タイ発酵型米麺の液状化及び予防のためのpH管理の経営的評価
タイ発酵型米麺の液状化は、小規模な発酵型米麺企業に大幅な減収と経営の不安定化をもたらし得る。麺の液状化予防のための製造工程におけるpH計測及び、酸性の洗浄水による麺の洗浄にかかる費用は一般的な保存料を使用するよりも安価であり、経営安定化の効果が大きい。
背景・ねらい
タイをはじめ大メコン圏で広く生産、消費される発酵型米麺は、製造後に急激に麺の形が崩れ液状化する場合があり、生産・流通上の問題となっている。国際農研では液状化の原因を特定するとともに、麺の液状化予防には、製造工程におけるpHの適切な計測・管理と、酸性の洗浄水による麺の洗浄が有効であることを明らかにした(令和元年度国際農林水産業研究成果情報C01「タイ発酵型⽶麺の液状化は、麺をpH 4程度の酸性に保つことで抑制できる」)。そこで、生産現場におけるpH管理を促すため、タイにおいて代表的な小規模発酵型米麺工場の経営的評価を行い、麺の液状化被害及びpH管理がもたらす便益を明らかにする。成果の内容・特徴
- タイにおいて代表的な小規模発酵型米麺企業の経営評価モデル(図1)を構築して行った経営シミュレーションによると、麺の液状化は大幅な減収と経営の不安定化をもたらし得る(図2)。麺の液状化予防は、これらのリスクを低下させ発酵型米粉・米麺両方の製造業者の経営安定化に寄与する。
- 製造工程における適切なpH管理に必要なpH計測費用が総費用に占める割合は、pH試験紙を用いた場合、極めて小さい(表1A:試算対象とした小規模工場の場合は約370バーツ/月)。ただし、計測箇所が多い場合は、計測のコストと簡便さの観点からpH計の使用が推奨される。
- 麺の液状化を防ぐために有効な酸性の洗浄水による麺の洗浄にかかる費用は、一般的な保存料を使用した場合よりも安価であり、総費用に占める割合はpH計測費用と同様極めて小さい(表1B:試算対象工場の場合約220バーツ/月)。
- これらの結果は、伝統的製法を用いる小規模な発酵型米麺企業にとって、pHに着目した基本的な工程管理は導入が比較的容易で経営安定化の効果が大きいことを示唆している。
成果の活用面・留意点
- 液状化防止技術導入の経営への影響が明らかになり、技術導入が促進されることで、発酵型米麺企業の経営安定化と食品ロスの削減が期待できる。
- 発酵型米粉・米麺生産者は、表1を参考に自工場でのpH計測の頻度や方法、酢酸等の使用を検討できる。
- 本成果は、タイにおいて一般的な、伝統的な製法を用いる小規模な製粉・製麺企業から得られたデータに基づくものである。活用の際には事業者の規模や技術、水質等の生産条件の違いを十分に考慮する必要がある。
具体的データ
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聞き取り調査によって得られた経営データを基に、発酵型米粉・米麺両方の製造業者についてモデルを構築した。図で示されているのは、米粉と米麺に共通するフローチャート。
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タイ政府工業省に登録されている発酵型米麺関連企業の平均値と同等の規模を想定(製粉作業員13人、原料米5.5トン/日、製麺作業員6人、原料発酵米粉0.6トン/日)。1日目に液状化発生により販売量のみ減少、2日目以降は出荷・生産量も減少させ変動費を抑制するシナリオを用いた。実線は日販売量が全量、点線は50%販売不能となる場合の推計値。製麺工程は原料発酵米粉を全量購入する場合の値。販売できない日数が伸びると、図に示される月単位の利益や安全余裕率が低下する。安全余裕率は、液状化の影響を受けた月単位の売上高がさらに何%減少すると利益が0になるかを表す指標であり、経営の安定性を示す。
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表1 pHに着目した発酵型米麺液状化予防にかかる費用
事例調査を行った さらなる予防措置を 企業の場合 講じる場合 発酵型米粉・米麺製造工程におけるpHの試験紙による計測にかかる費用 計測回数(回/日) 10 20 費用(バーツ/月) 373 746 総費用に占める割合(%) 0.01 0.03 酸性の洗浄水による麺の洗浄にかかる費用 酢酸使用量(L/日) 0.2 1 費用(バーツ/月) 216 1,083 総費用に占める割合(%) 0.01 0.04 事例調査を行った企業は、図2に示される標準的な規模。麺の洗浄量は、約830kg/日(1台の製麺機を8時間/日稼働させた場合の生産量)を想定。事例調査を行った企業の総費用は282万バーツ/月(うち製粉工程268万バーツ/月、製麺工程14万バーツ/月)。
(参考)pH計による費用は、耐用年数6年を仮定した場合、電池の消耗を加味しても431バーツ/月。法定量上限まで麺に一般的な保存料を添加した場合の費用は2,647バーツ/月。
- Affiliation
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国際農研 生物資源・利用領域
- 分類
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技術
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » フードバリューチェーン
- 研究期間
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2020年度(2016~2020 年度)
- 研究担当者
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草野 栄一 ( 社会科学領域 )
丸井 淳一朗 ( 生物資源・利用領域 )
見える化ID: 001765吉橋 忠 ( 生物資源・利用領域 )
- ほか
- 発表論文等
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Kusano E et al. (2021) Japan Agricultural Research Quarterly, 55(3)
- 日本語PDF
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2020_C02_A4_ja.pdf273.64 KB
2020_C02_A3_ja.pdf273.46 KB
- English PDF
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2020_C02_A4_en.pdf241.11 KB
2020_C02_A3_en.pdf242.4 KB
- ポスターPDF
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2020_C02_poster.pdf256.05 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。