ラオス淡水魚発酵調味料のヒスタミン生成は仕込み時の塩分調整で抑制できる

国名
ラオス
要約

ラオス農村世帯で生産・消費される淡水魚発酵調味料には製品ごとに塩分のばらつきがあり、低塩分の製品では高濃度のヒスタミンが生成される傾向がある。魚、塩、米糠の重量比を3:1:1となるよう混ぜ合わせる伝統的な製法に従い、仕込み時の塩分を18%程度に調整することにより、発酵に伴うヒスタミンの生成を抑制できる。

背景・ねらい

淡水魚発酵調味料(ラオス名:パデーク)は内陸国ラオスの重要な食料資源である淡水魚を、塩、米糠とともに常温で半年から1年程度発酵させた伝統食品であり、グルタミン酸、リジン等の遊離アミノ酸を含む保存性の高い万能調味料として広く食されている。市場で流通する商業生産品とともに、農村世帯で生産・消費されるパデークは、身近な魚類資源を活かす栄養供給源としても重要である。一方、その発酵過程では、魚のタンパク質が分解して生じるアミノ酸の一種ヒスチジンが一部の細菌によりヒスタミンに変換されることがある。感受性には個人差があるが、500~1,000 ppm以上のヒスタミンを含む食品では、アレルギー様食中毒の懸念が生じる。パデークにおけるヒスタミン生成要因を解明し、抑制方法を普及することで、安全性の確保や食料廃棄の削減が期待できる。

成果の内容・特徴

  1. ラオス農村世帯で生産、消費されるパデークの塩分には製品ごとのばらつきがあり、低塩分の製品で高濃度のヒスタミンが生成される傾向がある(図1)。
  2. ラオスのパデーク生産者から聞き取った伝統的な製法に従い、魚、塩、米糠を3:1:1の重量比で配合して、塩分を18%としたパデークの発酵試験では、仕込みから26週間後までヒスタミンを検出しないが、10%または6.5%とした場合には、2~26週間後にかけて約400~1,100 ppmのヒスタミンが検出される(図2)。
  3. パデークの仕込み日、使用開始日、材料魚種の記入欄と、上記配合での魚、塩、米糠の重量を記載した発酵管理・配合比早見表と(図3)、発酵容器ならびに塩を農村世帯へ配布し、パデークの製法についての説明会を実施した。説明会実施後に参加者が製造したパデークの塩分、ヒスタミン濃度の平均値はそれぞれ17.6%、181 ppmとなり、同村で説明会実施前に収集した試料の値 (13.3%、460 ppm)に比べ、統計的に有意な差が確認される(図4A, B)。

成果の活用面・留意点

  1. 伝統的な製法に従い、仕込み時の塩分を18%程度に調整することで、パデークのヒスタミン生成を抑制しアレルギー様食中毒のリスクを低減できる。
  2. 魚、塩、米糠の配合比を3:1:1とする発酵管理・配合比早見表の使用は、ラオス農村世帯で製造されるパデークのヒスタミン抑制に重要な、仕込み時の塩分調整に有効である。
  3. 仕込み時の塩分を18%程度に調整することは、パデークの発酵過程で耐塩性の低いヒスタミン産生菌の抑制に効果を示すが、仕込み前の魚のヒスタミン生成を抑える鮮度管理や、耐塩性の高いヒスタミン産生菌等の混入を抑制する製造時の衛生管理にも留意する必要がある。

具体的データ

  1. 図1 農村世帯における自家製パデークの塩分とヒスタミン濃度に見られる負の相関
    図1 農村世帯における自家製パデークの塩分とヒスタミン濃度に見られる負の相関

    (r = 0.633, p < 0.01, n = 24)

     

  2. 図2 仕込み時の塩分を18% (●)、10% (■)、6.5% (▲)に調整したパデーク発酵試験におけるヒスタミン濃度の経時変化
    図2 仕込み時の塩分を18% (●)、10% (■)、6.5% (▲)に調整したパデーク発酵試験におけるヒスタミン濃度の経時変化

     

  3. 図3 農村説明会の参加者へ配布したパデーク発酵管理・配合比早見表
    図3 農村説明会の参加者へ配布したパデーク発酵管理・配合比早見表

     

  4. 図4 農村説明会を実施する以前に調査地で収集したパデーク試料(説明会前)および実施後に参加者から収集した試料(説明会後)における塩分 (A)およびヒスタミン濃度 (B)の比較
    図4 農村説明会を実施する以前に調査地で収集したパデーク試料(説明会前)および実施後に参加者から収集した試料(説明会後)における塩分 (A)およびヒスタミン濃度 (B)の比較
Affiliation

国際農研 生物資源・利用領域

分類

技術

研究プロジェクト
プログラム名

高付加価値化

予算区分

交付金 » 農山村資源活用

研究期間

2020年度(2016~2020年度)

研究担当者

丸井 淳一朗 ( 生物資源・利用領域 )

見える化ID: 001765

Phouphasouk Souphachay ( ラオス国立大学 )

Boulom Sayvisene ( ラオス国立大学 )

ほか
発表論文等

Marui J et al. (2020) Journal of Food Protection, 84(3):429–436
https://doi.org/10.4315/JFP-20-272

日本語PDF

2020_C04_A4_ja.pdf512.67 KB

2020_C04_A3_ja.pdf512.44 KB

English PDF

2020_C04_A4_en.pdf471.58 KB

2020_C04_A3_en.pdf281.57 KB

ポスターPDF

2020_C04_poster.pdf373.21 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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