ラオスにおける多様な非木材林産物は農家経済にとって高い有益性を持つ

研究課題
インドシナ農山村における農家経済の持続的安定性の確立と自立度向上
プログラム名
開発途上地域の農林漁業者の所得・生計向上と農村活性化のための技術の開発
予算区分
交付金[インドシナ農山村]
研究期間
2014 年度(2011〜2015 年度)
研究担当者
木村健一郎、米田令仁、小林慎太郎、Singkone Xayalath、Bounpasakxay Khamphumi(ラオス森林研究センター)、Phonesavanh Manivong(ラオス天然資源環境省)
発表論文等
  1. 木村ら(2014)環境情報科学論文集28,55-58.
  2. 木村ら(2014)関東森林研究65(2),225-228.
  3. 木村ら(2015)災害食学会1(2)

研究の背景・ねらい

熱帯モンスーン気候であるラオス中山間の地域住民は、稲作をおこないつつ、森林から非木材林産物(以下、NTFPs:Non-timber forest products)を採集して生活している。天水依存の農業が多いラオスではしばしば洪水や干ばつに見舞われ、作物生産が不安定であるため、NTFPsの採集は地域住民の生活のセーフティーネットとなっている。しかし、焼畑や森林伐採による森林減少のため、NTFPsの利用に変化が生じている。NTFPsの利用実態と農家経済への貢献を把握するため、ビエンチャン県北西部の一農村において、2012年7月から翌年6月まで全戸(140世帯)を対象に、毎日のNTFPsの種類、採集量、利用目的を調査した。分析には有効回答(104世帯)を用いた。経済価値は各NTFPsの取引価格から価格表を作成し、採取量を乗じて貨幣換算した。

研究の成果の内容・特徴

  1. NTFPsとしては植物系(キノコを含む)289種類、動物系124種類の併せて400種類を越える多種多様な産物が利用されている。
  2. NTFPsの利用目的は、繊維、樹脂、薬に属するNTFPsを除くと、9割以上が自家消費であり、食用とするものが大半である。
  3. 森林環境に影響されやすいキノコ類に注目すると、24種類のうち6種類で採集量の9割を占めている。そのうち5種類は雨季に採集されているが、ケガワタケ類(学名Lentinus polychrous)は乾季に採集されており、キノコ類は周年採取される貴重な食料となっている。
  4. 繊維、樹脂、薬に属するNTFPsは販売を目的として採集され、中でも繊維に属するNTFPsは約8トン(風乾重)採集されている。この大半を占めるNTFPsはホウキグサであり、ホウキ等の材料となる花序を採集する。ホウキグサは焼畑後の休閑林に出現し、休閑1〜3年目に多量に採集でき、農閑期である乾季の貴重な収入源となっている。
  5. 世帯当たりのNTFPs採集量を貨幣換算すると、548万KIP(内訳は、植物系382万KIP、動物系166万KIP)の経済価値と推定される。米の量に換算すると、モチ米約2.4トンに相当し、ラオス人の年間米消費量250Kg(籾重)/人から、9.6人分の食料に及び、農家経済に大きく貢献している。

追跡調査実施時の状況(平成29年度)

平成26年度主要普及成果「ラオスにおける多様な非木材林産物は農家経済にとって高い有益性を持つ」に関する追跡調査を平成29年10月30日から11月4日に実施した。外部評価者として、早稲田大学 天野正博 名誉教授を招聘した。

追跡調査では、ラオス国立農林研究所(NAFRI)、農林省・林野局、JICA専門家、森林研究センター、郡農林事務所、対象村(N村)、JICAラオス事務所、NGOを訪問し、主要普及成果に選出後のラオスにおける普及、インパクト等について、共同研究者らから説明を受け、意見交換を行った。

以下で、分析項目ごとに外部評価者のコメントを含めて調査の結果を示す。

追跡調査における外部評価者のコメント(外部評価者 早稲田大学 天野正博 名誉教授)

受益者・ターゲットグループの明確性

ラオスでは十分な農地を保有していない農民の多くは、NTFPsにより食料の不足分を補うとともに、それを市場で販売し必需品を購入する重要な現金収入源としている。しかし、年々増加する人口圧や経済のグローバル化による市場の圧力により森林は急速に減少し、NTFPsの過剰採取が生じている。本研究はこうした状況を踏まえ2つのターゲットグループを明確に想定している。一つは、NTFPsに依存している農山村住民が受益者であり、調査においても調査対象村の全ての世帯に、NTFPsの利用量と販売額の調査に参画させている。調査を通して、研究対象地のN村住民は食料の不足分を補うNTFPsと、仲買人や市場で販売する現金収入のためのNTFPsについて、量および経済的価値を数値として認識することが出来た。聞き取りにおいて村長も研究成果が村民に効果をもたらしたことを評価していた。もう一つのターゲットグループは、NTFPsを管轄している農林省・林野局及び地方の行政機関である。彼らも政策の基礎となるNTFPsの実態を定性的にしか把握しておらず、貨幣経済の浸透によるNTFPs資源の過剰採取を危惧していた。そのため、当研究成果は資源の持続的管理を目指したNTFPs政策を策定するための基礎情報(エビデンス)として重要であることを認識していた。

目標の妥当性

 ラオスは人口の80%が農村地域に住み、聞き取り調査では山岳地の農民の現金収入の多くをNTFPsに依存している。このことから、農村経済におけるNTFPsの種類や資源分布、採取量、用途、経済的価値を数値的に表現する研究は、以下のような理由で、農民、行政にとって重要である。

  • 農村部の人口増加がもたらす農地拡大に伴う森林減少、それに経済のグローバル化による国際市場の圧力から、特定のNTFPs品目の資源量が枯渇する現象が見られるようになったが、実態は不明なままである。
  • 中央政府の森林保全政策では各農家の焼畑プロット数を減少させる指導をしている。焼畑面積の規制は陸稲などの生産量に上限が設けられることから、NTFPsの利用促進は農民の代替食料や収入源として重要である。
  • ラオスでは農林業におけるNTFPsの比重が高いことから、重要なNTFPs品目についてラオス政府は各県に生産量を割り振っているが、割り振り量の算定に明確な裏付けがあるわけでなく、何の規制もないまま採取されているのが実態である。
  • 特定のNTFPsに関する事例研究は過去にも多いが、農村経済に占めるNTFPs総体の実態を村落単位で詳細に解明した研究事例は少ない。
  • 1990年代半ばから2000年にかけて複数の援助機関によるNTFPs利用促進事業における調査事例から、農民の現金収入の50%以上がNTFPsと言われている。しかし、この十数年にNTFPsを取り巻く社会経済環境はドラスティックに変化しており、この数値は実態を反映していない。

 以上から、ラオスにおいて重要な経済資源であるNTFPsの持続的管理を考えた場合、当研究の目標は妥当である。本研究では村落におけるNTFPs採取場所が時系列的にアクセスの悪い地域に向かっている動態を明らかにするとともに、悉皆調査により各世帯のNTFPs品目別に毎月の採取量、利用目的、販売額を明らかにした最新の研究事例である。最近のNTFPs資源状況と採取量という持続的な管理に必要な情報を提供しており、研究成果としては十分といえよう。実際、今回の追跡調査でも受益者グループである村落の農民や郡、国の行政担当者は得られた数値を高く評価していた。

内容の有効性

(1) 行政に対するNTFPsの持続的管理への貢献

ラオスのようにNTFPsへの依存性が高いにもかかわらず森林減少が急速に進行している国では、NTFPs資源の持続的管理は不可欠であり、利用量、資源量を定量的に把握することは非常に有効である。実際、追跡調査においても農民、行政、援助機関やNGOは、最新のラオスのNTFPs利用実態を明らかにしたと言うことで高い評価を与えていた。

(2) 研究対象村の住民へのNTFPs利用に対するインパクト

研究対象地であるN村では当研究課題で得られた成果について、研究対象村の行政担当者からポスターを使って解りやすく説明されたことから、本研究によるNTFPsの利用状況が現場でも有効に活用されていることを検証できた。

(3) 事例研究の限界

しかし、全国レベルでの政策への適用を考えた場合は、単年度の生産量であり1村のみの数値では不十分というのが、今回の聞き取り対象者の共通意見であった。

(4) カウンターパートのキャパビル

研究手法についてはカウンターパート機関であるNAFRIへ適切に移転されている。さらに、研究対象地であるN村の行政部局や農民にも彼らのNTFPsを利用する上で研究成果が重要であるという認識を持っており、研究成果の普及はJIRCASではなくラオス側が担うという前提に立てば、研究内容は有効と言える。

普及体制や組織の有無・明確性

(1) 普及手法を開発する組織のキャパビル

当研究のカウンターパート機関であるNAFRIは農林水産業技術とその普及手法の開発を任務の一つとしている。開発された成果は関連部局に引き渡され、普及されることから、当研究はラオスの普及体制を意識してカウンターパート機関を設定していることが確認できた。
本研究ではNTFPsの各品目について資源量と採取量を定量的に分析しており、NAFRIのもつ既存のNTFPsの知識をベースに、その利用に関する実態を解明したデータを提供している。NAFRIは得られたデータの重要性を認識しており、同様の手法で他地域でもNTFPs利用の実態を把握することで、NTFPsの研究能力を向上させ普及体制の強化を図るという点で、適切なカウンターパートの選択と彼らへの技術移転だったといえる。

(2) ラオスの普及体制の脆弱性

ラオス農林省での農林技術の普及システムを概観すると、行政機構としては食品加工・普及局が対応することになっている。階層的には県、郡、村がそれぞれ各レベルで普及を担当することになっており、各村に5名からなる普及チームが設けられ農林業の振興を図る。しかし、現実にはこの体制を機能させるための予算はなく、農林業が発展し豊かな自治体は自前予算で普及システムを維持しているが、そうでない自治体では形だけのものになっている。

(3) ラオスの実情に合った普及チャンネルへのインプット

かつて、ドナーがNTFPsについても様々な品目についての基礎的な知識を整備し、マニュアルの形とする一方で、事業の実施期間中はドナーが自前の普及チームが育成された。このように、NTFPsに依存するような山岳地では普及システムは脆弱であるため、援助機関やNGOが普及を担うケースは多い。本研究においてもラオスの援助機関の会合やNGOの連携団体での会合での発表では、適切な情報であるとの評価を得ている。

(4) 村落の住民への直接的な成果の普及

研究対象地であるF郡農林事務所やN村での聞き取り調査では、住民がNTFPsの経済価値や生活での重要性を数値として認識できることが解り、研究成果が調査対象の郡や村の行政組織を通して普及していることは確認できた。

(5) JIRCASの普及に対する役割

NAFRIや林野局は全国規模でNTFPs政策に利用するため、より広範なデータ収集のリクエストはあったものの、どのような体制で普及すべきかについて今回の調査では明らかにできなかった。なお、本研究ではNTFPs利用の実態を示す数値事例の普及が目的であるが、行政機関は政策立案に活用できる全国あるいは地域レベルでの普遍的な実態調査を希望していた。こうした要望に対して研究機関であるJIRCASがどの程度まで普及に係わるかについては別途議論する必要がある。

以上から、普及体制や組織は存在し共同研究の相手にNAFRIを選択しており、研究アプローチとしては間違っていない。

普及のための外部要因やリスク

(1) NAFRIの普及能力

カウンターパート機関であるNAFRIは山岳地において陸稲よりもNTFPsの経済的価値が高いことから当研究の重要性は認識しており、N村から他地域へ調査やデモンストレーション活動を拡大したいとの希望は持っていたが、現状ではそのための研究資源がないとのことであった。

(2) NAFRIのNTFPs研究と森林分野の普及体制

NTFPs研究は1990年代から複数の援助機関とNAFRIの共同事業によりNTFPs知識のデータベース化や品目毎の技術開発は進み、2000年代初頭には幾つかの研究成果が公開された。しかし、プロジェクト終了後は特定の品目についてNGOの支援はあるものの、自立的な発展は認められない。普及体制についてもある援助機関の支援を例にすると、NAFRIに活動拠点を置き普及員の育成や各地域への人員配置を支援し、全国各地に普及オフィスも作られ多くの成果が得られたが、数年前に撤退した後の普及体制は弱体化が進んでいる。

(3) 普及の阻害要因

研究成果の普及に必要な資金、人材の不足、普及員の研修や地方のネットワークといったNTFPs分野の普及システムの自立発展性を期待できない点が、普及の最も大きな妨げになっている。また、ラオスでは省庁再編が度々行われており、NAFRIとNTFPsを担当する林野局との関係が変化していることも、成果普及におけるリスクとなっている。

(4) 成果普及の必要性とリスク

中国などの周辺諸国からラオスへのNTFPs買い付けの急増により、過剰採取が頻繁に生じている。このため、短期間でNTFPs資源が枯渇するような事態が生じており、こうした社会経済状況のドラスティックな変化も、本研究の成果普及におけるリスクといえる。逆に、本研究成果では特定の品目のNTFPs採取が多いことを示しており、こうした傾向によるリスクを幅広く発信することが、NTFPs資源の枯渇を防ぐために急がれる。

波及効果(インパクト)の有無

(1) 政策面への波及効果

ラオスでは村落毎に村落共有林の設置を含む土地森林利用図を策定するが、そこでは食料自給や現金収入に貢献するNTFPsの利用実態に関する情報が不可欠である。聞き取り調査でも土地森林利用を担当している林野局の担当者からは、当研究のもつ潜在的な波及効果の大きさについて説明があった。
また、先に述べたように行政は無秩序な資源の採取によるNTFPsの枯渇を案じて、採取量の目標値を割り振っている。しかし、エビデンスデータが無いため、実体の伴わない数値になっている。
当研究成果が普及すればこうした問題の解決に貢献できる。

(2) 貧困層や自然環境保全への波及効果

中山間にあって十分な水田を持たない焼畑農家の多くは食料の不足分をNTFPsで補っており、NTFPs資源の持続的管理は重要な政策課題となっていることから、本研究の波及効果は大きいと予想される。また、適切なNTFPs利用は地域の森林保全を通して生物多様性保全にも貢献する。

(3) 援助機関への波及効果

ラオスは東南アジアではインドネシア、ミャンマーと並んで森林減少が進んでいる国であり、多くの援助機関やNGOが森林保全活動に取り組んでいる。こうした団体では住民の貧困解決を通した森林保全を重視しており、農村経済において比重の高いNTFPs利用の実態を数値的に明らかにした研究成果は高く評価されており、研究成果はラオス政府よりもJICAも含めた外部機関の事業における住民のNTFPs利用権の保護、促進に貢献する可能性が高い。実際、本研究の代表者は「参加型森林管理など森林保全や農村開発を実施する機関において、先住民・地域住民の保護、生物多様性の保全といったセーフガードの基盤資料として利用できる」と研究成果の活用方法を位置づけている。

自立発展性の有無

(1) 政府における自立発展性

NAFRIや林野局も研究成果の重要性は認識しているが、研究及び行政資源に制約があるため同様の研究を他地域に展開することは難しい様子であった。JIRCASが肩代わりして社会経済条件、自然環境条件に考慮しながらNTFPs政策に必要な情報を同様な形で整備することは、選択肢として考えられる。しかし、これまでの援助機関の支援をみると、対象地域の普及体制が整備されても支援終了後はそれが維持されていないことから、望ましい選択肢ではない。そのため、NAFRIへの研究手法や調査技術の移転だけでは自立的な普及を期待できないことを想定しながら、研究成果のラオス側への受け渡し方法を考慮する必要がある。もっとも、本研究は成果として得られた事例調査の数値の普及を目指しており、手法や技術の普及については強く意識はしていない印象を受けた。

(2) 農民における自立発展性

N村では住民達が重要なNTFPsであるホウキグサなどの過剰採取を危惧しており、持続的な採取を行うために研究成果を簡易化した調査方法の開発をリクエストされた。研究成果の横への広がりも含めて、N村の意向が自立発展性を実現する答えのヒントになる。

その他

(1) 社会実装を意図した研究

NTFPsの個別品目に着目し詳細に調べる研究が多い中で、村落全体での全てのNTFPs資源と利用について実態を明らかにしたことは、事例調査であっても研究の意義は高く評価できる。ただ、近年は研究プロジェクトの費用対効果が要求されるようになり、応用研究では社会実装できる成果を求められている。NTFPsの利用実態を明らかにしようという本研究も、その最終目標を村落に於けるNTFPsの持続的利用とそれによる農家の生活福祉の向上に貢献することとしている。しかし、村落が当研究で示したアプローチを社会実装する意図で研究計画が作られたか否かという点で、研究担当者の農村開発についての言及はあるものの、明確に研究計画に反映しているかは不明であった。

(2) 農村開発に繫がるような研究で成果をフォローすべき

本研究の対象であるNTFPsは、ラオス政府が重視している貧困問題の解決と森林保全をリンクさせて解決するための重要なコンポーネントであり、利用実態を示す成果も重要な示唆を与えている。調査は対象村の全世帯にNTFPs利用についての報告を求めており、参画した農民自身もNTFPs資源の持続的な利用に関心を持つ契機となっている。しかし、森林は基本的に国の所有でありNTFPsの採取は各世帯の焼畑対象地以外では、個人の自由になっている。こうしたことから、農民に単に報告を求めるだけでなく分析も含めて主体的に研究に係わる体制を組み、共有地的な扱いになっているNTFPsの利用に対し、住民による共同管理を行う方向に歩み出すプロセスの提供が、研究計画で意識されていると、普及は違った形のものになったであろう。現在のラオスにおける村落毎の土地森林利用図では農地利用については村落毎に土地森林利用計画委員会が決めているが、NTFPsについては村落としての明確なルールがない。今回のような研究に農民が主体的に参画する仕組みがあれば、NTFPs資源の共同管理に発展し、農村開発に近い成果が期待できる。

(3) 受益者としてのNAFRI

以上は研究成果の社会実装を意識した場合のコメントであるが、当研究が想定している2つの受益者に貢献するプロセスにおいて、中間的な受益者はラオス国の研究者であり、彼らへの貢献度は本研究では高い。ここで得られた成果を得るのに必要な手法をNAFRIの研究者が習得したことは、今回の調査で確認できた。ただ、NAFRIが研究を独自に実施するには様々な外部要因を満たす必要がある。一方で、ラオスにおけるNTFPsの重要性は多くの援助機関やNGOに認識されており、この研究を通して技術移転した成果は、NAFRIを通して援助機関により活用される可能性は高い。

総合評価

(1) 普及が拡大または停滞している要因の分析

本研究は近年におけるNTFPs資源及び利用の実態を定量的に示す基盤資料の提供を目的としており、この研究は単独で普及していく性格のものではない。それを前提に現時点で普及が停滞している要因を検討する。
NTFPsの分野でこの国が抱える緊急の課題は、経済のグローバル化の中でNTFPs資源が枯渇する前に持続的な生産を可能にする資源管理である。当研究課題は村落を対象に正面からこの課題に応えようとしている。そのために望まれる技術とその普及方法の開発を担当するNAFRIをカウンターパート組織としたのは適切な判断であった。本研究の成果の普及を早期に進めるとすれば、その阻害要因としては「普及のための外部要因やリスク」とも重複するが、以下のことが考えられる。

  • 脆弱な普及体制
    ラオス独自で普及組織を維持することができない状況にあり、資金の問題が大きい。
  • カウンターパート機関であるNAFRIの研究資源の限界
    NAFRIは海外の研究機関との共同研究、支援事業への対応が活動の中心になっており、彼らが自発的に研究資源を当研究成果の普及に振り向ける可能性は少ない。
  • NTFPsの採取場所である森林は焼畑休閑地と公有林
    現在の森林は公有林であるが行政が管理する能力は乏しいため、農家は規制のないまま自由に収穫できる。焼畑休閑地は農家が所有しておりこれも自由に採取できる。NTFPs資源の持続性を確保する方策は本研究の範囲外になるが、ラオスの行政能力を考えると、村落としてNTFPs資源を共同管理することが唯一の方策である。そのため、普及には村落が実施できるNTFPsの資源量、利用量を把握する技術だけでなく、住民の組織化やNTFPs資源を村落として管理する能力向上を図る、農村開発と一体化しての普及が不可欠である。

(2) 普及拡大のための改善事項、提言

本研究はNTFPs利用の実態を定量的に明らかにする意義のある研究である。ただ、研究手法はNTFPsの採取量、採取目的を各農家が日報の形で記載する手間と時間のかかる手法である。このため、普及されるのはN村の研究結果として得られた各NTFPsの採取量と利用目的である。こうした緻密な調査によるNTFPs利用の実態を明らかにする数値は極めて重要である。ただ、研究機関や援助機関などが引用し論文化するにはしばらく時間がかかる。
一方、追跡調査の狙いが研究成果をラオスの農村社会や行政に広く普及・利用されるための改善事項を期待していることから、以下ではそれに合致するような視点で提言をする。
そこで、実態調査の数値だけでなくNTFPsを定量的に調査することの重要性までを成果と拡大して提言する。これは本研究を実施した研究者の最終目標でもある。

本研究で提示したNTFPs利用の定量的調査と評価手法のみを優先して普及させるか、自然環境保全、あるいは農村開発の一つのパーツとしてNTFPs資源の持続的管理を普及するかによって、アプローチは異なってくる。前者は研究者が1) NTFPs資源の管理政策(国から村落までの各行政レベル)への貢献を意図する場合である。後者は研究者が2) 農村開発や農民の能力向上における生計向上ツールとして、あるいは森林や生物多様性の保全を目的としてNTFPsの持続的な利用と明示的にリンクさせた研究目的を掲げる場合である。このように、研究者が何を目的に研究を進めるかによって普及すべき内容に違いが現れ、本研究成果を普及させる対象も異なる。

1) NTFPs資源量、利用量の把握手法の普及

ラオスの発展段階に適した普及を前提に研究の設計を行うべきである。今回のN村での調査を他地域に展開するにはa) 調査設計を多少変形し、調査への農民参加を高める方法を考える、b) N村調査の結果を分析し、他地域で類似の結果を得るための簡易型の調査設計を行う、という費用対効果を意識した二つの戦略が考えられる。

a) の選択肢と住民参加での調査手法

本研究でもPRA手法が一部で使われていたようであるが、1年間の日報形式でなく、主要なNTFPs毎にPRA方式による実態調査、分析によりNTFPsの採取場所、採取量、利用目的の概略は得られる。販売価格等の数値情報獲得のためにアンケート調査を補足的に行う。こうした、農民参加型手法ではファシリテータの育成が可能であり、行政の普及体制に依存しなくてもN村の農民を活用した住民参加型調査手法を周辺地域へ普及させることができる。

b) の選択肢と簡易型調査手法

N村での悉皆調査の結果から、村落全体でのNTFPsの資源量、採取量、販売額を把握するのに必要な標本数を算定する。場合によっては、属性を考慮した層化抽出を行う(NTFPs依存度、etc)。NTFPs資源量や利用量についても、そのものを計測対象にするのかプロキシィ指標で代替できるのかを検討する。プロキシィ指標としては1単位のNTFPsを収穫するのに必要な作業時間の平均値、あるいは収穫されたNTFPsのサイズや重さの中央値など、様々な指標が考えられる。このように、b) の選択肢は簡易型の調査手法開発のための材料として、N村の悉皆調査結果を用いることになる。

2) 持続的管理のためのNTFPs資源及び利用の実態調査の普及

本研究の当面の目標である実態調査の手法とNTFPs資源の持続的管理を併せて普及するアプローチである。研究者によっては重点をc) NTFPsの適切な利用を通して森林保全、生物多様性保全を図る、d) 農民の組織化や能力向上の一つとして、NTFPs資源の持続的管理を取り上げるという2つに分かれる。この場合のNTFPsの資源量や利用量の調査は、モニタリングや問題点抽出に用いられる。

c) 森林保全、生物多様性保全のツールとしてNTFPsを活用

熱帯地域の森林は多様な生物種から構成されており、様々なNTFPsが住民に利用されている。NTFPsが豊かな森林に住民が関心を持ち持続的に管理することは、途上国における最も確実な森林および生物多様性の保全戦略である。また、集落周辺のNTFPsの利用は地域の伝統的知識に基づき、文化的価値として重要であるだけでなく、NTFPsの多くは経済的価値を持ち、適切に管理すれば永続的に再生・利用できる。

したがって、c) の場合は住民が主体的にNTFPsの持続的管理を行うため、農民のNTFPsの知識を活用し彼らの採取場所、採取時期などを反映したモニタリング手法となる。NTFPsの資源量と利用量の双方をモニタリングすることにより、生物多様性保全にNTFPs採取がどのようなインパクトを与えているかを評価する。

d) 農村開発のツールとしてのNTFPs利用

山岳地では農地などの利用権を確定する土地森林利用図が機能していないことから、土地を十分に保有していない農民は保護林や保全林内で違法に焼畑を拡大し、森林減少のドライバーとなる可能性が高い。このことから、森林破壊を避け農村地域の貧困解決とNTFPsを結びつけた開発援助が多く見られる。その場合、NTFPsの採取に対する法的規制がないことから、NTFPsの持続的な管理を行う場合は村落でルールを決めることになる。ルールの適切な運用にはNTFPs資源量や採取可能量を算定するためのモニタリングが必要となる。その際、NTFPsに依存する貧困層へ配慮する住民参加型のNTFPsモニタリングを実現するプロセスで援助機関やNGOが試行錯誤するケースが多く、社会実装可能なNTFPs資源及び利用に関するモニタリング手法へのニーズは高い。

多くの援助機関やNGOがNTFPsに関連する事業を展開しており、c)、d)を意識した場合は普及の可能性は高い。

(3) 今後の追跡調査の必要性、方法・時期等の提言

ラオス北部6県を対象に世界銀行の森林炭素パートナーシップ基金(FCPF)による森林減少・劣化防止事業(REDD+)が、1,2年後に開始される。そこでは、NTFPsの活用により住民の焼畑や放牧地拡大への速度が軽減され、森林が保全されることが期待されている。NTFPsがREDD+のツールとして機能するには、持続的なNTFPsの活用が不可欠であり、最近のNTFPs利用の実態調査としては当研究が唯一の研究事例であることから、FCPFに参画する北部6県の行政や事業実施体は研究成果や調査手法に関心を持つと思われる。REDD+事業では政府の森林保全政策によって住民の持つ様々な権利の侵害を排除するセーフガードも、同時に満たす必要がある。これにより、現在の住民のNTFPs利用レベルは、事業開始後も維持する必要があり、北部6県においては住民によるNTFPs利用のモニタリングをすることになる。本研究の成果はこうした事業の参考になることから、2020年のパリ協定開始時期、2024年のFCPFの事業終了時、そしてパリ協定に対するラオス政府の削減義務の算定年である2030年に追跡調査することが望ましい。

(4) その他(類似プロジェクトや類似地区における研究プロジェクト実施における提言等)

1) 他の研究機関との研究分野の差別化

今回のような貴重な調査結果を単なる事例研究で終わらせるのでは、他の農水省関係の研究機関と同じような成果となる。ラオスのようなNTFPsに強く依存する国にとっては、この研究をフォローしNTFPsの持続的管理を実現するため、研究に農民を取り込むアクション・リサーチのような形で実用的な管理方法を提示できれば、社会実装のためのJIRCASらしい成果が生み出される。

2) SDGsへの対応

今回の追跡調査で訪問したN村ではJIRCASの幾つかのプロジェクトが同時並行的に実施されていた。既に統合的な研究が行われているのかも知れないが、今回の追跡調査はNTFPsの分野に限定した成果になっていた。他のプロジェクトと連携することにより、貧困解決、食料安全保障、気候変動、生物多様性を通して2030年のSDGsに貢献できる成果が生まれるのではないか。

写真1 NAFRIでの聞き取り状況

写真2 林野局での聞き取り状況

写真3 森林研究センターでの聞き取り状況

写真4 森林研究センターでの研究概要の確認

写真5 郡農林事務所内JIRCASの研究成果展示スペース

写真6 郡農林事務所での聞き取り状況

写真7 N村での聞き取り状況