マングローブ汽水域の浄化機能の解明
エビ養殖池とマングローブ植林池との間で水を循環させるシステムは、底泥中のリンの増加を抑え、環境負荷を低減する。
背景・ねらい
東南アジアを含む発展途上国では、マングローブを伐採し養殖池を造成しエビ養殖を行って来た。これによりマングローブ域が減少し、自浄作用が低下するとともに、養殖池からの排水も増大し、沿岸環境を悪化させてきた。さらに水質および底質の悪化は養殖そのものにも深刻な影響を与え、疾病の大発生や放棄池の問題を引き起こしてきた。
マングローブ林を伐採することなく、それらが持つ自然浄化機能やその高生産性を利用するために、養殖池からの排水をマングローブに導入し、水質底質の悪化を防ぐとともに、マングローブ域から供給される餌料を利用する、低投入型の環境に優しい養殖技術を開発するための実験を行った。
成果の内容・特徴
- エビ養殖池とマングローブ植林池との間で水を循環させる実験を行った(図1)。疾病対策として養殖密度は一般的な収容密度よりはやや低い、15尾/m2および30尾/m2とした。
- 生残率は、15尾/m2で放流した池(Pond1および4)で高かった(表1)。単位重量増に必要な餌料の量を示す餌料係数(Feed conversion ratio(FCR))も、Pond4で低く、ここで最も効率的な養殖が行われたことを示した(表1)。
- 収穫量は、30尾/m2で放流しマングローブ池との間で水を循環させた池(Pond2)で高かった(表1)。
- Pond1では餌中に含まれるリンの14%、Pond2で11%、Pond4で15%がえび体内に取り込まれた(表2)。
- Pond1および4では、底泥表層3cm 内のリン含量は、投入されたリン量を上回った(表2)。これは地中深部からの溶出により、リンが供給された可能性を示す(図2)。Pond2では下回っており、池の使用履歴や底泥の酸化還元状態が溶出に影響を及ぼしている可能性がある(表2)。
- Pond2におけるリンの収支は+1.55Kgとなり、少なくともこれがマングローブ植林域に流れたものと推察される(表2)。
- Pond4における収支はPond1同様マイナスとなったが、コントロールのPond1よりは大きくPond1と同量のリンが地中から供給されたとすると、約0.43Kgのリンがマングローブ植林池に取り込まれたものと考えられる(表2)。
- 結果として、マングローブ域と水交換を行ったPond2およびPond4ではコントロールのPond1よりも底質の悪化は抑えられ、漁場の老化進行は遅らすことができた。収支の値も高く環境負荷低減効果が見られた。
成果の活用面・留意点
- 今回水の交換はガソリンを使ったポンプにより強制的に行った。コスト減をはかり、事業として行っていくためには潮汐、風力など自然を利用して水交換を行うシステムを作る必要がある。
- マングローブ池と水を循環させた場合のFCRは低く、漁業者にとっては有利であり環境負荷低減効果も見られた。さらに養殖池に対するマングローブ域の面積の比を変える等の実験を行い、最適な放流尾数、養殖池マングローブ域面積比を求めて行く必要がある。
具体的データ
- Affiliation
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国際農研 水産部
- 分類
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研究
- 予算区分
- 国際プロ〔汽水域生産〕
- 研究課題
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マングローブ汽水域の浄化機能の解明
- 研究期間
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2003 年度(2001 ~ 2003 年度)
- 研究担当者
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下田 徹 ( 水産部 )
SRITHONG Chumpol ( カセサート大学 )
ARYUTHAKA Chittima ( カセサート大学 )
- ほか
- 発表論文等
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マングローブを利用したエビ養殖排水浄化の試み. 2004 年春季日本海洋学会講演要旨集
- 日本語PDF
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2003_27_A3_ja.pdf2.17 MB
- English PDF
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2003_27_A4_en.pdf59.91 KB