マングローブ林のリター量

要約

マングローブ林に落下する葉や枝などのリター量を持続的なマングローブ林が経営されているマレーシアのマタンにおいて測定した。マタンのマングローブ林は植生の違いによって3タイぷに分けられたがリター量もこれに応じて異なっていた。また、潮の満ち引きによって、海に持ち去られるリター量も水位によって異なっていた。

背景・ねらい

   エビや魚の養殖などによって近年、熱帯地域のマングローブ林が急速に減少している。一方、マングローブ林の存在が水産物の持続的な収穫にとっても重要であることが徐々に明らかになっている。そのため、本課題はマングローブに生息する生物の基礎となるリター量とその動きを明らかにすることを目的としている。調査はマレーシアの首都クアラルンプールの約200㎞北にあるタイピン市のマダンにおいて行った(図1)。ここのマングローブ林では、Rhizophora apiculata(ヤエヤマヒルギ)を植栽後、30年で伐採して炭を生産している。伐採後、すぐに植栽するので、ここでは世界的にも例を見ない持続的なマングローブ林の経営が行われている。

成果の内容・特徴

  1. マダンのマングローブ林は植生によって以下の3タイプに分けられた。
    a. Avicennia 属とSonneratia 属の混交林
    b. Rhizophor 属のほぼ純林
    c. Bruguiera 属の優占する林
  2. この3タイプの森林は、それぞれ、地盤高が明らかに異なっていた。aが一番低く、b,cの順に高くなっていた。大潮のときは、aでは最高で地上から90cmにまで水位が上がる一方、bでは70cmまでであった(図2)。また、cではほとんど水が漬かなかった。
  3. リター量も森林のタイプによって異なっていた(図2)。一番多かったのはbで、cがこれよりやや少なく、aが前二者の約半分であった。
  4. 海水によって持ち去られるリター量も水位によって異なり、aでは大潮、小潮に関わらずほぼ100%の葉が持ち去られていた。 bでは大潮のときにほぼ100%持ち去られるものの小潮のときは数%しか持ち去られなかった。一方、Cでは大潮、小潮に関わらずほとんどの葉が林床に留まっていた。
  5. このように水位によって植生も異なり、リター量やそれが海に持ち去られる量も異なることがわかった。このため、森林タイプが異なれば他の生物への寄与も異なることが予想された。

成果の活用面・留意点

   年間を通じて常に一定量のリターがマングローブ生態系に供給されていることがわかった。本結果は、世界的に減少しているマングローブ林を持続的に経営するための基礎データとして、活用される。

具体的データ

  1.  

    図1 マタンの位置
  2.  

    図2 マタン・マングローブ林における2年間のリター量の推移
Affiliation

国際農研 林業部

マレーシア森林研究所

分類

研究

予算区分
国際農業プロ(汽水域)
研究課題

熱帯・亜熱帯汽水域における生物生産機能の解明と持続的利用のための基準化

研究期間

平成7~11年度

研究担当者

落合 幸仁 ( 林業部 )

中村 松三 ( 林業部 )

田内 裕之 ( 林業部 )

HASSAN Azman ( マレーシア森林研究所 )

ほか
発表論文等

Ochiai, Y. (1998) Research on Mangrove Forest Reserve, Malaysia. JIRCAS Newsletter, No.16: 4.

落合幸仁 (1998 )汽水域の生命を支える森林の役割. JIRCASニュース, No.17: 8.

日本語PDF

1998_15_A3_ja.pdf635.67 KB

関連する研究成果情報