ラオス産小型魚類2種のDNAマーカーによる遺伝的多様性・集団構造評価
ラオスの遠隔農村部で重要な食料資源となっている小型在来魚類Esomus metallicus(コイ科)とParambassis siamensis(タカサゴイシモチ科)のDNAマーカーが開発され、これにより、ビエンチャン市周辺及びナムグム川西岸における当該2種の遺伝的多様性を評価できる。さらに、集団構造解析による地域的特異性の評価を通じ、集団間の遺伝的交流実態を推量できる。
背景・ねらい
ラオスを含むインドシナ各国の農業水路等の農業関連水塊に、コイ科の在来種Esomus metallicusとタカサゴイシモチ科の在来種Parambassis siamensisは広範囲に分布する。両種とも最大体長60~70 mmと小型種ではあるが、遠隔農村部で重要な食料資源となっている。しかし、近年の外来種の侵入・定着、あるいは農村開発等による環境の変化は両種の生息をも脅かす可能性があり、資源量の減耗に伴う多様性レベルの減少や近親交配等が懸念されている。そこで、同2種のDNAマーカーを開発し、遺伝的多様性レベル・集団構造を評価する。
成果の内容・特徴
- E. metallicusで24個、P. siamensisで40個のDNAマーカーを開発し、各マーカーの塩基配列を日本DNAデータバンクに登録した(図1)。
- これらのDNAマーカーを用いて、ビエンチャン市内2地点及びナムグム川西岸4地点から採取した両種の遺伝的多様性レベル(対立遺伝子数とヘテロ結合度から評価)を解析し、同2種は高い遺伝的多様性を持つと評価され(図2)、開発マーカーの評価ツールとして有効である。
- 個体ごとの対立遺伝子数とヘテロ接合度のクラスター分析の結果、同域内では、E. metallicusで3つ、P. siamensisで2つの遺伝集団が存在し、これらは地域ごとに異なる(図3)。
成果の活用面・留意点
- 両種の広域にわたる各地個体群の遺伝的多様性・集団構造解析を進めることにより、地域ごとの個体群の遺伝的健全性を評価でき、さらに、移動・繁殖に伴う集団間の交流実態について推量できる(図4)。
- 本手法により、個体群の遺伝的多様性が乏しいと判断された場合、当該種の資源生態調査(成長・繁殖解析等)を実施し、その結果に基づき、永続的な食料資源確保に向けての漁業規制案の提言を行う必要がある(図4)。
- 上記2種にとどまらず、DNAマーカーの開発を通じ、希少種を含むその他の在来魚種、さらには養殖対象魚種についても、遺伝的多様性を解析することで、各種の遺伝的な健全性を評価することができ、漁業・養殖両面でのマネジメントが可能となり、保全・持続的利用の両面に資する技術である。
具体的データ
-
図1 対象2魚種と開発されたDNAマーカーの登録番号
-
図2 推定された両種の遺伝的多様性レベル
-
図3 Esomus metallicus (左)及びParambassis siamensis(右)の遺伝的集団構造(各個体群の標本数は32個体)
-
図4 資源保全・持続的活用のためのDNAマーカーの適用意義
- 所属
-
国際農研 水産領域
- 分類
-
研究B
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
-
交付金 » インドシナ農山村
- 研究期間
-
2013年度(2011~2015年度)
- 研究担当者
-
森岡 伸介 ( 水産領域 )
科研費研究者番号: 40455259小出水 規行 ( 農研機構 農村工学研究所 )
科研費研究者番号: 60301222Vongvichith Bounsong ( ラオス水生生物研究センター )
- ほか
- 発表論文等
-
Koizumi, N. et al. (2012) Conservation Genetics Resources, 4: 1027-1030.
Koizumi, N. et al. (2012) Conservation Genetics Resources, 4: 1031-1035.
Koizumi, N. et al. (2012) PAWEES 2012.
- 日本語PDF
-
2013_C01_A3_ja.pdf223.16 KB
2013_C01_A4_ja.pdf381.34 KB
- English PDF
-
2013_C01_A3_en.pdf166.79 KB
2013_C01_A4_en.pdf790.66 KB
- ポスターPDF
-
2013_C01_poster.pdf365.37 KB