イネ雑種集団内の穂いもち圃場抵抗性弱個体を淘汰する世代促進技術
多肥栽培、スプリンクラーによる毎朝夕の散水、風除けの設置により、沖縄支所内の圃場で従来の世代促進栽培より穂いもちを安定して発病させることができ、雑種集団内の穂いもち圃場抵抗性弱個体を淘汰できる。
背景・ねらい
穂いもちはイネの収量や品質を低下させるため、その抵抗性品種の効率的な育成が求められている。世代促進の間に雑種集団内の穂いもち圃場抵抗性弱の個体を淘汰し、次世代で穂いもち圃場抵抗性の強い個体の割合を高めることができれば、選抜が効率的になると考えられる。そのため、沖縄支所で実施している世代促進栽培において穂いもちを安定して発病させ、淘汰圧をかける条件を確立する。
成果の内容・特徴
- 沖縄支所で実施している世代促進栽培のうち2作1期(3月上旬播種)の栽培条件(対照区)に次の処理を加えることにより、穂いもちを安定して発病させることができる(表1、図1)。
1)元肥をN成分で2kg/10a多くし、トヨニシキの葉色を葉緑素計値で47程度を維持することを目安として追肥を4~5回行う。
2)移植直後から朝夕1回ずつスプリンクラーで散水(8時30分から9時30分、17時から18時)する。
3)風よけのために圃場の周囲に寒冷紗を設置する(以上を処理区)。
- 処理区の穂いもちの発病程度は、供試した抵抗性弱の品種では2から3段階程度、中から強の品種では1段階程度対照区より高くなる(表2)。
- 処理区の稔実率は穂いもちが発病した品種と雑種集団で対照区より低下する。また、稔実率の低下には品種間差が認められ、穂いもち圃場抵抗性が弱い品種ほど稔実率が低くなる(表2)。
- 雑種集団(奥羽直375号/奥羽366号)を処理区で栽培すると、その後代では穂いもち圃場抵抗性弱の個体の割合が減少する(図2)。
成果の活用面・留意点
- 処理区では多肥栽培になるので、倒伏の恐れがあるときは支柱を立てるなどの倒伏防止策を講じる。
- 2作1期世代促進栽培以外の作期では、現在のところ穂いもちが安定して発病する条件は確立していない。
- 穂いもちの発病は罹病葉を散布しない自然発病である。
- 沖縄支所内における現在のいもち病菌の優占レースは007のため、供試する材料のいもち病真性抵抗性遺伝子型に留意する。
具体的データ
- Affiliation
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国際農研 沖縄支所
- 分類
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研究
- 予算区分
- 基盤 技会プロ[ブランドニッポン]
- 研究課題
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稲の世代促進における穂いもち病変異固定技術の開発
亜熱帯気候を利用した効率的な連続戻し交雑による抵抗性同質遺伝子系統の育成
- 研究期間
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2004年度(2002~2005年度)、2004年度(2003~2005年度)
- 研究担当者
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田村 泰章 ( 沖縄支所 )
佐藤 光徳 ( 沖縄支所 )
谷尾 昌彦 ( 沖縄支所 )
伊敷 弘俊 ( 沖縄支所 )
松岡 誠 ( 農林水産省農林水産技術会議事務局 )
山口 誠之 ( 農研機構 東北農業研究センター )
高木 洋子 ( 沖縄支所 )
- ほか
- 発表論文等
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Tamura,Y., M. Tanio, M. Sato, Efendi, K. Ishiki, H. Takagi and M. Matsuoka.(2004): Development of screening method to eliminate plants with low field resistance to panicle blast from hybrid population during rapid generation advancement. 世界イネ研究会議要旨集, 360
- 日本語PDF
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