食料需給モデルを用いた食料安全保障のシミュレーション分析

国名
アジア
要約

経済協力開発機構(OECD)が開発した食料需給モデルを拡充・改良して実施したアジアの低所得食料輸入地域に関するシミュレーション分析によれば、輸出国での不作、輸入国での為替変動が起こった場合、自由貿易政策の選択が食料安全保障に悪影響を及ぼす可能性がある。

背景・ねらい

   開発途上地域では農業生産が低い水準で推移する中で人口増加は続いていることから、現在約8億人とされる栄養不足人口の将来の急速な減少は望めない状況にあり、食料安全保障は重要な政策課題である。一方、経済のグローバル化等による貿易構造の変化は著しく、アジア通貨危機に見られるような様々な矛盾も指摘されている。このため、計量経済モデルを用いた政策シミュレーション分析を行い、有限な資源を適正に利用し、効率的かつ人道的な食料分配を可能とする中長期の農業、貿易政策のあり方について検討する。

成果の内容・特徴

  1. JIRCASが保有・運用する世界食料モデルの知見をもとに経済協力開発機構(OECD)が開発した先進国を中心とした食料需給モデルが次のように改良されている。
    ①アジア地域の主食である米の需給予測を中・短粒種と長粒種の品質別に区分して行い、両者の異なる市場特性を反映させている。
    ②一括処理されていた開発途上諸国からアジアの低所得・食料輸入国(Low Income Food Deficit Countries)10か国を再集計し、新たなモジュールが構築されている。
  2. この改良モデルを用い、表1に示すように①輸入先国で食用穀物の不作(3割)が生じた場合、②さらに輸入国側で為替レートが下落(3割)した場合を想定し、それぞれについて国内市場と国際市場の関係が深い場合(自由化)と浅い場合(非自由化)の人口一人当たりの穀物食料供給量を計算するシミュレーション分析を行っている。
  3. この結果は、図1に示すように、貿易の自由化が場合によっては輸入国の食料輸入価格の変動を増幅するとともに、供給の不安定化をもたらし、食料支出が家計に大きな割合を占める低所得の開発途上地域の食料安全保障に悪影響を及ぼす可能性のあることを示している。これは、従来のモデル分析が示すような「貿易自由化が市場規模の拡大を通じて世界価格の安定をもたらす」という結論とは異なっている。

成果の活用面・留意点

   穀物輸出国を中心に、不作シナリオの蓋然性は低い、食料安全保障は個人やグループの問題であり大きな地域レベルで考えるのは妥当ではない、などの多くの反論があり、分析方法に改善の余地があるが、分析結果の基本的方向を変えるものではない。

具体的データ

  1. 表1 シナリオの組合せ

    表1 シナリオの組合せ
  2.  

    図1 アジア低所得食料輸入国のシナリオ別一人当たり穀物食料供給量
    図1 アジア低所得食料輸入国のシナリオ別一人当たり穀物食料供給量
    注:穀物は、米、小麦(食用)、粗粒穀物(食用)の合計
Affiliation

国際農研 海外情報部

分類

行政

予算区分
経常 行政対応〔計量モデル〕
研究課題

世界食料政策のシミュレーション分析と評価

研究期間

平成6~12年

研究担当者

小山 ( 国際情報部 )

ほか
発表論文等

経済協力開発機構会議資料(2000年1月)(非公表)
「The possible effects of trade liberalization on the world rice market and on the food security situation」

日本語PDF

1999_01_A3_ja.pdf474.16 KB

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