酸味が少なく外観良好なパッションフルーツ新品種「サニーシャイン」
- 研究課題
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国内外への展開を目指した熱帯・島嶼研究拠点の戦略的熱帯果樹研究
- プログラム名
- 予算区分
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交付金[目的基礎・戦略的熱帯果樹研究]、交付金[熱帯作物開発]
- 研究期間
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2016年度(2007-2015年度)
- 研究担当者
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緒方達志、山中愼介、高木洋子(国際農研熱帯・島嶼研究拠点)、香西直子(鹿児島大学)、米本仁巳(ヨネトロピック)
- 発表論文等
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- 緒方ら 「サニーシャイン」品種登録出願第30972号(2016年6月28日出願公表)
1. 研究の背景・ねらい
2. 研究の成果の内容・特徴
- 「サニーシャイン」は、非落果性の特性をもつ「JTPF-009」を種子親、果実品質良好な普及品種「サマークイーン」を花粉親とした交配実生から選抜された品種である。平成28年3月28日に品種登録出願し、平成28年6月28日に出願公表された。
- 最盛期の果実重は平均110g程度とやや大果である。果皮色は赤紫色で、「サマークイーン」と比べてつやがあり、外観良好である。
- 果肉歩合は「サマークイーン」よりもやや高い。
- 糖度(Brix)は17~18であり、「サマークイーン」とほぼ同等で高く、甘みが強い。
- 収穫直後の酸度は、収穫最盛期となる高温期(育成地で6月中旬以降)は1.5~2.0%程度と「サマークイーン」よりも0.5%以上低くなり、生食用として適する。
- 既存普及品種の「サマークイーン」や「台農1号」等は高温期に着色不十分な状態で落果する着色不良果が多く発生するが、本品種は高温期でも着色不良果はほとんど発生しない。
3. 追跡評価実施時の状況(令和2年度)
平成28年度主要普及成果「酸味が少なく外観良好なパッションフルーツ新品種『サニーシャイン』」に関する追跡評価を、令和2年7月1日(水)~3日(金)に実施した。外部評価者として、鹿児島大学農学部農業生産科学科 山本雅史教授を招聘した。
追跡評価では、まず国際農林水産業研究センター(国際農研)熱帯・島嶼研究拠点において、サニーシャインの栽培状況を視察し、生育不良等の課題と現在までの検討状況等を確認した。次に、サニーシャインの苗木生産・販売を行う沖縄県南城市の種苗会社及び苗生産業者、同糸満市のパッションフルーツ生産農家を訪問し、聞き取り調査を実施したほか、同島尻郡、糸満市の現地直売所を視察した。
以下に、分析項目ごとに外部評価者のコメントを含めて調査の結果を示す。
4.追跡調査における外部評価者のコメント(外部評価者 鹿児島大学農学部農業生産科学科 山本雅史教授)
①受益者・ターゲットグループの明確性
想定した受益者は、鹿児島県、沖縄県、東京都小笠原村などの生産者組合および農家等である。これらの地域は、日本における主要なパッションフルーツ産地であり、最初のターゲットとしては適切である。今回調査した種苗販売会社、苗生産会社は「サニーシャイン」に関心を持ち、パッションフルーツのウイルス病の感染防止対策なども徹底していた。更に、両社とも生産者との密接な関係を構築していることから、本品種普及拡大の入り口となる受益者として適切であった。
②目標の妥当性
本品種は、これまでのパッションフルーツの欠点であった高温期の着色不良、生産量の低下、強い酸味等の改善を目標に定めて育成されており、生産・流通面のニーズに応える研究成果と判断する。
③内容の有効性
従来のパッションフルーツ主要品種は酸味が強いこと、夏季に着色不足が生じること等の欠点があった。本新品種「サニーシャイン」は、これらの欠点を克服した点で、意義のある成果と言える。
④普及体制や組織の有無・明確性
「サニーシャイン」の販売を担う種苗販売会社と苗生産業者が協力的な関係を保ち、本品種の普及にも前向きである。健全な苗の生産にも関心が高く、喜界島からウイルス・フリー苗を取り寄せるほか、沖縄県の防除センターに毎年ウイルス・フリーの確認を委託するなど、県組織とのつながりもある。一方で、ウイルスの種類や具体的な症状などが明らかになっておらず、国際農研には、それらの解明と種苗販売会社、苗生産会社、農家への情報提供が期待されている。今回、県の普及センター、JAにも面会し、サニーシャインの紹介を行ったが、今後の普及拡大の状況によっては、より一層の協力を求める必要がある。
⑤普及のための外部要因やリスク
以前から生じていたサニーシャインの生育不良がウイルスの影響によるものである可能性が高くなっており、適切なウイルス・フリー処理を行えば、土壌条件を選ばずに栽培が可能と見られることは、本品種を普及する上で朗報である。種苗販売会社、苗生産会社においてウイルス対策が行われていることは確認できたが、農家にもウイルスに対する情報・技術の提供が行われる必要がある。
「サニーシャイン」の強みは盛夏に果実の収穫ができることであり、種苗販売会社と苗生産会社も強い関心を示しているが、本品種がターゲットとする7、8月は沖縄に台風が頻繁に上陸する時期であり、この時期に生産することは営農上リスクが高いことが明らかになった。農家は盛夏の販売よりも、冬季に高値で販売する戦略を取っている。台風時期にどのように栽培するかは、本品種の普及を行う上で、検討が必要である。しかし、パッションフルーツの生産は沖縄県よりも鹿児島県の方が多く、栽培体系も地域によって異なる。種苗会社の販売先は沖縄県だけに限定されるわけでないので、沖縄県以外における普及も考慮すべきである。
⑥波及効果(インパクト)の有無
真夏に生産が可能であり、従来問題であった出荷の落ち込みを解消し、地域の産業・観光業などへのインパクトも大きい。ただし、上記のとおり「サニーシャイン」の収穫・出荷期は、沖縄県においては一般的に農家が台風のリスクを避け栽培を行わない時期であり、そのために栽培管理の困難や、対策のための投資が増加しては逆効果であるため、検討が必要である。
⑦自立発展性の有無
沖縄県においては種苗販売会社、苗生産会社の協力から、健全な苗木の安定生産・供給体制は整っていると判断され、自立発展が期待される。一方で、母樹の提供や、ウイルス対策に対する研究・情報提供で、引き続き国際農研が果たす役割も大きい。また、沖縄県以外の普及については遅れているので、自立発展を目指した普及体制の確立が望まれる。
⑧その他(案件毎に必要な分析項目、改善点)
1年間で約3,000株の苗が販売されたものの、パッションフルーツ農家による導入はほとんどなく、栽培面積を推定し普及を判断するには時期尚早である。
5.総合評価
(1) 普及が拡大または停滞している要因の分析
国際農研における研究の結果、「サニーシャイン」の生育不良は主にウイルスに起因していることが明らかとなり、ウイルス・フリー苗の作出技術が開発された。ウイルス・フリー樹の生育は土壌条件の影響を受け辛いことも解明された。以上のように、普及の停滞要因の分析およびその解決策が明らかになりつつある。
(2) 普及拡大のための改善事項、提言
国際農研が作出した健全な母樹の供給による苗生産および販売のシステムについては、ほぼ確立されている。今後は「サニーシャイン」の特長を生産者および消費者に周知する必要がある。そのためには、種苗販売会社だけでなく、JAや農業改良普及センター等を通した試作を積極的に進める必要がある。さらに、沖縄県以外での普及拡大についても検討すべきである。
(3) 今後の追跡調査の必要性、方法・時期等の提言
今回の調査で苗木の生産・出荷状況を確認し、ウイルス感染防除対策も行われていることを把握した。普及状況については、引き続き種苗販売会社、苗生産業者などと連絡を取り合い、時期を置いて改めて調査することが望ましい。
(4) その他(類似プロジェクトや類似地区における研究プロジェクト実施における提言等)
なし
国際農研 企画連携部 企画管理室 研究企画科
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