東南アジア産有用魚介類の遺伝変異検索マニュアルの作成

国名
タイ
要約

   東南アジア産有用魚介類の遺伝変異検索のため、アイソザイム分析マニュアルを作成した。本マニュアルを用い養殖対象種を分析した結果、ナマズでは地域集団が育種素材として重要なこと、また遺伝変異検索が効率的な育種法の選択に有効であることを示した。

背景・ねらい

   東南アジア諸国では経済発展の一策として、養殖生産の拡大を図った。そのため粗放的ではあるが数百年にわたり持続的に行われてきた養殖法から、集約的な高密度給餌養殖法への急激な転換が行われた。しかし、高密度給餌養殖法は短期的には高生産性を示したが、環境破壊や持続的な生産ができないなどの大きな難点があった。そこで東南アジア地域で環境に適合した持続的養殖生産法を開発するため、研究が進んでいない養殖対象種の生物特性の解明、特に遺伝特性に関する研究の推進を行った。

成果の内容・特徴

  1. 遺伝育種研究を進めるため、まず遺伝変異検索法の確立を行った。ここでは、タイ国水産業での有用種、特に養殖対象種として重要な20種について、アイソザイム分析マニュアルを作成した(表1)。マニュアルでは、実験装置作製法、電気泳動条件、染色法、各魚介類種毎の検出酵素とその多型性、電気泳動パターン図等を記載した(表2、図1)。これにより、タイ国における有用魚介類の育種素材探索、集団の遺伝特性解明や遺伝的管理が容易になった。
  2. アイソザイム分析法を用いてナマズ(Clarias macrosepharasu)の天然集団を分析し、地方品種レベルの遺伝的差異を持つ地域集団の存在が明らかになった(図2)。このことから、ナマズの育種素材確保には地域集団の保全が有効であることがわかった。
  3. ミドリイガイの分析では地域集団間より集団内での変異が大きく、この種については個体選抜による優良系統の作出が生産性改善に有効と考えられた。このように養殖対象の遺伝特性調査により、生産性改善のための効率的な育種法の選択が可能になった。

成果の活用面・留意点

   今回のアイソザイム分析マニュアルに記載した20種の魚介類は、東南アジア全域で共通な重要種である。そのため、本マニュアルはタイ国のみならず他の東南アジア諸国においても活用され得る。そこで、東南アジアの主要な水産研究機関に配布し、水産遺伝育種研究の推進の重要性の啓蒙と技術普及を図った。

具体的データ

  1.  

    表1 アイソザイム分析マニュアルに記載したタイ産有用魚介類
  2.  

    表2 ナマズのアイソザイム検出酵素
  3. 図1 ナマズの電気泳動パターンの一例
  4.  

    図2 ナマズ地域集団間の遺伝的類縁関係を示す枝分かれ図
Affiliation

国際農研 水産部

カセサート大学

予算区分
経常
研究課題

魚介類の遺伝変異の検索

研究期間

平成年8度(平成6~9年)

研究担当者

素之 ( 水産部 )

NA-NAKORN Uthairat ( カセサート大学 )

ほか
発表論文等

M., Hara and U., Na-Nakorn (1996) Development of sustainable aquaculture Technology in Southeast Asia. Final report of National Research Concule in Thailand, 1-59.

原 素之. (1996) タイでの持続的養殖生産を目指して. 養殖 (1996年12月号).

日本語PDF

1996_14_A3_ja.pdf541.6 KB

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