主要普及成果
少ない窒素肥料で高い生産性を示す生物的硝化抑制(BNI)強化コムギの開発
背景・ねらい
近代農業は、工業的に固定した窒素を農地に投入することを基盤としている。しかし、アンモニア態窒素として投入した窒素の過半は、作物に利用されず農地外へと溶脱・流出している。窒素の損失の多くは、土壌細菌による硝化を原因としており、生成物の硝酸態窒素は、水圏環境の悪化を引き起こすと共に、その後の窒素循環によりCO2の298倍の温室効果のあるN2Oが生じる。植物が根から硝化を抑制する物質を分泌し、土壌窒素の溶脱を防ぐBNIは、熱帯牧草の機能として2009年に世界に先駆けて国際農研が証明し、作物への展開が期待されている。BNIを食料システムに応用することで、窒素を土壌に留め、作物の窒素利用効率を向上させることが出来る。これにより、少ない窒素投入で高い生産性を確保できると共に、窒素の損失に伴う環境汚染を低減でき、地球温暖化の緩和に繋がる。コムギは三大作物の1つで、世界で最も広く栽培されると共に、最も多くの窒素が投入される作物であるが、BNI能の高い品種は現在まで見出されていない。このため、高いBNI能を示す野生コムギ遺伝資源の活用によるBNI能の強化により、生産力向上と持続性の両立を図る。成果の内容・特徴
- 属間交配によりコムギの3B染色体短腕を野生コムギ近縁種オオハマニンニク(Leymus racemosus) n染色体短腕に置き換えることで、コムギのBNI能強化が期待できる。(図1)
- 多収国際コムギ品種”Munal”にオオハマニンニク由来のBNI能を導入した系統(BNI強化Munal)では、BNI能が親系統の根乾物1g、1日あたり92.7±12.1 ATU(アリルチオ尿素当量; 硝化抑制の程度を示す)から、181.7±12.1 ATUとなり、2倍程度に強化され、圃場での根圏土壌硝化菌数の抑制、硝化速度の低下、N2O排出量の低下(図2)で、環境負荷が低減される。
- BNI能強化に伴い、コムギの窒素代謝が変化し、葉の硝酸量、硝酸還元酵素活性の低下(図3)や、グルタミン合成酵素活性の上昇など、アンモニア態窒素を活用する代謝が活発になる。さらに、低窒素施肥条件では、地力窒素からの窒素取り込み能が向上する。
- “BNI強化Munal”と親系統のMunalを比較するとバイオマス生産量、子実収量、窒素吸収量は施肥量に関わらず、有意に高くなり、250 kg/haから100 kg/haに6割の窒素施肥量を削減しても子実収量(図4)、穀粒のタンパク質含量、製パン特性(図5)について有意差がない。
成果の活用面・留意点
- 多収国際コムギ品種に導入されたオオハマニンニクn染色体短腕は、戻し交配により地域の特性に適合した品種へ導入することができ、BNI能を持つ品種を世界各地で育成できる。
- BNI能を示すn染色体短腕には、野生コムギに由来する他の遺伝子も座乗することや、BNI能の発揮に土壌条件(pHなど)等の影響があることに留意が必要。
具体的データ
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図1 BNI強化コムギ(例:BNI強化Munal)
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図2 BNI強化Munal根圏土壌からのN2O排出量
根圏土壌からのN2O排出は約25%抑制される。 -
図3 BNI強化によるコムギの窒素代謝の変化
BNI強化コムギはアンモニア態窒素を選好する。 -
図4 異なる施肥水準における子実収量
250 kg/haの親系統と100 kg/haのBNI強化コムギの収量に有意差はない。 -
図5 BNI強化コムギの製パン特性
BNI強化コムギも親系統と同様にパンに加工可能。図はSubbarao et al. (2021)より改変(転載・改変許諾済)
- 分類
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技術
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 環境プログラム » BNIシステム
- 研究期間
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2021~2025年度
- 研究担当者
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Subbarao Guntur Venkata ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0002-7243-6394科研費研究者番号: 00442723岸井 正浩 ( 国際トウモロコシ・コムギ改良センター )
科研費研究者番号: 70535476Bozal-Leorri Adrian ( バスク大学 )
Oritz-Monasterio Ivan ( 国際トウモロコシ・コムギ改良センター )
Gao Xiang ( 生産環境・畜産領域 )
Itria Ibba Maria ( バスク大学 )
Karwat Hannes ( 国際トウモロコシ・コムギ改良センター )
Gonzalez-Moro M. B. ( バスク大学 )
Gonzalez-Murua Carmen ( バスク大学 )
吉橋 忠 ( 生物資源・利用領域 )
飛田 哲 ( 日本大学 )
科研費研究者番号: 30450266Kommerell Victor ( 国際トウモロコシ・コムギ改良センター )
Braun Hans-Joachim ( 国際トウモロコシ・コムギ改良センター )
岩永 勝 ( 顧問 )
- ほか
- 発表論文等
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Subbarao et al. (2021) PNAS 118: e2106595118https://doi.org/10.1073/pnas.2106595118
- 日本語PDF
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2021_A04_ja.pdf459.8 KB
- English PDF
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2021_A04_en.pdf293.84 KB
- ポスターPDF
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2021_A04_poster.pdf359.92 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。