食用地衣類を用いた血圧降下作用を有する機能性食品素材の開発
日本や中国の一部地域で食用とされている地衣類バンダイキノリ(Sulcaria sulcata) 及びカブトゴケモドキ(Lobaria kurokawae)を用いることにより、血圧調節酵素レニン及びキマーゼの阻害活性を有し、血圧降下作用を有する機能性食品の開発が可能である。
背景・ねらい
途上国等においても、健康への関心の高まりとともに、食品や農作物の健康機能性に対する要望が強まっている。そこで本研究では、東アジアの食料資源を対象に、血圧調節酵素であるレニン及びキマーゼの阻害成分のスクリーニングを行う。レニン及びキマーゼは、ヒトを含む哺乳類全般において最も重要な血圧調節系であるレニン・アンジオテンシン系に含まれる。レニンは、血圧調節ホルモン前駆体であるアンジオテンシノーゲンに作用してアンジオテンシンIを遊離する。アンジオテンシンIは、アンジオテンシン変換酵素(ACE)、あるいはキマーゼによりアンジオテンシンIIに変換される。生じたアンジオテンシンIIは、血管収縮や血液中の体液量増加等を誘発させ血圧を上昇させる。したがって、これらの血圧調節酵素の働きを阻害する成分によって、血圧降下作用をもたらすことができる。これらの阻害成分を含む食材を用いることにより、新規機能性食品素材の開発を目指す。
成果の内容・特徴
- 地衣類であるバンダイキノリ(Sulcaria sulcata) 及びカブトゴケモドキ(Lobaria kurokawae)(図1)は、日本や中国の一部地域で食材として用いられている。
- バンダイキノリ及びカブトゴケモドキの水、メタノール、エタノール抽出液には、それぞれ強いレニン及びキマーゼ阻害が存在する(表1)。また、水抽出液に含まれる阻害成分は、煮沸、オートクレーブ処理でも活性を失わず、極めて熱に安定である(表1)。
- 水を用いたオートクレーブによる抽出液を、高血圧自然発症ラット(SHR)に与えると、投与後の血圧を有意に低下させることが出来る(表2)。また、抽出液を投与しても、SHRの一般状態(外観、行動、呼吸等)は投与していないものと変わらない。
成果の活用面・留意点
- これらの食用地衣類の抽出物は、食物由来のレニン及びキマーゼ阻害剤として活用できる。
- ラットを用いた投与実験において、血圧降下作用が認められたことから、さらにヒトに対する血圧降下作用を検証する必要があるものの、これらの抽出物をヒトに対する機能性食品素材として利用することが期待される。
具体的データ
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図1 食用地衣類の写真
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表1 バンダイキノリ及びカブトゴケモドキ抽出液のレニン、キマーゼ、ACE阻害活性
阻害活性の強さは、+++から±の順で強く、-は活性が無い。
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表2 各種抽出液を高血圧自然発症ラット(SHR)に投与したときの血圧の変化数値は平均値±標準誤差。投与前の血圧値を100%とした。SHRに各抽出液を1回投与後、血圧を測定した。
- Affiliation
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国際農研 生物資源・利用領域
- 分類
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技術B
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 食料資源利用
- 研究期間
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2013年度(2011~2015年度)
- 研究担当者
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韮澤 悟 ( 生物資源・利用領域 )
程 永強 ( 中国農業大学 )
高橋 砂織 ( 秋田県総合食品研究センター )
科研費研究者番号: 10142184 - ほか
- 発表論文等
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韮澤ら、特許出願2014-19845
- 日本語PDF
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2013_C05_A4_ja.pdf274.77 KB
- English PDF
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- ポスターPDF
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