主要普及成果追跡評価 : アフリカ小農支援のための農業経営計画モデル

主要普及成果名

アフリカ小農支援のための農業経営計画モデル
https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2018_b02

選定年度

平成30年度

成果担当者

小出 淳司(国際農研 社会科学領域)

1.研究の背景・ねらい

 サハラ以南アフリカの農業経営は、経営面積数ヘクタール(ha)の小規模家族経営(小農)が大多数であり、食料安全保障や所得向上を妨げる問題に数多く直面している。個別の問題解決に向けた技術開発や政策研究が進展する一方で、小農が実際に導入可能な経営改善策の解明は進んでおらず、現場の技術普及や生計向上の具体的道筋は判然としていない。そこで現地の普及員等が利用可能なアフリカ小農支援のための農業経営計画モデルを構築し、適用を図る。

2.研究の成果の内容・特徴

  1. 構築された農業経営計画モデルは、営農条件(経営面積、自家労働者数、労賃など)、経営指標(作付様式、栽培技術、収量、価格、経営費、労働時間など)、自給条件(自給作物の種類、自家消費量)、農外活動(水汲み、薪取り、狩猟・採集、農外就労など)を入力情報とし、 アフリカ小農の (1) 食嗜好に応じた自給用作付面積の確保、(2) 干ばつや価格下落等のリスク対応策である混作や間作の反映、(3) 農外所得の確保、農業部門との労働配分に基づく所得最大化を条件として、線形計画法による計算を行い、農家所得全体を向上させる最適作付体系や技術導入規模を特定する。これにより、アフリカ小農の食生活、リスク分散経営、農外活動の必要性に応じた現実的な経営改善策が解明可能となる。
  2. 同モデルにより、アフリカ農業の地域性や規模に応じた最適作付体系の分析が可能である。モザンビーク国ナカラ回廊における分析例では、干ばつや農産物価格の下落が発生しやすいとされる東部ほど多品目の混作体系が優位となる。また、経営面積1ha以上の層で商品価値の高いラッカセイ、ダイズ、サツマイモなどの作付拡大が優位となる。
  3. 現状の土地生産性では、1ha未満の層で食料自給に困難が生じる。よって食料自給を条件とした場合、このモデルを用いて導かれた作付体系の最適化による所得増大効果が1ha以上の層で顕著に現れ、1ha以上2ha未満の層で東部24%、中部22%、西部13%、2ha以上の層では順に40%、54%、57%となる。
  4. 同モデルを簡単な操作で瞬時に実行できるプログラムBFMe(英語)およびBFMmz(ポルトガル語)を、BFM(大石 2008)をもとに開発し、提供している。これにより、現地の普及員などが、最適作付計画の立案などを容易に行うことができる。また、最適な技術導入規模の特定により、現地の普及組織が技術普及方針などを決定することができる。

3.追跡評価実施時の状況(令和4年度)

 平成30年度主要普及成果「アフリカ小農支援のための農業経営計画モデル」に関する追跡評価を、令和4年9月15日~21日に実施した。外部評価者として、東北大学大学院農学研究科 角田毅教授を招聘した。
 追跡評価では、主として同成果の利用状況や普及に向けた課題を把握するため、対象地域の一つであるモザンビーク北部ナンプラ州を訪問し、モデルの想定ユーザーであるモザンビーク国立農業研究所(IIAM)の研究者ならびに各地の農業普及員への聞き取り調査を行った。また、普及員の担当地域において農家調査を行い、モデルに対する関心・ニーズや、モデルを利用した所得向上、家計への影響などを把握した。

以下に、分析項目ごとに外部評価者のコメントを含めて調査の結果を示す。

4.追跡評価における外部評価者のコメント(外部評価者 東北大学大学院 角田毅教授)

①受益者・ターゲットグループの明確性

 当該国においては農業者がパソコンやタブレットを保有している状況にはないため、主たるユーザーを現地の農業経営に関わる研究者及び普及員等とする設定は妥当である。

②目標の妥当性

 現地では多様な作物が栽培されており、農業経営計画モデルにより所得を最大化する最適作付け体系を合理的に示すことが非常に重要であると考えられる。ヒアリングを行った現地の農業者及び研究者、普及員、関係機関ではいずれも農業経営計画モデルに非常に強い関心とニーズを持っていることが示され、目標設定は妥当であると考えられる。

③内容の有効性

 今回訪問したナンプラ近郊農村においてプロジェクト実施期間中にBFMmzを用いて作成された作付計画案が提供された農家(ヒアリングできたのは2戸)ではいずれも農業所得の向上がはかられていた。当時の記録を有する農家では,農業所得の向上を生活面物資の購入だけでなく、農業生産拡大への投資(野菜種子の購入)に充てていたことは注目に値する。当該モデルによる作付け体系の改善が農業生産拡大を伴いつつ、農家経済レベルを向上させていく可能性を示しているといえる。もう一つの対象地域であるリシンガは今回日程の関係で訪問できなかったが、研究実施直後にとられたデータではナンプラよりも成績(所得向上効果)が良好であり、さらなる農家経済レベルの向上効果が上がっていることが見込まれる。

④普及体制や組織の有無・明確性

 モザンビーク国立農業研究所(IIAM)には社会科学系の研究部門、州経済活動事務所(SPAE)―郡経済活動事務所(SDAE)に普及部門があり、相互の連携関係もあり普及体制・組織は明確であるといえる。

⑤普及のための外部要因やリスク

 現地の研究所や普及センターは限られた人員、予算のもとで広域のエリアを担当しているため、農業経営計画モデルを使用するための環境(PCやソフト、通信)が十分に整わないこと、また農家へのアクセス頻度が制約を受ける可能性がある。

⑥波及効果(インパクト)の有無

 当初想定されていた社会科学系の研究者だけではなく、農業研究所のアグロノミストが新規作物の導入効果などの分析に使用した経験があることが確認された。社会科学系の研究だけではなく、自然科学系の研究にも応用される可能性があることを示している。また、作付け計画案の提供を受け所得が向上した農家が、親戚の農家に同様の作付け計画案を教示し、所得向上が図られたケースも確認された。

⑦自立発展性の有無

 パソコンの性能や通信環境の状況が相対的に良い首都マプトのIIAM等では自立的、持続的に活用される可能性は高いと考えられる。実際に今回IIAM本部を訪問した際、普及領域の総括者はBFMmzに強い関心を示し、その後小出主研がオンラインでセミナーを実施した。ソフトウエア及びマニュアルはIIAM本部の研究者にインストール済みであり、今後自立的に発展していく可能性はあると考えられる。

⑧その他

 特になし。

5.総合評価

(1) 普及が拡大または停滞している要因の分析

 当該農業経営計画モデルはIIAMナンプラの研究者で実用に供されており、実際に農家の所得向上に寄与していることが確認された。しかしながら、現地における研究所、普及所では予算が乏しく、最新のパソコンや正規ソフトウエア、ウイルス対策ソフト、インターネット通信環境を十分に確保することが難しい状況にあることが、さらなる普及を拡大していくための制約要因となっていた。

(2) 普及拡大のための改善事項、提言

 現地の研究・普及機関及び農家では当該農業経営計画モデルに対する強いニーズがあり、効果の有効性も認められるため、今後も現地で普及拡大が図られることが望ましいと考えられる。インストールから実際の使用に至るまでの知識やスキルを有する人材を一定程度養成し、各種問題に対応できる窓口的機能を現地に設置できると良いと思われる。そのためには、これまでターゲットとしてきた研究者・普及員に加え、大学などの高等教育機関の教員などにも普及をはかっていくことも有効ではないかと考えられる。また、農家への普及については、本来的な使用方法ではないものの、例えばいくつかの最適化計画のパターンをイラスト等で示したカード等を用いて、より適した作付け計画を提案するなどの方法も検討されてよいと思われる。

(3) 今後の追跡調査の必要性、方法・時期等の提言

 当該農業経営計画モデルはすでに他の国を対象として研究が進められており、さしあたりそれらの国での普及拡大を図っていくことが重要であると考えられる。モザンビークにおいてはIIAM本部の社会科学系研究者等と引き続き連携をはかっていくことが望まれる。

(4) その他(類似プロジェクトや類似地区における研究プロジェクト実施における提言等)

 本農業経営計画モデルを使用するためには一定程度のスペックを備えたパソコンやタブレットが必要となるため、ターゲットとする研究者や普及員に、少なくともプロジェクト期間中はそれらを貸与する等の対応が必要な場合があると考えられる。また、当該モデルは現在無償でフリーにダウンロードが可能であるが、今後の普及状況に応じてライセンス契約などの対応を検討しても良いのではないかと思われる。

図1 BFMmzを操作するIIAMの社系研究者

図2  IIAMの社系研究者による最適作付体系の出力画面

図3 農家への聞き取り調査

図4 農家への聞き取り調査

図5 作付提案を通じた所得向上により改築された農家宅

図6 作付提案を通じた所得向上により農家が購入したミシン

連絡先
〒305-8686 つくば市大わし1-1

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