インドネシアのパーム油企業が実施するCSR活動を促進する要因
インドネシアのパーム油企業が実施する企業の社会的責任(CSR)活動は、小規模農家に対する農地配分プログラムであるNESの実施により促進される。NESに対する政府支援の強化は、CSR活動の促進にも有効である。
背景・ねらい
インドネシア政府は、1977年から、Nucleus Estate Smallholders(以下「NES」)システムと呼ばれるオイルパームプランテーション開発プログラムを実施している。本プログラムは、企業がプランテーション開発を行う際、開発された農地の一部を小規模農家(以下現地での呼称に従い「プラズマ農家」)に分配することにより、企業が地域社会と開発の利益を共有することを目的としている。近年、パーム企業では、地域コミュニティーとの一層円滑な関係構築のため、NESに加え、企業の社会的責任(CSR)活動に対する関心を高めている。NESの実施は、一義的には企業の利益追求活動であるが、プラズマ農家との協力は企業の地域社会に関する理解を深め、CSR活動を促進することが予測される。このため,インドネシアにおけるパーム油企業の連合会であるGabungan Pengusaha Kelapa Sawit (GAPKI)の会員企業を対象としたアンケート調査を実施し、調査結果を分析することにより、企業のCSR活動を促進する要因を明らかにする。
成果の内容・特徴
- アンケートに回答したGAPKI会員企業132社のうち、ほぼ全社(130社)が何らかのCSR活動を行っている。調査対象とした16種のCSR活動のうち,「インフラ整備」が最も実施企業数が多く(113社),「教育支援」(89社),「CSR担当者の配置」(86社),「環境保全」(76社)がそれに次いでいる(図1)。
- インドネシア農業省のNES実施ガイドラインでは、プラズマ農家に対する「技術指導」、「生産物の買い取り」、「インフラ整備」の実施を企業に求めているが、アンケートに回答したGAPKI会員企業のうち、これらの活動を実施しているのはNESを実施している企業の約7割にとどまっている(図2)。
- アンケート調査結果に基づき、CSR活動実施件数を目的変数とする回帰分析を実施すると、「企業の規模」、「地域コミュニティーとの関係に対する企業の考え方」に加え、「NESシステムの実施状況」が,CSR活動を推進する要因であることがわかる(表1)。
- NESシステムは、施肥の改善と優良種苗の提供を通じて、プラズマ農家のオイルパーム果房収量を改善する(平成26年度国際農林水産業研究成果情報第22号)が、NESシステムの適切な実施は、パーム油企業のCSR活動も促進できる。
成果の活用面・留意点
- NESシステムが発足した当初、政府は補助金によってNESシステムを強く支援していたが、近年は政府の支援が縮小している。NESシステムへの政府の支援を強化する根拠として行政機関が利用できる。
- アンケートに回答した企業が保有するオイルパーム農園面積は全企業の平均に比べ大きく、回答者が大企業に片寄っていることに留意する必要がある。
具体的データ
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図1 パーム油企業のCSR活動実施状況(全132社、複数回答)
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図2 NES実施企業のプラズマ農家に対する支援活動実施状況(全91社、複数回答)
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表1 パーム油企業のCSR活動を規定する要因(回帰分析結果)
- Affiliation
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国際農研 研究戦略室
- 分類
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行政B
- プログラム名
- 予算区分
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科研費 » 基盤研究B
- 科研費
- 研究期間
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2013年度(2011-2013年度)
- 研究担当者
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杉野 智英 ( 研究戦略室 )
Mayrowani Henny ( インドネシア農業社会経済政策研究所 )
小林 弘明 ( 千葉大学 )
- ほか
- 発表論文等
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Sugino, T. et al. (2015) Japanese Journal of Rural Economics 17: 18-34
- 日本語PDF
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2015_C10_A4_ja.pdf469.63 KB
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- English PDF
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2015_C10_A4_en.pdf93.76 KB
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- ポスターPDF
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2015_C10_poster.pdf345.75 KB