ベトナムメコンデルタの生育不良グアバから分離された同国初記録のネコブセンチュウ
ベトナムメコンデルタで多発する生育不良から枯死にいたるグアバの根には、根こぶが形成される。そこから得られる卵嚢由来の線虫幼虫のDNA解析結果から、本種はベトナムでは初記録であるネコブセンチュウMeloidogyne enterolobiiと同定される。
背景・ねらい
ベトナムメコンデルタ地域において、グアバはカンキツと並んで重要な果樹である。さらに、南部果樹研究所によりグアバ混植がカンキツのグリーニング病の感染低減化対策の1つとして推奨されている。しかし、混植用に新たに導入された良食味のグアバ品種「Khong Hat」苗木を圃場に植えたところ、定植後6カ月程度から葉が黄化し、やがて枯死する症状が多発した。グアバ単独の生産性向上だけでなく、グリーニング病対策としてグアバの混植を普及する上でも、この黄化枯死症の早急な原因究明と対策の確立が求められている。このため、本症発生実態調査と原因究明を行う。
成果の内容・特徴
- グアバ被害株の地上部の症状は、葉の褐変、退緑、生育不良(図1左)である。
- 被害株根にはネコブセンチュウの寄生によるこぶ(瘤腫)(図1中央)とネコブセンチュウに特有の卵嚢が多数見出される。また、被害が見られたグアバの根圏土壌からネコブセンチュウ第2期幼虫が検出され(図1右)、一部では100頭/土壌20 g以上の高密度である(表1)。他の有害線虫や病原微生物は検出されなかった。
- 被害株の瘤腫内の卵嚢から得られるネコブセンチュウ第2期幼虫のミトコンドリアDNA COII-16SrDNA領域の塩基配列分析より、中国産、USA産、フランス産のMeloidogyne enterolobii (syn. M. mayaguensis)との相同率は99.6%以上(表2)であり、同種と同定される。本線虫種M. enterolobiiはベトナムにおける初記録である。
- グアバ根から分離された線虫を5株のグアバ実生苗に接種すると、すべての植物の根に卵のうが形成される。再分離された線虫は、接種した線虫と同じものであることが形態およびPCRで確認され、M. enterolobiiによる根こぶ症状が再現された。
成果の活用面・留意点
- 同国初記録のネコブセンチュウによりグアバ根こぶ症状が生じることが明らかになったので、殺線虫剤の利用・抵抗性品種育成等の防除対策開発に活用する。
- 本症状は品種「Khong Hat」で発生し、在来の「Xa Ly Nghe」では発生していないことから品種により抵抗性が異なる可能性がある。
具体的データ
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葉の黄化退緑(樹冠の左上方)を生じたグアバ苗(左図)、その根に見られる「こぶ」と根の枯死(中央)、および株元土壌より検出されるネコブセンチュウ第2期幼虫(右図) -
表1 メコンデルタの黄化枯死症状が多発するグアバ圃場の線虫密度
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表2 ベトナムのグアバに寄生するネコブセンチュウのミトコンドリアDNA COII-16SrDNA領域の塩基配列相同性
- Affiliation
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国際農研 熱帯・島嶼研究拠点
- 分類
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研究B
- 予算区分
- 運営費交付金[グリーニング病]
- 研究課題
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激発地におけるカンキツグリーニング病管理技術の開発
- 研究期間
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2006~2010年度
- 研究担当者
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岩堀 英晶 ( 農研機構 九州沖縄農業研究センター )
市瀬 克也 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
TRUC Nguyen Thi Ngoc ( ベトナム南部果樹研究所 )
BANG Doan V. ( ベトナム南部果樹研究所 )
- ほか
- 発表論文等
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Iwahori H. et al. (2009) Plant Disease 93(6):675.
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