サトウキビ白葉病の主要な媒介虫に対し高い効果を示す殺虫剤
ジノテフランは、サトウキビ白葉病の主要媒介虫であるタイワンマダラヨコバイに対し高い殺虫効果を有するが、サトウキビ圃場でズイムシ防除用に放飼されている天敵昆虫への影響が少ない。本剤は健全種茎増殖圃場で本病の虫媒感染リスクを低下させる技術の開発に利用できる。
背景・ねらい
サトウキビ白葉病は、東南アジア等で発生し、タイのサトウキビ生産において特に大きな経済的被害を及ぼしている虫媒伝染性のファイトプラズマ病である。本病に対しては、感染後の有効な治療法がないことから、生長点培養法により作出された健全種茎の配布を基盤技術とする総合防除体系の開発が進められている。しかし、健全種茎の増殖圃場において、白葉病の主要媒介虫であるタイワンマダラヨコバイ(Matsumuratettix hiroglyphicus) 等により種茎が白葉病に感染し、健全種茎が増殖できないという問題がある。そこで、健全種茎増殖圃場における白葉病の虫媒感染リスクを低下させる技術を開発するため、タイワンマダラヨコバイの防除に適した殺虫剤を探索する。
成果の内容・特徴
- ポットで2か月栽培したサトウキビに、タイ国内で市販されている様々な系統の殺虫剤7種類を施用すると(図1 a)、シハロトリン2.5%乳剤、チアメトキサム25%顆粒水和剤、ジノテフラン1%粒剤でタイワンマダラヨコバイへの高い殺虫効果が比較的長期間維持される(表1)。
- 定植後6~7か月のサトウキビ圃場に、タイワンマダラヨコバイに対する効果が高い3種類の薬剤をそれぞれ施用し(図1b)、小型リーフケージを用いて残効性を調査すると(図1c)、ジノテフラン1%粒剤の残効性が最も高い(表2)。
- タイのサトウキビ圃場においてズイムシ対策として放飼されている天敵昆虫であるコマユバチの1種Cotesia flavipesおよびタマゴバチの1種Trichogramma confusumに対する死亡率は、タイワンマダラヨコバイに対して高い殺虫効果が見られる3種類の薬剤のうち、ジノテフラン1%粒剤で低く、対照の蒸留水とほぼ同程度である(表3)。
- 以上より、ジノテフラン1%粒剤は、タイワンマダラヨコバイに対する殺虫効果が高く、ズイムシ防除のために放飼されている天敵昆虫に対する影響が少ない。
成果の活用面・留意点
- 健全種茎を圃場で大量生産するためには、無病種茎の定植と媒介虫による白葉病感染リスク抑制の両者が必要であるが、本成果は後者に寄与する。
- 本成果を用いて、ジノテフラン1%粒剤を基盤薬剤とする化学的防除法を開発するためには、サトウキビの生育段階ごとの残効期間を推定するとともに、サトウキビ圃場におけるタイワンマダラヨコバイ個体数の季節変動を把握し、合理的な薬剤処理時期および施用量を検討する必要がある。
- タイのサトウキビ圃場においてジノテフラン1%粒剤を商業的に施用するためには、農薬登録を行う必要がある。
具体的データ
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a) 室内実験の様子。ケース内に媒介虫が放飼されている。
b) 薬剤散布時のサトウキビ圃場。草丈は約160cm。
c) 媒介虫が放飼された小型ケージ。直径は20mm。 -
表1 室内条件下におけるタイワンマダラヨコバイに対する残効性
死亡率±標準誤差 (%) 薬剤名 1日後 7日後 30日後 カルバリル85%水和剤 100 ±0a 100 ±0a 0 ±0b カルボスルファン20%乳剤 100 ±0a 100 ±0a 0 ±0b カルボフラン3%粒剤 0 ±0b 40.6±6.0b 0 ±0b EPN45%乳剤 100 ±0a 100 ±0a 0 ±0b シハロトリン2.5%乳剤 100 ±0a 78.1±6.0a 6.3±6.3b チアメトキサム25%顆粒水和剤 100 ±0a 100 ±0a 87.5±5.1a ジノテフラン1%粒剤 93.8±6.3a 100 ±0a 100 ±0a 蒸留水 3.1±3.1b 0 ±0c 0±0b ポットで2か月間栽培したサトウキビに薬剤を処理し、任意の期間後に供試虫を放飼する。
数値は放飼48時間後の死亡率を示す。
同列内の同一英文字がない数値間は、有意差があることを示す
(Tukey’s HSD法, p<0.05) -
表2 野外条件下におけるタイワンマダラヨコバイに対する残効性
死亡率±標準誤差 (%) 薬剤名 1日後 7日後 30日後 60日後 シハロトリン2.5%乳剤 34.7±18.5b 4.0±2.3b 1.3± 1.3b 2.7± 1.3ab チアメトキサム25%顆粒水和剤 100 ± 0a 98.6±1.3a 30.7±10.4a 9.3± 5.8ab ジノテフラン1%粒剤 98.7±1.3a 100 ±0a 98.7± 1.3a 49.3±13.1a 蒸留水 5.3±2.7b 1.3±1.3b 2.7± 2.7b 1.3± 1.3b 定植6~7か月後のサトウキビ圃場に薬剤を処理し、任意の期間後に供試虫を放飼する。
数値は放飼48時間後の死亡率を示す。
同列内の同一英文字がない数値間は、有意差があることを示す(Tukey’s HSD法, p<0.05) -
表3 天敵類に対する殺虫剤の影響
C. flavipes T. confusum 死亡率±標準誤差 (%) 死亡率±標準誤差 (%) 薬剤名 1日後 7日後 30日後 1日後 7日後 30日後 シハロトリン2.5%乳剤 79.0±6.4a 11.0±8.6a 5.0±1.6a 73.0±3.4b 20.5±3.0b 11.0±3.3a チアメトキサム25%顆粒水和剤 65.0±5.0a 8.0±2.0a 8.0±2.6a 98.0±2.0a 41.5±7.2a 12.0±3.7a ジノテフラン1%粒剤 6.0±1.9b 4.0±1.9a 2.0±1.2a 17.0±3.7c 14.0±2.0b 5.0±2.2a 蒸留水 1.0±1.0b 2.0±1.2a 0 ±0a 10.0±2.2c 9.5±2.2b 3.0±2.0a ポットで5か月間栽培したサトウキビに薬剤を処理し、任意の期間後に供試虫を放飼する。
数値は放飼48時間後の死亡率を示す。
同列内の同一英文字がない数値間は、有意差があることを示す(Tukey’s HSD法, p<0.05)。
- Affiliation
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国際農研 熱帯・島嶼研究拠点
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 病害虫防除
- 研究期間
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2017年度(2014~2018年度)
- 研究担当者
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小堀 陽一 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
安藤 象太郎 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
Hanboonsong Yupa ( コンケン大学農学部 )
- ほか
- 発表論文等
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Hanboonsong Y and Kobori Y (2017) Sugar Tech, 19: 573–578
- 日本語PDF
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A3 279.13 KB
- English PDF
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A3 169.54 KB
- ポスターPDF
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