熱帯牧草Brachiaria humidicola の根から分泌する生物的硝化抑制物質ブラキアラクトンの同定
熱帯牧草Brachiaria humidicolaの根から分泌される硝化抑制作用を持つ物質「ブラキアラクトン」を同定した。Brachiaria humidicolaを栽培した圃場の土壌ではアンモニア酸化が抑えられ、土壌からの亜酸化窒素発生が抑制される。
背景・ねらい
土壌中の微生物の働きにより起きるアンモニアの硝化(アンモニアが亜硝酸を経て硝酸へと酸化される反応、図1)は土壌中での窒素循環に重要な役割を果たす一方、農業生産に用いられる窒素肥料の大幅な損失や土壌環境汚染を引き起こす一つの原因ともなっている。また、温室効果ガスである亜酸化窒素の土壌からの放出の一要因でもあることが知られている。ある種の植物が根から硝化を抑制する物質を分泌することを生物的硝化抑制作用(図1)と呼んでおり、熱帯牧草Brachiaria humidicola(BH)を用いてその作用について検討してきた。本研究はこの牧草が持つ生物的硝化抑制機構を明らかにして、本作用を用いた、より窒素利用効率が高く環境負荷の低い栽培体系を確立することを目指したものである。
成果の内容・特徴
- BHが根より分泌する硝化抑制物質をC18逆相クロマトグラフィー等により、遺伝子組み換えアンモニア酸化細菌の発する冷光を指標にして精製した。El massおよび1H、13C、2次元NMR による構造解析の結果、新規環状ジテルペン物質「ブラキアラクトン」(図2)を同定した。本物質は5-8-5員環とγ-ラクトン環を含む構造をとり、この牧草の根分泌液の持つ生物的硝化抑制活性の60~90%に寄与している。さらにブラキアラクトンの分泌量は化学的硝化抑制剤であるニトラピリン換算で年間5.0~14.6kg/haに相当し、土壌中の硝化細菌数や硝化速度に影響を及ぼすのに十分な量である。
- コロンビアにある国際熱帯農業センター(CIAT)において、BH2系統(CIAT-679とCIAT-16888)を3年間栽培したほ場における土壌中の硝化に関連した微生物群集は、同一地区内の裸地や大豆栽培ほ場に比べて1/2以下に減少し(図3のAOA、AOB)、土壌の硝化作用が9割(図3の棒)、亜酸化窒素発生量が6割以上(図4)抑制されることが確認された。
- 以上の結果はBHの根圏における生物的硝化抑制作用を証明するものである。
成果の活用面・留意点
- 本牧草の生物的硝化抑制作用を活かす作付け体系の開発が期待される。
- ブラキアラクトンの生合成機構を解明することにより、生物的硝化抑制能を持たない作物への本作用の付与が可能になる。
具体的データ
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緑字はアンモニア酸化アーキア数(AOA)、アンモニア酸化 細菌数(AOB)を示す(単位:百万コピー / g 乾土)。 大豆はICAP34を用いている。 -
- Affiliation
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国際農研 生物資源領域
- 分類
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研究A
- 予算区分
- 交付金[硝化抑制]
- 研究課題
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生物的硝化抑制作用の解明とその利用
- 研究期間
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2009年度(2006~2010年度)
- 研究担当者
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SUBBARAO Guntur Venkata ( 生物資源領域 )
石川 隆之 ( 生産環境領域 )
中原 和彦 ( 利用加工領域 )
吉橋 忠 ( 利用加工領域 )
伊藤 治 ( 生物資源領域 )
小野 裕嗣 ( 生物資源領域 )
亀山 眞由美 ( 食品総合研究所 )
科研費研究者番号: 80353994吉田 充 ( 食品総合研究所 )
科研費研究者番号: 60353992 - ほか
- 発表論文等
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Subbarao et al. (2009) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 106(41):17302-17307
- 日本語PDF
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2009_seikajouhou_A4_ja_Part6.pdf102.6 KB