東北タイにおける臭素を用いた不飽和帯での土壌水の追跡

国名
タイ
要約

地表に散布した臭素を100mLコアと遠心分離器を用いて回収し、その濃度分布から土壌水を 追跡する方法を東北タイの試験地に適用し、土壌面蒸発量や降水の浸透量を解析した。

背景・ねらい

   土壌水は作物にとって必要不可欠な水資源である。その有効利用のためには、降雨浸透や蒸発による土壌水の動きを把握する必要がある。臭素は、土壌水の地下浸透を追跡するトレーサーとして用いられている。従来の方法は、地中に設置された採水器によって土壌水を採水する方法が採用されていた。本研究では、土壌の乾燥が進み採水器では土壌水の採取が困難である東北タイにおいて、臭素を用いたトレーサー試験を実施する。

成果の内容・特徴

  1. 東北タイの砂質土壌に臭素を散布し一定期間経た後、100mLコアを用いて土壌を10cmごとに回収、遠心分離器で抽出した土壌水中の臭素濃度を分析した。遠心分離器の回転数は、乾燥状態でも水を抽出できるようにpF3.5相当の回転数とした(約4000回転/分)。臭素は2003年6月27日に散布し(臭素濃度:50mg/L)、8月7日、9月10日、翌年の2月12日に土壌を回収した(図1)。
  2. 8月7日に採取した試料は、臭素濃度のピークが0-10cmの表層で地下への浸透は見られなかった。6月27日から8月7日までの降水量が170mmで、これがすべて蒸発したと仮定すると、平均蒸発量は約4mm/dayと算出された(表1)。
  3. 9月10日に採取された試料では、臭素濃度は30-40cmがピークの正規分布を示した。この分布は降水の浸透と土壌水中の臭素の濃度差によって形成されたもので、濃度ピークから上の土壌水分量を浸透した降水と見なすことができる。濃度ピークから上の土壌水分量は100mmであり、8月7日から9月10日までの降水量290mmのうち、地下浸透が100mm、蒸発と地表流出が190mmと推定することができた(図2、表1)。
  4. 2月12日に採取された試料では、0-10cmの表層で臭素がふたたび検出された。これは、蒸発によって臭素の一部が地表に戻ることを示し、地表に塩類が集積する可能性を示唆している(図2、表1)。
  5. 臭素を散布し土壌を採取する方法によって、東北タイの地下水面より上の層である不飽和帯での土壌水を追跡することができた。

成果の活用面・留意点

  1. この方法は散布した臭素の鉛直分布を知るのに有効であるが、土壌ごと採取する破壊的な手法なので、土壌採取が限られる場所での適用は困難である。
  2. この方法を実施するには、遠心分離器とイオンクロマトが必要となる。
  3. 遠心分離器は、pF 試験に使用されていたものを利用すればよい。

具体的データ

  1.  

    図1
  2. 図2
  3. 表1
Affiliation

国際農研 生産環境部

分類

研究

予算区分
基盤〔地下水利用〕 国際〔天水農業〕
研究課題

途上国における地表水と地下水の複合利用のための調査技術の開発

研究期間

2004年度(2002~2004年度)

研究担当者

濱田 浩正 ( 生産環境部 )

ほか
発表論文等

Hamada H. et al.(2005): Use of bromide to trace infiltration of rainfall through sandy soil in northeast Thailand. JARQ, 39(1), 29-35.

Use of Bromide to Trace Infiltration of Rainfall through Sandy Soil in Northeast Thailand

Hamada H. Abenney-Mickson S. and Komae T. (2004): Influence of inundation of ground surface on 222Rn concentrations in shallow groundwater. Radioisotopes, 53, 469-475.

日本語PDF

2004_08_A3_ja.pdf561.71 KB

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