タイ産ショウガ科食用植物に含まれる抗変異原成分の単離・同定
熱帯産食用植物の生理機能性について調査を行い、2種類のタイ産ショウガ科食用植物フィンガールート(Bosenbergia pandurata Sch1.) 及びガランガ(Languas galanga)に強い抗変異原性があることを見出し、有効成分を単離し構造を推定した。
背景・ねらい
極めて多様な植物種が分布しているタイ周辺地域では、数百種以上にも及ぶ在来植物が野菜、果実、ハー一ブ、スパイス等として用いられている。熱帯産植物の多くは、さまざまな生理活性(薬理活性)を示すテルペノイド類、フラボノイド類、色素等のファイトケミカルを豊富に含んでおり、各種疾病やガンの化学的予防等に重要な役割を果たしていることが予想される。しかし、各植物種に含まれる生理機能成分についてはほとんど研究されていない。本研究では、タイにおいて日常的に利用されている2種のショウガ科植物フィンガールート(タイ名クラチャイ)及びガランガ(カー)について、エ一ムス試験系を用いて抗変異原性を測定し、有効成分の解明を行った。
成果の内容・特徴
- フィンガールート及びカランガ(図1)の80%メタノール抽出物を調製し、Trp-P-1を用いたエ一ムス試験(変異原性試験)系にこれを添加したところ、Salmonella typhimurium TA98(ヒスチジン要求性フレームシフト変異株)の復帰突然変異が著しく抑制された。(図2)
- 逆相カラムクロマトグラフィーにより有効成分の分離・精製を行ったところ、フィンガールートからは6種類(FR1~6)、ガランガからは2種類(G1及びG2)の活性物質がそれぞれ単離された。LC-MS分析の結果及び紫外吸収スペクトルの特徴から、各物質について構造推定を行い、FR1及びFR3はカルコン誘導体、FR2及びFR4はフラバノン誘導体(図3)であることが推定された。FR5及びFR6については、構造推定のために十分な情報が得られなかった。G1及びG2はフェニルプロパノイド誘導体(図3)であると予想された。これら成分のうち少なくともいくつかは既知物質であると考えられた。
- フィンガールートから単離された各成分は、ガランガから単離された2種の成分に比べ強い作用を示した。フィンガールート成分のうち、FR1~5は特に強い抗変異原性を示し、25μg/プレートの濃度において約90%の抑制率を示した。(表1)
- 今回単離された全ての物質は、高い安定性を示し、105°C、15分問の加熱の後でも失活は全く見られなかった。従って、通常の加熱調理においてこれら成分の作用は失われることはないものと考えられた。
成果の活用面・留意点
- 日常的な食品成分に関する情報は、食生活の偏りを改善することにつながると考えられる。
- 生理機能性等の新たな観点からの品質評価は、地域農産物の普及及び利用拡大につながり、農業収入の向上・安定化に資するものと期待される。
- 成分の特性を活かした機能性食品の開発につながることが期待される。
- 生体における作用や過剰摂取による副作用の有無等を動物実験を通じて確認することが必要である。
具体的データ
- Affiliation
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国際農研 生産利用部
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カセサート大学
- 分類
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研究
- 予算区分
- 経常(つくば招へい共同研究)
- 研究課題
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タイ産野菜類を中心とした食用植物の生理機能性に基づく品質評価
- 研究期間
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平成9年~平成11年
- 研究担当者
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Trakoontivakorn Gassinee ( カセサート大学 )
中原 和彦 ( 生産利用部 )
- ほか
- 発表論文等
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JIRCAS Jouma1に投稿中
- 日本語PDF
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1998_10_A3_ja.pdf619.21 KB