国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

アフリカ稲作振興のための土壌肥沃度改善技術マニュアル

研究課題
アフリカの土壌肥沃度改善検討調査
プログラム名
熱帯等の不安定環境下における農作物等の生産性向上・安定生産技術の開発
予算区分
受託[農林水産省大臣官房・肥沃度資源]
研究期間
2014年度(2009~2013年度)
研究担当者
飛田哲・中村智史・福田モンラウィー・南雲不二男
発表論文等
  1. JIRCASホームページ
    (https://www.jircas.go.jp/ja/publication/manual_gudeline/29)
  2. Issaka et al. (2012) In “Soil fertility” InTech Press, Rijeka, Croatia, 119-134
  3. Nakamura et al. (2013) African Journal of Agricultural Research, 8, 1779-1789. DOI: 10.5897/AJAR12.1830
  4. Issaka et al. (2014) Agriculture, Forestry & Fisheries 3(5), 374-379. DOI: 10.11648/j.aff.20140305.17

研究の背景・ねらい

サブサハラ・アフリカ(SSA)はとりわけ土壌肥沃度が低く、「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)」の目標に沿ってコメ生産を増大するためには肥沃度の改善が重要である。当該地における稲作は多様な農業生態環境下で実施されており、それぞれに適応可能な土壌肥沃度改善技術が適用される必要がある。そこでSSAにおいて特に生産ポテンシャルの高い水稲作を対象に、代表的な農業生態系である赤道森林帯およびギニアサバンナ帯で適用可能な土壌肥沃度改善技術を検討し、技術マニュアルとしてまとめた。

研究の成果の内容・特徴

  1. 本マニュアルは、CARDにおける第一支援グループ(12カ国)に属するガーナにおいて、現地の研究機関(土壌研究所(クマシ市)、開発研究大学(タマレ市))との協力のもと、SSA水稲作の代表的な農業生態系である赤道森林帯(ガーナ国中南部)とギニアサバンナ帯(ガーナ国北部)のそれぞれにおける、有効性および適用可能性を検証した土壌肥沃度改善技術を掲載する。
  2. 本マニュアルは、各種在来有機資源の施用とそれらの肥効向上のための堆肥化技術ならびに燻炭化技術、ブルキナファソ産リン鉱石の施用とそれらの可溶化促進技術、および極少量の化学肥料の利用によるイネの初期生育改善技術等から成る。
  3. 本マニュアルにある土壌肥沃度改善技術は、ガーナの農家圃場での実証試験を経るとともに(写真)、農家を対象にした社会経済学的調査の結果から、農家への普及可能性の高いものを選び出したものである。
  4. 本マニュアルの編纂は、ガーナの食料農業省(MoFA)の作物サービス部および技術普及部とともに実施しており、マニュアルに対するガーナ国の当事者意識を高めている。また、MoFAの副大臣が緒言を寄せている。

追跡調査実施時の状況(平成28年度)

 平成26年度主要普及成果「アフリカ稲作振興のための土壌肥沃度改善技術マニュアル」に関する追跡調査を平成28年6月4日から15日に実施した。外部評価者として、日本大学生物資源科学部林幸博非常勤講師(元教授)を招聘した。

 追跡調査では、ガーナ政府食糧農業省(MoFA)本部の担当官にガーナ国内での配布・受領状況を確認した。クマシとタマレにおいては、それぞれアシャンティ州とノーザン州のMoFA事務所を訪問し、マニュアルならびに技術の普及状況について概略説明を受けた。また、技術開発を共同で行った土壌研究所(CSIR-SRI)と開発研究大学(UDS)の研究者とともに、クマシ近郊ならびにタマレ近郊の農村を訪問し、PRA(参加型農村調査)により技術の普及状況と稲作や土壌肥沃度関連技術についての情報収集を行った。ガーナにて本年から開始しているJICA技プロ関係者と連絡を取り、マニュアルの使用の可能性等について話し合った。

  以下で、分析項目ごとに外部評価者のコメントを含めて調査の結果を示す。

追跡調査における外部評価者のコメント(外部評価者日本大学生物資源科学部 林幸博非常勤講師(元教授))

受益者・ターゲットグループの明確性

 JIRCASが作成した「アフリカ稲作振興のための土俵肥沃度改善技術マニュアル」(以下、マニュアルと表記する)において提言及び推奨している技術は、SSA(サブサハラアフリカ)における赤道森林帯とギニアサバンナ帯の農業生態系に適応可能な土壌肥沃度を改善する技術をマニュアルとしてまとめたものである。その最終受益者は稲作を担う農家(一般に、アフリカの農民は稲作だけでなく畑作作物の栽培も大きな比重で栽培している)であり、かつ土壌肥沃度の劣化による収量の低下の問題を抱えている人々である。また、流通の不備や経済的な理由で化学肥料を入手できないことから、地域資源の活用による肥培管理によって土壌を改善する方法を必要とする人々である。その点では、最終的な受益者は明確に設定されている。しかしながら、問題は農民自身がマニュアルから直接技術を習得することができるどうかである。そうした問題への対処として、本マニュアルは農業普及員が活用することを前提に英語で作成し、農業普及員を介して農民に技術移転ができるようにとの意図がある。

本追跡調査では、まず本マニュアルの編纂に協力した食糧農業省(MoFA)の作物サービス部と技術普及部の稲作担当係官と、その出先機関であるアシャンティ州とノーザン州のMoFA地方事務所の担当者にマニュアルの体裁や内容に対するコメントや普及員への配布状況について聞き取り調査を実施した。また、アシャンティ州にある土壌研究所(CSRI-SRI)とノーザン州の開発研究大学(UDS)の研究者には、マニュアルに対する技術的な意見と普及状況について聞き取り調査を実施した。さらに、各州の直接の受益者である農民に対しては、コミュニティーごとにマニュアルの受け入れ状況や内容に対する意見を聞き取り調査した。(写真1~4)

その結果、マニュアルの配布状況については、JIRCASが提供した450部すべてが各州の地方事務所に送付されていたことが確認できた。また、地方事務所もマニュアルを受領するとともに、それらを州内のすべての普及事務所に配布したことを確認した。したがって、普及事務所までの配布は完了しているとみなしてよいだろう。なお、MoFAの本省並びに各州の担当官には、マニュアルの印刷版ではなく、PDFによる電子版(ソフトコピー)が送付されていた。

一方、 アシャンティ州とノーザン州の農民からの聞き取り調査によれば、マニュアルについて知っている農民は各コミュニティーの間に大きな差があるようだった。というのも、マニュアルが普及員までは渡っているものの、農民にまで伝わっていない例も聞かれたからである。「(マニュアルのあることを)知らない」という農民から、「本(の表紙)は見たことがある」「(マニュアルで紹介された)技術のデモンストレーションには参加した」「コミュニティー内の代表者がマニュアル本を保管している」まで、多様な意見が聞かれた。中でも、「(マニュアルで紹介された)技術のデモンストレーションには参加した」農民が最も多かったことから、技術移転に際しては普及員の積極的な活動が非常に大きいことがわかる。

したがって、本マニュアルは配布先である普及員に対する技術指導書として活用すれば、最終受益者である農民への技術移転を効果的に進めることができるといえよう。この点から、当初から普及員にターゲットを定めて作成された本マニュアルのターゲットグループは明確であると判断できる。

 なお、農民がマニュアルを読めるようにするために、英語で作成された本マニュアルを現地語に翻訳する案について、MoFA担当官と農民の意見を聴取した。その結果、現地語に翻訳することもさりながら、マニュアルの説明に学術的な解説が多く、もっと簡略化したほうがよいとの意見が多かった。また、ポスターや小冊子にまとめたほうがよいとの意見も傾聴に値する。また、農民たちは現地語を会話の際には日常的に使用するが、読み書きには公用語である英語を一般的に用いるとのことだった。一方、子供たちは英語の読み書きができることから、必ずしも現地語訳のマニュアルが必要というわけでもないようだ。

写真1.MoFAアシャンティ事務所の担当官と意見交換

写真1. MoFAアシャンティ事務所の担当官と意見交換

写真2. アシャンティ州の農民から聞き取り調査

写真2. アシャンティ州の農民から聞き取り調査

写真3. タマレMoFAの担当官とUDSの研究者と意見交換

写真3. タマレMoFAの担当官とUDSの研究者と意見交換

写真4.ノーザン州にて農民から聞き取り調査

写真4. ノーザン州にて農民から聞き取り調査

目標の妥当性

アフリカ、とりわけサブサハラアフリカ(SSA)の土壌は、ゴンドワナ大陸以来の安定した地殻の上に古い地形が保存されてきたことから、老朽化した土壌が多く土壌肥沃度が低い。そうした地域において、「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)」の目標に沿ってコメを生産するためには土壌肥沃度の改善が必要である。

一方、調査対象国としたガーナの農業生態系は南部の赤道森林帯と北部のギニアサバンナ帯との間で大きく相違していることから、それぞれの農業生態系に適した技術が選択されねばならない。したがって、異なる農業生態系に対応した土壌肥沃度改善技術をそれぞれの現地で実施した実証試験によってその適用可能性を確認し、各農業生態系下で稲作を担う農家の肥培管理に裨益するためのマニュアルを作成することによって技術普及を図ろうとしたものである。

こうした本マニュアル作成の目標に対するMoFAの稲作技術担当官からの聞き取りによれば、普及員による土壌改善技術の移転を可能にするマニュアルの必要性について強い同意があった。また農民コミュニティーでの聞き取り調査の結果、入手の難しい化学肥料に依存しない、地域資源を活用した比較的簡易な方法による土壌改善技術が強く要望された。したがって、現地実証試験に基づいて作成されたマニュアルによる技術普及が土壌肥沃度を改善し、コメの生産量を増やそうとする目標は、ガーナ政府食料農業省のみならず稲作農民たちの切実な願いとも合致していることから、妥当性があると判断できる。

内容の有効性

本マニュアルにある土壌肥沃度改善技術は、ガーナでの農家圃場において実施したオンファーム実証試験を経てまとめられたものであり、農家を対象にした社会経済的な調査の結果に基づいて、農家への普及可能性の高いものを選びだしたものである。たとえば、マニュアルで推奨した土壌肥沃度を改善するための技術として、在来の有機資源である稲わらの直接施用とそれらの肥効を向上させるための堆肥作りや燻炭化技術(バイオチャー)、安価なブルキナファソ産のリン鉱石の施用とそれらの可溶化技術、および極少量の化学肥料を種子コーティングしたイネの初期生育改善技術などが挙げられる。

MoFAの担当官、UDSや SRIの研究者らへの聞き取り調査から、本マニュアルが写真とイラストを多用している点で農業普及員にとってわかりやすい構成になっているとの高い評価を得た。

今回の追跡調査では、稲わらの施用ともみ殻の燻炭化およびさまざまな有機資源の堆肥化について農民コミュニティーでの聞き取り調査の結果、現地で製造したモミの燻炭製造機を用いたもみ殻燻炭化技術のデモンストレーションには、多くの農民が参加したという。また、実際のもみ殻燻炭つくりのデモではなく、普及員がラップトップに保存していたマニュアルのPDFで知った農民もいた。在来の有機資源を活用した堆肥つくりについては、本マニュアルからではなく普及員からの指導によって以前から知っており、すでに実行していた農家もいた。中には、JICAのプロジェクトで知ったという農民もいた。

本マニュアルの内容にある堆肥つくりの技術を農業普及員の指導によって実施している農家もいたが、聞き取り調査をした農民の多くは、様々な有機物を堆肥化することによって肥沃度の低下した土壌が改善できることに大きな期待を寄せており、入手困難な化学肥料の代替肥料として利用したいとの声が多かった。また、アシャンティ州・クマシ市にある土壌研究所の研究者やノーザン州・タマレ市にある開発研究大学の教員らに対する聞き取り調査から、マニュアルの内容で有機物を活用する技術については、すでに現地で実証された技術であることから、土壌肥沃度を改善する有効な技術であるとの認識が示された一方、普及については普及員の数や活動などに対する問題も指摘された。

以上から、本マニュアルの内容は、まだ最終受益者の農民にまで伝わっていない技術があるものの、すでに有効性が認識されている技術もあると判断できるが、農業普及員に対する指導に加えて、農民に直接届くような普及活動、たとえばマニュアルのポスター化、アニメ化あるいはより簡便なリーフレット化などによる普及活動の工夫が必要になるだろう。

写真5. 聞き取り調査中に配布されたマニュアルを見る農民(クマシ近郊)

写真5. 聞き取り調査中に配布されたマニュアルを見る農民(クマシ近郊)

写真6. 聞き取り調査中に配布されたマニュアルを見る農民(クマシ近郊)

写真6. 聞き取り調査中に配布されたマニュアルを見る農民(クマシ近郊)

普及体制や組織の有無・明確性

追跡調査の結果、JIRCASが提供したマニュアルは、MoFAによって全国の農業普及事務所にすべて配布済みであることを確認した。当初より、本マニュアルは農業普及員が活用することを前提に英語で作成された。 

したがって、マニュアルで推奨している技術が農業普及員を介して農民に指導する体制が整備されているかどうかが普及の鍵となる。 この点については、農民コミュニティーでの聞き取り調査から、農民コミュニティーには農業普及員が日常的に訪問し、農業指導を受けていることを確認した。また、多くの農民がマニュアルの内容については普及員からの指導によって知らされている点や、もみ殻の燻炭化技術については普及員が実施したデモに参加して知ったことなどから、農業普及員による普及活動が機能しており、普及体制や普及のための組織が機能していると判断できる。

しかし、今回の追跡調査で訪問した農村部においては農業普及員に会う機会が少なく、聞き取り調査も十分に実施したとは言えない。この点については、当方の調査スケジュールがタイトであったこともさりながら、農業普及員の仕事がかなり多忙な業務であるように思われた。それが、農業普及員が不足しているためであるとすれば、今後の普及活動に際して障害になるかもしれないと危惧される。

なお、本年度から始まったJICA技プロ関係者と連絡を取り、マニュアルの使用の可能性等について話し合った。その結果、土壌肥沃度の低下が問題となる地域には本マニュアルを普及したいとの回答を得た。今後はJICAの技プロのカウンターパート機関への普及可能性が期待できる。

普及のための外部要因やリスク

マニュアルで紹介した技術を普及させるためには、指導やデモだけでは不十分な場合が見られた。たとえば、もみ殻の燻炭化技術を紹介する際に用いる燻炭製造機は、農民には無償では提供されないことから、購入するか自作するしかない。したがって、もみ殻の燻炭化技術の普及には安価な燻炭製造機を提供するか、農業普及事務所から貸し出しされるか、あるいは燻炭製造機を農民が自作するための技術指導や経済支援が必要と思われる。

また、農民への聞き取り調査から燻炭の材料となるもみ殻を精米所から入手する際に農民間で競合が生じる恐れがある。さらに、ガーナの精米所では籾摺りと精米を分離できないことから、もみ殻と米ぬかが混ざって排出される点が問題となる。農民によれば、もみ殻と米ぬかが混ざった場合には効率よく燻炭を製造できないという。したがって、もみ摺りと精米を分離するにはより性能のよいもみ摺り精米機の導入が必要とされる。しかし、高価な性能のよいもみ摺り精米機を導入するにはイネの収穫後処理過程における品質向上とセットにしなければ経済的には見合わないと思われる。今後、国際協力機関に依存するだけでなくガーナ政府(MoFA)の積極的な支援がなければこうした技術の普及にはリスクと困難が伴うと思われる。

写真7.精米所ではもみ殻と米ぬかが混ざって排出される。

写真7.精米所ではもみ殻と米ぬかが混ざって排出される。

写真8. もみ殻と米ぬかが混ざった状態

写真8. もみ殻と米ぬかが混ざった状態

波及効果(インパクトの有無)

聞き取り調査から、土壌肥沃度の低下に何とか対処したいと望む多くの農民は、化学肥料が安価で入手できれば土壌肥沃度の問題は即座に解決されると考えているようであった。しかしながら、化学肥料を施用している5世帯の稲作農家の収量実態を聞き取った結果は、1エーカーあたりNPKを100Kgと尿素100Kgを施用した場合の平均稲収量が1.8トン/haでしかなく、化学肥料を施用しての収量としてはかなり低い。一方、マニュアルを作成する際に実施した土壌改善のための実証試験では、化学肥料なしでの堆肥と稲わらの直接施用あるいは稲わらの直接施用だけでも2.0トン/ha以上の収量が得られていた。

そこで、農家コミュニティーでの聞き取り調査の際に、マニュアルに示した技術の多くが身近にある資源を利用した低コストで土壌肥沃度を回復させ、イネの収量を増加させる効果があると説明した。その後、マニュアルの入手を要望する農家が多く出てきた。このことは、本マニュアルの技術が農家の抱える土壌の肥沃度の低下や収量の減少という問題を解決するのに役立つ内容であることが、まだ多くの農家に伝わっていないことを示唆している。その意味で、今後の普及宣伝活動の果たす効果が大きいといえよう。

また、稲わら施用や、もみ殻燻炭、堆肥つくりの実証試験を経験し、あるいは技術指導のデモに参加して説明を受けた農家の中には、すでに自分の耕地で実践した農民もいた。そうした農民の意見は、化学肥料の不足を補う技術として有効であるとの評価が多かった。この点から、マニュアルで紹介された技術がもたらすインパクトは、一定の範囲で農家コミュニティーに及んでいると推定できるが、より広い範囲への波及効果は今後の普及活動の進展如何に関わっていると思われる。

自立発展性の有無

アクラのガーナ政府食糧農業省、クマシおよびタマレのMoFA地方事務所の担当係官および土壌研究所と開発研究大学の研究者らへの聞き取り調査において、本マニュアルの内容については土壌改善の実効性と普及可能性について高い評価が得られた。そのことは、マニュアルが短期間に全国の農業普及事務所の農業普及員に配布された事実と、ソフトコピーとしてPDF化されたマュアルが普及関連機関の人々のラップトップコンピューター内に保存されていたことからも判断できる。しかし、PDFファイルから印刷されたハードコピーがその関連する機関や人に配布されたかどうかについては確認できなかった。また、マニュアルのハードコピーが増刷されて配布したかどうかについても確認できなかった。政府の担当者への聞き取り調査時に、本マニュアルをよりわかりやすくポスター化する案やリーフレットにして配布する案も出されたが、予算的な問題で実行は困難であるとのことだった。アニメ化についても関心はあるが、実施に当たっては予算上の問題が指摘された。

とはいえ、聞き取り調査時にマニュアルについて意見交換したMoFAの稲作担当官、土壌研究所の研究員、開発研究大学の教員や研究者から、どのようにすればマニュアルで紹介した技術を普及することができるかについて活発な議論がなされ、その中から多くの貴重な意見が得られた。また、農民コミュニティーでの聞き取り調査時にも農民から意欲的な多数の意見が得られた。そうした調査経緯から、土壌肥沃度が低下し収量が減少している厳しい現実を前にして、いかにすれば問題を解決できるかが常に議論の中心にあった。 したがって、そうした問題を解決するための指導書としての本マニュアルへの期待は大きいと強く感じた。今後は、ガーナ政府による普及活動を推進するための予算処置の有無が自立発展性を左右することになると思われる。

総合評価

ガーナ政府のMoFAにおける聞き取り調査の結果から、アフリカ稲作振興のための土壌肥沃度改善技術をまとめた本マニュアルに対する技術的評価は、学術的な内容が農業普及員や農民には理解が難しいのではないかと危惧する意見がある一方で、コンパクトで写真や絵などを用いた説明がわかりやすいとの評価もあった。それらの意見を踏まえ、利用できる技術を簡略化してポスターにしたりリーフレットにしたりする方法や、実務をチャート方式でわかりやすく説明するなどの案が出された。

農民にも理解できる技術マニュアルとするために、英語を現地語に翻訳してはどうかとの提案に対しては、異論があった。というのも、ガーナには47の現地語があり、主要な現地語だけでも9言語あること、また農民たちは通常現地語で書かれた文章を読む習慣がなく、たとえ現地語に翻訳された場合でも読むとは限らないとのことだった。しかし、子供たちは英語を読む教育がなされているので、子供から親に情報が伝わるような工夫があれば英語マニュアルも有効と思われる。

MoFAを介して配布された本マニュアルは、それを利用する農業普及員レベルまでは届いていた。したがって、農民たちの多くはマニュアル本とその内容については知っていたが、それら技術の中には実際に活用している事例が多くないものもあった。その理由として考えられるのは、マニュアルで紹介した技術を農業普及員の指導や展示だけで実施するのが困難な場合があるからである。たとえば、もみ殻の燻炭化技術を導入するためには、燻炭製造機を購入するか自作するしかないことが、普及を難しくしているように思われる。

その一方で、マニュアルに示した地域資源を利用した土壌肥沃度を改善する技術は、低コストであることから関心を抱く農民も多い。したがって、すでに自分の耕地で実践している農民や、化学肥料の不足を補てんする技術として認識している農民も多く、マニュアルの内容が広く周知するならば、その技術の普及可能性は大きいといえよう。

JIRCASの業務運営への改善への活用策

本マニュアルで紹介された土壌肥沃度改善技術は、ガーナの南北地域にわたって分布する赤道森林帯からギニアサバンナ帯にいたる異なる農業生態系で実施したオンファーム試験の結果に基づいて実証された技術である。そのため、各農業生態系内で入手可能な自然資源や環境資源を利用した地域適合型の技術になっている。さらに、対象とした赤道森林帯およびギニアサバンナ帯内の各農業生態系は西アフリカを横断的に分布しており、気候だけでなく土壌の特性も類似していることから、土壌肥沃度の低下に関わる諸問題は西アフリカの農民の間では共通する深刻な問題である。一方、各農業生態系内で適応可能な土壌改善技術は共通する生態系内の広範囲な地域で利用が可能であると考えられる。したがって、本マニュアルの各農業生態系で適用可能な土壌肥沃度改善技術は、ガーナのみならず周辺諸国、とくに西アフリカの赤道森林帯とギニアサバンナ帯に属する農業生態系を同じくする地域の農民たちにも適応可能な技術として普及の拡大が期待できる。本マニュアルには紹介されていないが、赤道森林帯の農民は窒素固定をするアゾーラ(アカウキクサ)の存在を認識していた。しかし、その肥料効果については十分に認識しているとは言えない。また、農薬を散布した後ではアゾーラが死滅することは知っており、それが稲の収量に影響があるかもしれないと考えていた。

今や、アゾーラは在来資源の一つであり、また十分に活用しているとは言えない米ぬかをリン肥料として施用することによって、窒素固定をするアゾーラの飛躍的な繁茂が期待できるとともに窒素肥料の施用に替わる効果が期待できる。

また、マニュアルではこれまで堆肥の材料として家畜糞や作物残渣の稲わらなどを推奨してきたが、農家ではニームの葉やシアバターの残渣なども堆肥材料として広く利用されていた。まだまだ入手可能な利用できる他の樹木の葉や有機廃棄物などの在来の有機資源は、調査すればもっと見つかるように思われる。

写真9. 耕運機で代掻きした後の田植え。しかし、移植方法はランダム植え。

写真9. 耕運機で代掻きした後の田植え。しかし、移植方法はランダム植え。