トウモロコシの生物的硝化抑制(BNI)の鍵となる物質を同定

関連プロジェクト
BNIシステム
要約

BNI活性を有するトウモロコシ根分泌物の親水性画分から見出されるMBOAは硝化菌の増殖を抑制し、土壌由来の硝酸発生量を減少させる。トウモロコシ根が産生するベンゾキサジノイド類は土壌中で最終的にMBOAに変換されることから、MBOAはトウモロコシの強力なBNI活性物質である。

背景・ねらい

近代農業は、工業生産された窒素を多量投入することで増収を図ってきたが、トウモロコシやコムギなどの農地に施肥された窒素肥料の50%以上は、作物に利用されず農地外へと流出している。この窒素流出の大きな原因は、硝化菌による「硝化」であり、温室効果ガス排出や水質汚染など、窒素損失に起因する様々な問題を引き起こしている。本研究では作物が根から物質を分泌し硝化を抑制する現象「生物的硝化抑制(Biological Nitrification Inhibition=BNI)」に着目している。根の分泌物は水への溶けやすさによって、疎水性と親水性に分類される。水に溶けにくい疎水性BNI物質(令和3年度国際農林水産業研究成果情報A05「トウモロコシ根の生物的硝化抑制(BNI)物質の発見」)は根圏で効果的である一方、親水性物質は水に溶けることで土壌中の広い範囲に分布し、硝化抑制の効果をより強く発揮する。トウモロコシ根由来親水性BNI物質の同定を行うことで、地球に優しく高効率なBNIを活用したトウモロコシ生産システムの確立に繋げる。

 

成果の内容・特徴

  1. トウモロコシを30日間水耕栽培した後、根の親水性分泌物を採取し、BNI活性を持つ親水性画分を得る。BNI活性の強さを指標にし、高速液体クロマトグラフィー (HPLC) による分離・精製により、BNI物質を単離できる。
  2. 同定できるMBOAのBNI活性はED50= 0.76 μM(活性を50%抑制する実効濃度)であり、トウモロコシ根分泌物としてこれまでに報告されたBNI物質よりも強力な作用を持ち、全BNI活性に最も大きく貢献できる(図1)。
  3. MBOAは硝化菌の硝化と増殖を強く抑制する(図2)。
  4. 土壌培養試験において、MBOAの硝化抑制能は土壌添加後(スタート)から4日間確認できたが、培養5日目以降その硝化抑制能は減少する。土壌培養試験中、MBOAの濃度は時間依存的に減少し5日目には検出されないことを見出せる。MBOAの硝化抑制能は土壌微生物によるMBOAの分解に伴い減少することが見出せる(図3)。
  5. トウモロコシのBNIは、3種のBNI物質(疎水性:ゼアノンとHDMBOA、親水性:MBOA)によって発現する。多量に産生される疎水性BNI物質2-hydroxy-4,7-dimethoxy-1,4-benzoxazin-3-one (HDMBOA) は土壌中でより強力なBNI活性を有するMBOAに変換される。この変換は、分解しやすい化学構造を有するベンゾキサジノイド類のHDMBOAがより安定した構造のMBOAに迅速に自動変換される化学反応である。さらに根内部に蓄積したベンゾキサジノイド類のHDMBOA-β-グルコシド (HDMBOAにグルコースが結合した化学構造) も生物(植物・微生物)の糖分解酵素によって高いBNI活性を持つHDMBOAに変換された後、MBOAに化学的に自動変換される。以上のことから、MBOAはトウモロコシのBNIの主要な役割を持つ(図4)。

 

成果の活用面・留意点

  1. 土壌中でMBOA自身も分解される一方で、トウモロコシ根から新たに供給されることから安定的なBNIの発現が期待できる。
  2. 世界で栽培されるトウモロコシのBNI活性はBNI物質を指標に強化することが期待できる。
  3. 品種間におけるBNI物質量の比較やBNI物質の分泌メカニズムの解明、圃場試験などを実施する必要がある。

 

具体的データ

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

環境

予算区分

交付金

研究期間

2021~2023年度

研究担当者

大髙 潤之介 ( 生物資源・利用領域 )

吉橋 ( 生物資源・利用領域 )

科研費研究者番号: 60450269
見える化ID: 001766

Subbarao Guntur Venkata ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 00442723

MingLi Jiang ( 生産環境・畜産領域 )

小野 裕嗣 ( 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) )

科研費研究者番号: 90353995
見える化ID: 3891

ほか
発表論文等

Otaka et al. (2023) Plant and Soil 489: 341–359.
https://doi.org/10.1007/s11104-023-06021-7

日本語PDF

2023_A04_ja.pdf1.17 MB

English PDF

2023_A04_en.pdf628.33 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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