が限られており、交配効率の安定性も低い。また、ダイズは生育期間が長く、栽培スペースも大きいため、種子の準備に多大な労力と時間を必要とする。本研究では、コンパクトな人工気象器において、交配が可能な健全な生育を維持しつつ栽培期間を大幅に短縮できるダイズの世代促進技術の開発を行う。

成果の内容・特徴

  1. 人工気象器内で、光・温度条件を調整(明期30℃ 14時間/暗期25℃ 10時間)することより、ダイズ(エンレイ)の開花までの期間(圃場では33-59日)を、25日に短縮することができる。さらに、未熟種子の利用により、開花から登熟までの期間(圃場では65-92日)を、45日に短縮することができる。これにより、1世代に要するダイズの栽培期間(圃場では102-132日)が70日に短縮される。これまで、圃場や温室において年に1〜2回しか世代を回すことができなかったが、本法により、年に5回世代促進することが可能になる(図1)。
  2. 人工気象器内のCO2濃度は、ダイズの光合成が活発になる昼間(明期)では、CO2濃度が200 ppm程度まで低下する(図2)。大気濃度(400 ppm)を下回らないようにCO2を補充することにより(図2)、CO2補充無条件に比べて、開花期のダイズのバイオマスが約2倍以上増加し(図3A)、健全な花数が約3倍増加する(図3)。
  3. 人工気象器で栽培したダイズの花(図4)は、交配に適しており、交配効率(交配を行った蕾総数に対して、結莢かつ交配が成功した蕾数の割合)は、約75%である(図4)。
  4. 栽培地域や草型が異なるダイズ品種(Williams 82やBR 16)においても、人工気象器において、CO2補充および光・温度条件を調整(明期30℃ 10時間/暗期25℃ 14時間)することにより、良好な生育を維持し、開花までの日数を短縮することができる。
  5. 植物の栽培で広く利用されている人工気象器および一般的な蛍光灯(最大光量220 µmol /m2 /s程度)を利用した本技術は、低コストで汎用性が高い。

成果の活用面・留意点

  1. 省スペースかつ低コストで、季節や天候に左右されないダイズの世代促進技術は、従来の育種の加速化に加えて、次世代分子育種技術を含む多様な作物開発の加速化に利用できる。
  2. 本研究で示した3品種の条件をもとに、品種特性に合わせて光・温度条件を調整することにより、多くのダイズ品種に本技術が適用できると考えられる。

具体的データ

  1. 図1 開発した技術により年5回のダイズの世代促進が可能になる
    図1 開発した技術により年5回のダイズの世代促進が可能になる

  2. 図2 ダイズ栽培時における人工気象器内のCO2濃度は、昼間(明期)に著しく低下する
    図2 ダイズ栽培時における人工気象器内のCO2濃度は、昼間(明期)に著しく低下する
    播種後50日目のダイズ栽培条件における、人工気象器内のCO2濃度の日周変動(10分間隔で測定)を示す。

  3. 図3 人工気象器内へのCO2の補充によりダイズの生育が向上し、花数が増加する
    図3 人工気象器内へのCO2の補充によりダイズの生育が向上し、花数が増加する
    写真は播種後31日目のダイズの生育の様子。グラフは播種後31日目の個体あたりの乾燥葉重量と、開花開始後5日間の健全な花数を示す。
    (n = 4, Bar = SD. **p < 0.01)

  4. 図4 CO2補充人工気象器栽培ダイズの花は交配に適している
    図4 CO2補充人工気象器栽培ダイズの花は交配に適している
    写真はCO2を補充した人工気象器で栽培したダイズの花(上段)と蕾(下段)の様子。グラフは交配した蕾の結莢率、結莢後の結実率、採取種子の交配成功率を示す。(n = 36, Bar = SD)

所属

国際農研生物資源・利用領域

分類

研究

研究プロジェクト

不良環境に適応可能な作物開発技術の開発(不良環境耐性作物開発)

プログラム名

農産物安定生産

予算区分

交付金不良環境耐性作物開発

研究期間

2018年度(2016~2020年度)

研究担当者
  • 永利 友佳理 (生物資源・利用領域)
  • 藤田 泰成 (生物資源・利用領域)
  • 発表論文等

    Nagatoshi Y and Fujita Y (2019) Plant Cell Physiol, 60:77-84 DOI: 10.1093/pcp/pcy189

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