ダイズさび病抵抗性品種KinoshitaとShiranuiは2つ目の抵抗性遺伝子を有する

要約
ダイズさび病抵抗性の提供親として広く利用されてきた品種KinoshitaとShiranuiは、抵抗性遺伝子Rpp5を有することで知られているが、Rpp5の他にRpp3遺伝子を保持する。Rpp3Rpp5は様々なさび病菌に対する反応が異なるため、多くの地域のさび病菌に有効性が高い両品種の抵抗性を新品種に導入するには、2つのさび病抵抗性遺伝子を両方導入することが有効である。

背景・ねらい

ダイズさび病は、ダイズの黄化・落葉を早め、減収を引き起こす主要なダイズ病害である。この病害は、世界中のダイズ生産地域、特に熱帯・亜熱帯地方で蔓延し、国際市場へのダイズの安定的供給上の重大な阻害要因となっている。また、近年さび病菌の殺菌剤感受性が低下したことにより、防除コストや環境負荷の増大が問題となっている。そこで、各地でダイズさび病に対する抵抗性遺伝子(Rpp)を導入した品種開発が行われている(令和4年度国際農林水産業研究成果情報C01「高いさび病抵抗性を有するダイズ新品種「Doncella INTA-JIRCAS」を開発」)。2008年にRpp5を保持する抵抗性品種であると同定されたKinoshitaとShiranuiは各地で多くのダイズさび病菌に対して抵抗性を示すため、品種開発における抵抗性の提供親としてラテンアメリカやアジアで広く利用されている。しかし、広範なさび病菌への抵抗性を持つことから、両品種がRpp5以外の抵抗性も保有している可能性が示唆されている。よって、KinoshitaとShiranuiの持つ広範なさび病菌への抵抗性を品種開発において適切に活用するため、両品種の持つ抵抗性を明らかにする。

 

成果の内容・特徴

  1. 抵抗性ダイズ品種KinoshitaとShiranuiは、病原性が大きく異なり、多くの抵抗性遺伝子に非病原性となる日本産ダイズさび病菌株E1-4-12と殆どの抵抗性遺伝子に対し病原性を示す強病原性のブラジル産ダイズさび病菌株BRP-2.5の両方に抵抗性を示すが、両品種をそれぞれ感受性ダイズ品種BRS 184と交配し、それぞれF1を自殖して得られたF2集団においては、E1-4-12とBRP-2.5に対し、両菌株に抵抗性になる個体群、一方の菌株のみ抵抗性になる個体群、どちらの菌株に対しても感受性になる個体群が含まれる。
  2. これらF2集団において、E1-4-12株とBRP-2.5株に対する抵抗性についてそれぞれQTL(量的形質遺伝子座)解析を行うと、BRP-2.5株の感染では既報の様にRpp5遺伝子の染色体領域に抵抗性関連形質のQTLが検出されるが、E1-4-12株の感染ではRpp3遺伝子の染色体領域に抵抗性関連形質のQTLが検出される(図1)。
  3. BRP-2.5株に対する抵抗性のQTL解析ではRpp3領域にはQTLが検出されず、E1-4-12株に対する抵抗性のQTL解析ではRpp5領域にはQTLが検出されないため(図1)、ダイズ品種KinoshitaとShiranuiはそれぞれ2菌株のうちBRP-2.5株の病原性にのみ有効なRpp5遺伝子と、E1-4-12株の病原性にのみ有効なRpp3遺伝子の両方の抵抗性遺伝子を持つ。
  4. KinoshitaとShiranui両品種のRpp5遺伝子同士とRpp3遺伝子同士は遺伝子座の位置だけでなく、遺伝的効果が類似していることから2品種はRpp5Rpp3において、それぞれ同じか極めて類似した抵抗性型の対立遺伝子を有している可能性がある(表1)。

 

成果の活用面・留意点

  1. ダイズ圃場にはE1-4-12株とBRP-2.5株それぞれの菌株と同種の病原性を持ったさび病菌が混在する可能性があるため、抵抗性品種KinoshitaとShiranuiをさび病抵抗性の提供親として品種開発に利用する際は、Rpp5Rpp3の両方を導入するべきである。
  2. 両品種で新たに同定したRpp3の6番染色体座乗位置を、Kinoshitaについては1.6 cMのマーカー間に、Shiranuiについては1.8 cMのマーカー間に同定したため(図1)、隣接するマーカーを用いて効果的・効率的にこの遺伝子の導入を行うことが出来る。
  3. KinoshitaやShiranuiが感受性となるさび病菌に対しては、Rpp5Rpp3の両方を導入した系統も効果が無いため、他のRpp遺伝子を併せて導入する必要がある。

 

具体的データ

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

食料

農産物安定生産

予算区分

交付金 » 第5期 » 理事長インセンティブ

交付金 » 病害虫防除

研究課題

理事長インセンティブ

研究期間

2017~2023年度

研究担当者

山中 直樹 ( 生物資源・利用領域 )

見える化ID: 001770

青柳 ルシアーノ暢宏 ( 生物資源・利用領域 )

ほか
発表論文等

Yamanaka et al. (2023) Plants 12(12): 2263. 
https://doi.org/10.3390/plants12122263

日本語PDF

2023_B15_ja.pdf1.13 MB

English PDF

2023_B15_en.pdf887.67 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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