沖縄の秋播栽培と北海道の春播栽培を組合せた小麦世代促進の早生化効果
沖縄の秋播栽培、北海道の春播栽培および暖地・温暖地の秋播栽培における出穂早晩性は、それぞれPpd・Vrn遺伝子型、Vrn遺伝子型およびPpd遺伝子型と密接に関係する。沖縄の秋播栽培と北海道の春播栽培を組合せた小麦世代促進は、暖地・温暖地で晩生を示す日長感受性個体を雑種集団から淘汰する効果を持つ。
背景・ねらい
国内の暖地・温暖地における小麦育種において、早熟化は梅雨による穂発芽被害を回避する上で重要である。一方、近年、品質や収量の向上のために、交配親として外国品種など遠縁の品種の利用が増加している。特に遺伝的組成が大きく異なる交配組合せの場合、出穂の変異が大きく、固定するのに長年を要する。したがって、早生化効果を持つ効率的な世代促進法の確立が望まれている。国内の小麦育種機関では1970年代より沖縄の秋播栽培と北海道の春播栽培を組合せた世代促進を実施している。しかし、この世代促進が雑種集団の出穂特性に及ぼす影響は十分に明らかにされていない。そこで、沖縄の石垣(24°N)、北海道の芽室(42°N)、暖地・温暖地の代表としての福山(34°N)における出穂早晩性とPpd(日長反応性遺伝子)およびVrn(春化反応性遺伝子)遺伝子型との関係を調査するとともに、石垣の秋播栽培と芽室の春播栽培を組合せた世代促進における雑種集団のPpdおよびVrn遺伝子型の頻度の変化ならびに早生および晩生個体の頻度の変化を解析する。
成果の内容・特徴
- 石垣の秋播栽培における出穂早晩性は、PpdおよびVrn遺伝子型と密接に関係し(Ppd-S Ppd-F<Ppd-S<Ppd欠、Vrn-A1<Vrn-D1<Vrn欠)、日長感受性品種と秋播型品種は晩生となる(表1)。
- 芽室の春播栽培における出穂早晩性は、Ppd遺伝子型とは関係なく、Vrn遺伝子型と密接に関係し(Vrn-A1≒Vrn-D1<Vrn欠)、秋播型品種は晩生となる(表1)。
- 福山の秋播栽培における出穂早晩性は、Vrn遺伝子型とは関係なく、Ppd遺伝子型と密接に関係し(Ppd-S Ppd-F<Ppd-S<Ppd欠)、日長感受性品種は晩生となる(表1)。
- 石垣における雑種集団の秋播栽培では、日長感受性個体と秋播型個体が淘汰される(表2AB)。一方、芽室における雑種集団の春播栽培では、秋播型個体のみ淘汰される(表2AB)。
- 世代促進集団と標準集団の福山における出穂日の違いはPpd遺伝子型に変異のある集団でのみ見られ、世代促進集団は標準集団より晩生個体が有意に少ない(図1AB)。これは、石垣の秋播栽培と芽室の春播栽培による世代促進栽培で日長感受性の晩生個体が淘汰されたためである。
成果の活用面・留意点
- この世代促進法は暖地・温暖地の春播型早生小麦の育種に有効である。
- 遺伝的組成が大きく異なる交配組合せの場合、固定度および晩生淘汰効果を考慮すると、F2石垣、F3芽室、F4石垣、F5芽室の2年4世代の世代促進がより効果的であると考えられる。
- 石垣の秋播栽培は北海道の春播栽培に適さない秋播型個体を淘汰する効果を持つため、北海道の春播小麦育種の世代促進としても有効である。ただし、北海道の春播栽培に適する日長感受性個体を淘汰しないためには、長日処理が必要である(表1の石垣L)。
具体的データ
- Affiliation
-
国際農研 沖縄支所
- 分類
-
研究
- 予算区分
- 受託研究〔21世紀プロ・ブランドニッポン〕 基盤〔小麦世促〕
- 研究課題
-
世代促進の利用による早生化選抜技術の開発
小麦の世代促進における出穂特性の変異固定技術の開発
- 研究期間
-
2005年度(2002~2005年度)
- 研究担当者
-
谷尾 昌彦 ( 沖縄支所 )
田村 泰章 ( 沖縄支所 )
佐藤 光徳 ( 沖縄支所 )
高木 洋子 ( 沖縄支所 )
松岡 誠 ( 農林水産省農林水産技術会議事務局 )
田引 正 ( 農研機構 北海道農業研究センター )
西尾 善太 ( 農研機構 北海道農業研究センター )
乙部 千雅子 ( 農研機構 作物研究所 )
石川 直幸 ( 農研機構 近畿中国四国農業研究センター )
平 将人 ( 九州農業試験場 )
波多野 哲也 ( 九州農業試験場 )
荒木 和哉 ( 北見農業試験場 )
中道 浩司 ( 北見農業試験場 )
加藤 鎌司 ( 岡山大学 )
- ほか
- 発表論文等
-
谷尾昌彦・田村泰章・松岡誠(2003): 亜熱帯気候における小麦の出穂早晩性の遺伝的要因.育種学研究第5巻別号1,116.
谷尾昌彦・田村泰章・佐藤光徳・荒木和哉・西尾善太・乙部千雅子・石川直幸・平将人・波多野哲也・松岡誠 (2004): 小麦の出穂早晩性に影響する遺伝的要因の地域間差異.育種学研究第6巻別号1,135.
Tanio,M., Kato,K., Ishikawa,N., Tamura,Y., Sato,M., Takagi,H. and Matsuoka,M. (2005): Genetic analysis of photoperiod response in wheat and its relation with the earliness of heading in the southwestern part of Japan. Breeding Science 55: 327-334.
- 日本語PDF
-
2005_seikajouhou_A4_ja_Part18.pdf455.26 KB