エチオピアの共有林維持管理には協力行動の意義に関する情報提供が欠かせない

要約

エチオピアティグライ州の農民は、エチオピア高原の共有地を利用しながら、保全するための協力行動を行っている。このような農民による共有林保全活動を持続的に行うためには、協力行動の意義に関する情報提供を行う必要がある。

背景・ねらい

エチオピア高原にあるティグライ州の森林の多くは、村落が共同管理する共有林である。こうした共有林は、地域の農民が共同で石積みや保全溝の造成などの水土保全作業や植林作業を行うなど農民の共同作業負担によって維持されてきた(図1)。共同体の成員全員が無償で水土保全工を行うことによって共有林の植生が維持・改善され、農民はそこから家畜の飼料や薪木の採集をすることができる。しかし、近年はそうした共同体活動への参加率が下がりつつある。共有林の維持は、地域の農民が自発的に協力して植林や水土保全工などの作業を続けることができるかどうかにかかっている。本研究では行動経済実験により、共有林保全に資する協力行動の意義に関する情報提供が農民の協力行動を促すかどうか調べる。

成果の内容・特徴

  1. ティグライ州東部の11村で無作為抽出した農民672人を対象に、8人のコミュニティー単位で、公共財ゲームとして知られる行動経済実験を行う。実験参加者が、共有林維持のために匿名の拠出を行うという設定で経済実験を10回(ラウンド)繰り返す。実験開始前に参加者に対しゲームのルールと拠出の結果に関する説明を行う。各参加者は共有地保全のための拠出として、実際に自分の所持金から現金を支払う。これはコミュニティーの他のメンバーに対する協力の程度を示す。共有地全体をプールして二倍にした金額を共有地保全による便益として各参加者に平等に分配する。5回目終了後に再び参加者に、ゲームのルールと協力行動によってどのような結果が生じるかについて情報提供を行い、さらに実験を継続する。
  2. 拠出額は5回目までは低下を続ける(図2)。情報提供の後、6回目には拠出額は1回目と同じ水準まで上昇し、その後の拠出額の低下は少なくなる(表1)。この結果は、この情報提供が協力行動による共有林の保全に対し長期的な効果があることを示す。
  3. 自然資源の保全意識は参加者個人の属性によって異なる(表2)。郡の中心地から遠い農家ほど拠出額は多く、村民に対する信頼度が高いほど拠出額は多い。市場との関係が薄い伝統的な農村の家ほどコミュニティーに協力的である。
  4. 各回の拠出額は、直前の回での他のメンバーの拠出額と正の相関がある(表2)。他のメンバーが拠出額を変えれば、次回の自分の拠出額はほぼ同じだけ変える。すなわち各参加者の協力行動は、他のコミュニティーメンバーの協力行動の影響を受ける。

成果の活用面・留意点

  1. 農民に森林保全活動に関して協力行動を取ることのメリットを伝えることにより、保全活動への参加意欲が高く継続する。セミナーや研修等の情報提供を主体とした機会を持つことが望ましい。
  2. 農民の協調性は、国・地域や民族、世帯特性や地理条件によって異なることに留意する。

具体的データ

  1. 図1 農家の共同作業で作られた石積みによる植林用水土保全工(メケレ市内)

     

  2. 図2 公共財自発的供給実験の拠出額
    注:垂直な線は情報提供のタイミングを示す。 ETB:エチオピアブル

     

  3. 表1 公共財自発的供給実験の進行にともなう拠出額の変化

    実験の回数

    1回から5回

    5回から6回

    6回から10回

    拠出額の変化

    -0.963***

    0.808***

    -0.224***

    1回から5回との差

    -

    1.771***

    0.739***

    注:672人の実験の平均値.***:p<0.01.

     

  4. 表2 農民の属性と拠出額の決定要因

      属性 係数推定値     属性 係数推定値  
      他のメンバーの拠出額 1.084***     町からの距離 0.021***  
      女性 -0.09      村民に対する信頼 0.395***  
      就学年数 0.014      農地面積 -0.112**   
      年齢 0.206***     保有家畜頭数 -0.008   
      肥沃度 -0.213***          

    注:Tobit回帰モデル推定値。他のメンバーの拠出額:1回前の自分以外のメンバーの拠出額の平均値(ETB)。町からの距離:郡の中心地から自宅までの距離(km)。村民に対する信頼:アンケート調査で同じ村の人々が互いを信頼するか、信頼しないかを質問した結果のダミー変数。女性、就学年数、および年齢は世帯主のデータ。保有家畜頭数:世帯の総家畜数(熱帯家畜単位)。肥沃度は石灰質土壌以外の地域のダミー変数。***p<0.01, **p<0.05
    .

所属

国際農研 社会科学領域

分類

研究

国名

エチオピア

研究プロジェクト

サブサハラアフリカの土壌侵食危険地域における集約型流域管理モデルの構築(アフリカ流域管理)

プログラム名

資源・環境管理

予算区分

交付金 » アフリカ流域管理

研究期間

2020年度(2016~2020年度)

研究担当者

Etsay Haftu ( メケレ大学 )

Berhe Melaku ( メケレ大学 )

Negash Teklay ( メケレ大学 )

鬼木 俊次 ( 社会科学領域 )

ほか
発表論文等

Oniki S et al. (2020) Sustainability 12:9290

https://doi.org/10.3390/su12219290

日本語PDF

2020_A06_A4_ja.pdf358.3 KB

2020_A06_A3_ja.pdf358.38 KB

English PDF

2020_A06_A4_en.pdf375.72 KB

2020_A06_A3_en.pdf377.55 KB

ポスターPDF

2020_A06_poster.pdf368.52 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。