国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

新規硝化抑制剤としての脂肪酸および脂肪酸メチルエステルの同定

要約

各種脂質のうち脂肪酸のリノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、および脂肪酸エステルであるリノール酸メチルはある種の土壌微生物の働きによるアンモニアから硝酸が生成される過程、すなわち硝化(硝酸化成)を強く抑制する。リノール酸メチルは、α-リノレン酸やリノール酸よりも硝化抑制活性が強く、残効性も長い。

背景・ねらい

ある種の土壌微生物の働きによるアンモニアから硝酸が生成される過程、すなわち硝化(硝酸化成)は、農業や園芸などの生産に用いる窒素肥料の大幅な損失を引き起こし、土壌環境汚染の原因ともなっている。このような土壌の硝化を抑制するため、従来、主にニトラピリン(2-クロロ-6-トリクロロメチルピリジン)やジシアンジアミド等の合成硝化抑制剤が用いられてきた。これらのうち、ニトラピリンは揮発性が高く、地温が20°C以上の条件ではほとんど効果がないため、北米の冬季作等、限られた環境でのみ使用可能であった。一方、ジシアンジアミドは、ニトラピリンに比較して高い温度でも有効であるが、使用濃度が高く、かつ高価であることから農業生産コストに大きく影響するため、利用されている地域は限られている。また、これらの使用は安全性の面で懸念がある。このような背景から、熱帯から温帯にかけての広い地域で利用可能であり、経済的で安全な硝化抑制剤の開発が求められている。

成果の内容・特徴

  1. 各種脂質のうち脂肪酸のリノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、および脂肪酸エステルであるリノール酸メチルは、硝化細菌Nitrrosomonas europaeaの代謝活性を強く阻害する。上記4物質の活性阻害率は20 ppmの濃度で95%である(図1、2)。
  2. 他の脂肪酸のステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキドン酸、そして脂肪酸エステルのリノール酸エチル、α-リノレン酸メチルでは阻害活性はみられない。
  3. リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、リノール酸メチルの80%阻害濃度(ED80)は、それぞれ16、12、16、8 ppmである。なお、合成硝化抑制剤であるニトラピンは4 ppmであり、ジシアンジアミドは185 ppmである。
  4. リノール酸、α-リノレン酸、リノール酸メチルは土壌中でのアンモニアからの硝酸の生成、すなわち硝化を強く抑制する(図3)。α-リノレン酸とリノール酸メチルは、リノール酸よりも硝化抑制活性が強く、残効性も長い。特に、リノール酸メチルは、硝化抑制する能力が高い。

成果の活用面・留意点

  1. リノール酸、α-リノレン酸、リノール酸メチルは、室内試験で土壌中の硝化を抑制することから、ジシアンジアミド等に代わる硝化抑制剤として実用化が期待できる。
  2. リノール酸、α-リノレン酸、リノール酸メチルの圃場レベルでの硝化抑制効果は未検討であることから、今後、実験によりその確認が必要である。

具体的データ

  1. 図1 各種脂肪酸および脂肪酸エステル(囲みのある物質に活性あり)
    図1 各種脂肪酸および脂肪酸エステル(囲みのある物質に活性あり)
  2. 図2 各物質の濃度と硝化細菌 Nitrosomonas europaes の活性阻害との関係
    図2 各物質の濃度と硝化細菌 Nitrosomonas europaes の活性阻害との関係
  3. 図3 各物質添加土壌での硝酸態窒素濃度の経時的変化(室内試験)
    図3 各物質添加土壌での硝酸態窒素濃度の経時的変化(室内試験)
    ニトラビンの添加濃度4.5ppm、その他の添加濃度1000ppm、硫酸アンモニウム濃度 Nとして200ppm、培養温度20°C
所属

国際農研生産環境・畜産領域

分類

研究A

プログラム名

資源環境管理

予算区分

交付金硝化抑制

研究期間

2006~2007年度(2006~2010年度)

研究担当者
  • Subbarao Guntur Venkata (生産環境・畜産領域)
  • 中原 和彦 (生物資源・利用領域)
  • 石川 隆之 (生産環境・畜産領域)
  • 吉橋 (生産環境・畜産領域)
  • 小野 裕嗣 (農研機構 食品総合研究所)
  • 亀山 眞由美 (農研機構 食品総合研究所)
  • 吉田 (農研機構 食品総合研究所)
  • 発表論文等

    Subbarao, G. V. et al. (2008) Plant and Soil, 313: 89-99https://doi.org/ 10.1007/s11104-008-9682-5

    特許第5067520号、発明の名称「土壌の硝化抑制方法」(登録日 平成24年8月24日) https://patents.google.com/patent/JP5067520B2

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