窒素フットプリントを活用した窒素負荷・化学肥料の削減効果と資源循環の見える化

関連プロジェクト
熱帯島嶼環境保全
要約
環境中に排出される反応性窒素を定量化する指標である食の窒素フットプリントを活用し、窒素負荷の実態とその改善策を見える化する。亜熱帯に位置し農畜産業が盛んな沖縄県石垣島の場合、島内で産出される牛糞堆肥の70%を農地に還元することで、化学肥料使用量と島内の窒素負荷をそれぞれ30%および18%削減することができる。

背景・ねらい

化学肥料の国際価格は、2022年半ばより高騰が始まり、世界中の農業に打撃を与えている。特に、その多くを輸入に頼る島嶼地域では、農業経営にとって深刻な影響が出ている。一方、化学肥料は作物生産にとって重要な資材であるが、作物が吸収しない窒素分が土壌下層へ溶脱し、地下水汚染などの環境への影響が問題視されている。この状況に対応するため、我が国では国内資源由来肥料の利用拡大に向けた取り組みが開始されているなど、域内で発生する有機資源を利用する資源循環型農業の重要性が再認識されてきている。資源循環により、農業生産における化学肥料の使用量削減および環境負荷の軽減が期待できる。
資源循環型農業が成り立つには、農業生産者の取り組みだけでなく、消費者がこの農業で生産された農作物を選択することが不可欠である。食の窒素フットプリントは、食料の生産から、加工、流通、消費、そしてヒトの排泄までの全過程から、どれ位の反応性窒素(窒素分子以外の窒素化合物。生物が利用可能。)が環境中に排出されるかを表す窒素負荷の指標であり、消費者の食の選択と環境負荷の関係を理解する一助となる。また、窒素負荷の主因の特定や、改善シナリオによる窒素負荷削減効果の定量化などに活用でき、消費者・生産者・行政等の関係者へ示すことができる。
本研究は、亜熱帯に位置する沖縄県石垣島に食の窒素フットプリントを適用し、輸出入を含む島の食料システムにおける窒素負荷の実態を把握すると共に、化学肥料使用量削減を目指したシナリオを検討する。

 

成果の内容・特徴

  1. 石垣島の食料システム全体の食の窒素フットプリントの計算フレームを構築する。石垣島は農畜産業が主産業であることから、牛糞堆肥などの有機資源を農作物生産に分配する資源循環を考慮する(図1)。また、輸入食料・飼料の生産に伴う島外での窒素負荷や石垣島からの食料輸出も組み込む。これにより目標とする化学肥料使用量の削減に達するために必要な牛糞堆肥利用率を試算することが可能となる。
  2. 国や県の施肥量や農地面積などの統計データを用いて、化学肥料使用量や牛糞堆肥利用率、未利用のまま環境中へ放出される窒素負荷を求める(図2a)。石垣島の場合、2018年現在、島内に流入してくる反応性窒素の半分以上は化学肥料であり、堆肥の利用率は13%と低い。
  3. 島内で産出される牛糞堆肥を農地に還元する化学肥料使用量の削減シナリオを一例として検討する。その結果、島内で産出される牛糞堆肥の70%を農地で利用することで、化学肥料の使用量を3割削減できる。また、これにより島内の環境負荷は18%軽減できる(図2b)。
  4. 食の窒素フットプリントの考えは、これまでは国や地域のスケールで適用されており、島嶼のスケールに適用し窒素負荷を評価する事例は本研究が初めてである。

 

成果の活用面・留意点

  1. 構築した食の窒素フットプリント計算フレームは地域の有機資源の有効活用を通じた窒素の排出削減を検討し、消費者・生産者・行政等の関係者へ示すことができる。
  2. みどりの食料システム戦略やSDGsに沿った取り組みを進める自治体の施策や、海外の熱帯島嶼地域での環境負荷軽減に活用できる。
  3. 牛糞堆肥以外の有機物還元や環境負荷軽減技術の導入効果については今回の試算に含まれていないため、別途求めていく必要がある。

 

具体的データ

分類

行政

研究プロジェクト
プログラム名

環境

予算区分

交付金 » 第5期 » 環境プログラム » 熱帯島嶼環境保全

研究期間

2021~2023年度

研究担当者

濵田 耕佑 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

直子 ( 農村開発領域 )

見える化ID: 001802

江口 定夫 ( 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) )

科研費研究者番号: 30354020
見える化ID: 1631

平野 七恵 ( 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) )

朝田 ( 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) )

科研費研究者番号: 10574460
見える化ID: 1633

ほか
発表論文等

Hamada et al. (2023) Environmental Research Letters 18: 075010. 
https://doi.org/10.1088/1748-9326/acdf04

日本語PDF

2023_A09_ja.pdf447.43 KB

English PDF

2023_A09_en.pdf225.99 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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