マングローブを利用した養殖排水の浄化

要約

エビ養殖池からの排水をマングローブ植林地に導入すると、その高い窒素除去能により環境負荷を低減できる。

背景・ねらい

インドネシアをはじめとする東南アジア諸国では、外貨獲得の一手段としてエビを主体とする沿岸養殖が盛んであり、マングローブ後背地を含む沿岸域を切り開いて造成した池より、多量の廃排水を出してきた。沿岸域の減少は本来自然の持つ自浄作用を損なうとともに、排水は富栄養化や生物多様性の減少を引き起こし、漁業対象となる有用生物群集・相に悪影響を及ぼすことから、地域経済に打撃を与えることが危惧される。

本研究ではエビ養殖池からの排水をマングローブ植林地に導入して水質の浄化を行い、再び養殖池に戻す半閉鎖系の実験区画を設定し、環境負荷低減効果を調べた。

成果の内容・特徴

エビ養殖池からの排水をマングローブ植林地およびバイオフィルターとしてのカキの養育池および海藻池に導入し、再び養殖池に戻す半閉鎖系の実験区画を設定し、92日間実験を継続した(図1)。この区画はエビ養殖池、エビ養殖池からマングローブ池に至る水路1、マングローブ池、マングローブ池からカキ養殖池に至る水路2およびカキ+海藻池の5区画からなる。

  1. 無機態窒素栄養塩は、水路1およびカキ+海藻池で増加する一方、エビ池では減少した。マングローブ池ではほぼ増減はなかった。クロロフィルaはエビ養殖池で大きく増加したが他の区画では減少した(表1)。
  2. 水路1が栄養塩の分解生成の場、マングローブ池が分解生成と取り込みとがほぼ平衡した場であり、エビ養殖池では植物プランクトンにより栄養塩が取り込まれていることを示唆している。カキ+海藻池では、無機態溶存窒素濃度200μMを超える値が観測されている井戸水からの窒素供給が比較的大きかったと考えられる。
  3. 実験期間中に投入された餌の量は950Kg、エビ体内に取り込まれた量を除き、45.9KgNが環境中に放出された(表2)。養殖池内に堆積する窒素量を50%と仮定し、井戸からの供給を加える一方、カキによる摂食量、現存量の増加分等を差し引くと、実験期間内に22.37KgNがマングローブ生態系その他によって除去されたことになり、窒素の除去速度は62-232mgN/m2/dayと算出される。

成果の活用面・留意点

   マングローブ域の単位面積当たりあるいは樹木1本当たりの浄化能から、環境に負荷を与えない魚介類の養殖量及び投餌量を求めることが可能である。
   植林したマングローブ林が生産力の高いマングローブ生態系として発達すれば、有機物の取込みとともに、低投餌の養殖が可能になると期待される。

具体的データ

  1. 図1
  2. 表1
  3. 表2
Affiliation

国際農研 水産部

予算区分
経常
研究課題

熱帯沿岸域の物質収支

研究期間

平成12年度(10~12年度)

研究担当者

下田 ( 水産部 )

ほか
発表論文等

下田徹 and Taufik Ahmad (2001): 養殖排水を導入したマングローブ植林地における栄養塩濃度の変動. 2001年度日本海洋学会春季大会講演要旨集.

日本語PDF

2000_24_A3_ja.pdf890.83 KB

関連する研究成果情報