糯小麦育成を可能とするWxタンパク質を欠失した変異体の発見

要約

アミロース合成に関係するWxタンパク質の欠失性を世界の小麦遺伝資源を用いて明らかにした。新しく発見された欠失変異体は、糯小麦育成を可能にした。

背景・ねらい

麺用小麦の高品質化においては、麺の粘弾性を高めることが一つの課題である。小麦澱粉中のアミロース含量が低いほど麺の粘弾性が増し、食味がよくなるとされている。本研究では、アミロース合成に関わる酵素であるwaxy(Wx)タンパク質の小麦遺伝資源における欠失変異をSDSゲル電気泳動法(SDS-PAGE)と二次元電気泳動法を用いて解析した。特に、糯小麦育成を可能とする新変異体の発見をめざした。

成果の内容・特徴

  1. 小麦には3種類のWxタンパク質(Wx-A1、Wx-B1、Wx-D1)が存在する。したがって、 各Wxタンパク質の有無に基づけば、 小麦を表1に示した8つのtypeに分類できる。このうち、Wx-A1タンパク質を欠く小麦はトルコ、日本および朝鮮半島に比較的高頻度で存在した。Wx-B1タンパク質を欠失した小麦はオーストラリアとインドに多く発見された。一方、Wx-D1タンパク質を欠く小麦は中国に1品種のみ発見された(表2)。
     Wx-A1とWx-B1タンパク質を二重に欠くtype7の小麦は日本に9品種あったが、type5、type6およびすべてのWxタンパク質を欠くtype8の小麦は存在しなかった。
  2. 日本の小麦133品種のアミロース含量(黒田ら 1989年)を表1に基づいて分類したところ、アミロース含量はtype1>type2>type3>type7であった(図1)。
  3. 3種のWxタンパク質をそれぞれコードする遺伝子 (Wx-A1、 Wx-B1、Wx-D1)は異なる染色体に座乗する。 したがって、 日本のみに存在したtype7と 中国のtype4の小麦の交雑後代から、 表1のすべてのtypeが育成できる。 type4の発見はすべてのWxタンパク質を欠き、アミロースを含まない糯小麦の育成を可能にした。

成果の活用面・留意点

新しく発見されたWxタンパク質欠失変異体は糯小麦育成のために活用できる。同時に育成可能なtype1~7の小麦は各Wxタンパク質の欠失とアミロース量との関係の解明に利用できる。

具体的データ

  1. 表1 Wxタンパク質の有無に基づいたパン小麦の分類

    表1
  2. 図1
  3. 表2 小麦における各Wxタンパク質を欠いた品種数

    表2
Affiliation

国際農研 沖縄支所

分類

研究

予算区分
科振調 重点基礎
研究課題

Wxタンパク質を欠失した小麦遺伝資源の探索

研究期間

1993年度(1993年)

研究担当者

山守 ( 沖縄支所 )

長峰 ( 沖縄支所 )

中村 俊樹 ( 東北農業試験場 )

ほか
発表論文等

Yamamori et al. (1994) Waxy protein deficiency and chromosomal location of coding genes in common wheat. Theor. Appl. Genet (in press).

日本語PDF

1993_11_A3_ja.pdf443.44 KB

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