マングローブ汽水域における魚介類生産機能の解明

要約

マレイシアにて、マングローブ林面積/河川面積の比が大きい水域(マタン:4.7)では漁獲量が多いが、割合の少ない(比:2.1)メルボック水域では魚類多様度が増大した。またマングローブ湿地は栄養塩ケイ藻の貯蔵庫となり、これらは隣接海水中に供給されている。

背景・ねらい

   熱帯、亜熱帯地域の沿岸や汽水域に広く繁茂するマングローブは、陸地の保全の役割を担うとともに木材資源等に役立ち、さらに沿岸魚介類の生産を支えている。近年の工業開発や養殖地、農地等の拡大によりマングローブの減少が急速に進行する状況におうて、マングローブ汽水域生態系機能と魚介類生産との係わりを解明し、熱帯、亜熱帯地域の沿岸環境保全の意義を明らかにする。

成果の内容・特徴

  1. マレイシアにおいて、マングローブ林面積/河川面積の比が大きい水域(マタン:4.7)では漁獲量が多いが、割合の小さいメルボック水域(比:2.1)では魚類多様度が増大した。しかし、この割合の最も小さかったルムット水域(比:1.1)では漁獲量、多様度とも低かった(図1)。
    (漁獲量は1操業あたりの重量、使用網:刺し網、大きさ:60.4m×1.8m、形式:固定式3重底、網の目合:45㎜、操業時間:2時間、多様度:シンプソン指数)
  2. マングローブ樹木の多い沿岸汽水域の海底土には有用貝類が多数生息しているが、マングローブ林の少ない水域では線虫類が多かった。前者水域では陸からの土砂がマングローブ林湿地に保留されるため海底土の粒子はより細かく、このような場が貝類の生育に適していると考えられた(図2)。
  3. マングローブ汽水域の食物連鎖は、マングローブデトリタス→エビ・カニ→魚類となっており、マングローブ林の少ない水域では動物プランクトンが魚類の主要な餌となっていた。
  4. マングローブ林の湿地は、陸圏の栄養塩の貯蔵場所となっており、またこの栄養を利用して有用な植物プランクトン(珪藻類)が多く増殖していた。この栄養塩とケイ藻は連続的に沿岸水域に供給され水産生物生産の基盤になるとともに、魚介類生産を阻害する有害プランクトン(赤潮プランクトン、有害プランクトン等)の増殖を抑制していることが明らかになった(図3)。

成果の活用面・留意点

   マングローブ林面積/河川面積の比が2.1以上のマングローブ生態系では、沿岸水域の魚介類生産および魚類多様性の値の高いことが明らかになった。この結果は熱帯、亜熱帯の沿岸域における農林水産業の生産維持方法の指針になると考える。

具体的データ

  1.  

    図1 マレーシア・マングローブ汽水域における漁獲量と魚類多様度
    図1 マレーシア・マングローブ汽水域における漁獲量と魚類多様度
  2.  

    図2 異なるマングローブ汽水域の底生動物
    図2 異なるマングローブ汽水域の底生動物
  3. 図3 マングローブ林の繁茂する湿地帯の役割
    図3 マングローブ林の繁茂する湿地帯の役割
Affiliation

国際農研 林業部

国際農研 水産部

国際農研 海外情報部

国際農研 環境資源部

水産庁

森林総合研究所

予算区分
国際農業(汽水域)
研究課題

熱帯・亜熱帯汽水域における生物生産機能の解明と持続的利用のための基準化

研究期間

平成7~11年

ほか
発表論文等

Proceedings of the International seminar and Workshop,Nos. 1,2,3,4 and 5, JIRCAS, 1996-2000.

日本語PDF

1999_13_A3_ja.pdf842.29 KB

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