ラオスの焼畑二次林の有用樹種を含む樹木データベース

研究課題

インドシナ農山村における農家経済の持続的安定性の確立と自立度向上

プログラム名

開発途上地域の農林漁業者の所得・生計向上と農村活性化のための技術の開発

予算区分

交付金[インドシナ農山村]

研究期間

2015年度(2011〜2015年度)

研究担当者

木村健一郎、Singkone Xayalath、Bounpasakxay Khamphumi(ラオス森林研究センター)

発表論文等

研究の背景・ねらい

ラオスの農村住民は森林から様々な非木材林産物(以下、NTFPs:Non-timber forest products)を採取している。森林の保全・管理、樹木やNTFPsの研究を行うに当たり、植物の基礎的な資料が必要となるが、後発開発途上国であるラオスでは植物の図鑑等の整備は進んでいない。Forests and Trees of the Central Highlands of Xieng Khouang, Lao PDR (Lehmann, L., Greijmans, M. & Shenman, D., 2003) は、掲載情報は一部地域の樹種に限られているものの、ラオスでは数少ない貴重な樹木図鑑であったが、絶版となり再版予定もないことから、2015年現在、書店などで購入できる図鑑はない。

そこで研究者や森林保全を実施する行政職員、非政府組織職員などが実施する森林調査の一助となるように、さく葉標本の整備と基盤情報としての樹木データベースを構築する。

研究の成果の内容・特徴

  1. ラオス中部の調査対象村の焼畑後の二次林(休閑林)で収集された300種を越える樹木試料からさく葉標本を作成し、現在120種(41科78属)の同定が完了している。同定された標本には検索用のコード番号を付与し、ラオス森林研究センター内の植物標本庫に収蔵し、閲覧できるよう整備している。
  2. CMOSセンサーで取り込まれた標本では、その画像精度から産毛の付き方などの同定に必要な情報が失われてしまうため、コンピュータの画面上でさく葉標本の詳細な観察できるよう、CCDセンサーにより高解像度画像化している。現在約70種の高解像度画像を作成している。
  3. 標本の画像は新たにインターネット上に開設したデータベース”Specimen Trees of Secondly forest in Lao PDR”で閲覧できる。本データベースには、現地名、学名(種名、属名)、ラオスにおける用途、写真、標本画像、標本採取地、標本コード、既存のJIRCAS外のデータベースとのリンクが組み込まれている。本データベースは種名、属名、用途から検索できるほか、ラオス語による現地名で検索できる。さらに、GBIF(Global Biodiversity Information Facility)やEoL(Encyclopedia of Life)といった他のデータベースへリンクしている。

追跡調査実施時の状況(平成30年度)

平成27年度主要普及成果「ラオスの焼畑二次林の有用樹種を含む樹木データベース」に関する追跡調査を平成30年11月19日から24日に実施した。外部評価者として、森林総合研究所 宇都木玄 研究ディレクターを招聘した。

追跡調査では、JICAラオス事務所、農林省林野局、ラオス国立農林研究所(NAFRI)、JICA専門家、ラオス大学、森林研究センター(FRC)、森林研修センター、郡農林事務所、対象村(N村)を訪問し、関係者から聞き取り調査を実施した。

以下で、分析項目ごとに外部評価者のコメントを含めて調査の結果を示す。

追跡調査における外部評価者のコメント(外部評価者 森林総合研究所 宇都木玄 研究ディレクター)

受益者・ターゲットグループの明確性

本データベースの直接的な利用者はラオスの中央及び郡行政機関、研究機関、国際機関、NGO等で、二次林の保全と有効活用を図るという政策を支援するものであり、受益者・ターゲットグループは明確である。

目標の妥当性

今回訪問した各機関では、二次林の保全と有効活用の必要性、そのためにデータベースが有効であるということは共通認識となっており、本研究成果はラオス側の政策やニーズに合致していることが確認されたことから、本研究成果の目標は妥当であると考えられる。

内容の有効性

既にFRC、森林研修センター、郡農林事務所で本データベースは活用されていることから、その内容は有効であったと判断できる。また本データベースの仕様(フォーマット)は、二次林だけでは無くラオスの木本植物全体にも適用可能であるとの指摘があり、今後の発展が期待される。一方で、本データベースは1村のみでの情報を整理したものであることから、より汎用性を高めるため、他機関の保有する情報との統合や他地域での継続的な調査の必要性についての指摘もあった。

普及体制や組織の有無・明確性

今回訪問した各機関を中心に普及が図られつつあるが、各機関間での横の連携が図られていないことは、今後の普及やラオス全土のデータベースを構築していく上での課題である。今回は訪問できなかった機関(薬草研究所等)も含めた連携や、体制の整備を主体的に行なってゆく機関の創出が求められる。

普及のための外部要因やリスク

地方ではネット事情が悪く、ホームページに接続できないケースもあることから、印刷・製本版やポスターの作成、配布の要否も検討する必要がある。ポスター等見やすい展示物の場合も含め、効能別(機能別)にデータベースを整理できるなどの工夫も必要である。

波及効果(インパクト)の有無

ラオス政府の政策でもある二次林の保全、有効利用に向け、今後本データベースが二次林の類型の判別手法の開発に繋がる可能性があり、これが実現されれば、十分な波及効果(インパクト)と考えられる。また樹木の効能を直接知ることができるため、郡や地元レベルにおいても、高い波及効果が期待される。

自立発展性の有無

農林省林野局森林インベントリー計画課(FIPD)から共同調査の提案があり、調査フォーマットを共有することにも合意した。今後、データベースの内容を充実させていくため、関係する他機関の情報との統合や連携の必要性について関係者間でアイデアを共有できたことも含め、自立発展に向けた動きが確認できた。

その他

他機関が保有している情報を本データベースに統合していくためには、追加しやすい様式や情報収集の方法についての検討が必要である。

総合評価

(1) 普及が拡大または停滞している要因の分析

「ラオスの焼畑二次林の有用樹種を含む樹木データベース」は、現場に根差したラオス政府にも非常に期待されている成果である。一方、政府関係の横の連携が不足しているため、本データベース以外の諸外国の援助機関等が作成したデータベースが散在している状況であり、総合的な発展の足枷になっている。また一部の地域のデータから抽出したデータベースであることもラオス全土における普及停滞の原因である。

(2) 普及拡大のための改善事項、提言

ラオス全土を考慮した植物の名称統一、データベースの拡張を行うため、本研究によるデータフォーマットを利用して、ラオス政府の主導のもとラオス全土に対して統一的な調査を行うことが有効である。

(3) 今後の追跡調査の必要性、方法・時期等の提言

本データベース作成フォーマットの理解、コンピュータによる操作等、実行上の問題点があるため、ラオス側のカウンターパートと密接な連絡を通じてフォローアップをする必要がある。

(4) その他(類似プロジェクトや類似地区における研究プロジェクト実施における提言等)

本調査で明らかとなったように、諸外国の援助機関等が作成したデータベースはラオス政府によって統一的に管理されていない状況である。今回の樹木データベース、及びそのフォーマットを足掛かりに、データベースをラオス全土に広げる協力、諸外国によって残されたデータの統合を通じ、本分野における日本の先導性を発揮する機会であると考えられる。

写真1 JICA事務所での聞き取り状況

写真2 FIPDでの聞き取り状況

写真3 NAFRI News での紹介記事

写真4 JICA専門家からの聞き取り状況

写真5 ラオス大学での聞き取り状況

写真6 FRCでの聞き取り状況

写真7 森林研修センターでの聞き取り状況

写真8 郡農林事務所での聞き取り状況

写真9 N村での聞き取り状況

写真10 FRCの試験圃場

写真11 FRC・植物標本庫のさく葉標本

連絡先
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