熱帯産水産生物の日齢査定
熱帯域に分布する魚類、イカ類の耳石および平衡石の微細構造を観察し、日周輪による日齢の推定ができるようになった。
背景・ねらい
水産資源の適切な管理の上で、対象生物の年齢や成長、産卵期のような基本的な生態の知見は必要不可欠である。ところが季節変化に乏しい熱帯域においては、鱗や耳石等に年輪が現れない上に、産卵期が長期にわたるため生活史のサイクルが1年を単位としていない可能性もあり、年齢や成長に関する研究が進んでいるとはいいがたい状況である。近年になって、耳石(魚類の頭部に存在するカルシウムの塊、イカ類では平衡石)中に1日1本ずつ形成される日周輪による齢査定の研究が数多く行われるようになってきた。そこで本研究では、この齢査定技術を熱帯産の魚類およびイカ類に応用し、インドネシアにおいて漁獲対象となっている種の年齢や成長を明らかにすることを目的としている。
成果の内容・特徴
- キビナゴ、Spratelloides gracilis、インドアイノコイワシ、Stolephorus indicus、グルクマ、Rastrelliger kanagurta、グルクマの一種、R. brachysoma、ヒイラギ科の一種、Leiognathus sp.、ヤクシマイワシ Atherinomorus lacunosus sp.、ホソスジマンジュウイシモチ、Sphaeramia orbicularisおよびアオリイカ、Sepioteuthis lessonianaの8種の耳石微細構造を観察したところ、トウゴロウイワシの一種、ホソスジマンジュウイシモチおよびアオリイカにおいて、日周輪と考えられる微細輪紋が明瞭に観察された。
- ヤクシマイワシにおいては、体長5.7cmから7.3cmの個体の輪紋数が、電子顕微鏡で84~153本、光学顕微鏡では88~141本計数された。電子顕微鏡による計数と光学顕微鏡による計数の結果では有意な差はなかったことから、この種においては光学顕微鏡による計数が可能であると考えられた。これらの輪紋はその構造から日周輪と考えられ、観察した個体は、孵化後3ヶ月から5ヶ月程度と推定された(図1)。
- アオリイカにおいては外套長8.5~21.0cmの個体で78~146本の輪紋が光学顕微鏡で計数された。そのため、本種は半年以内に漁獲可能サイズとなることが示唆された(図2)。
- ホソスジマンジュウイシモチにおいては、飼育実験によって日周輪が1日1本形成されることを確認した(図3、図4)。
成果の活用面・留意点
- 本研究で日齢が明らかにできた種では、この手法を用いて孵化時期の推定、初期生態の解明、孵化時期と成長の違いおよび飼育環境での成長の良否の比較が可能になった。
- 今回の結果では、一部の魚種においてはこの方法による齢査定が困難あるいは不可能であったことから、さらに多数の魚種において耳石日周輪を観察し、どの魚種においてこの手法が有効であるかを明確にする必要がある。
具体的データ
- Affiliation
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国際農研 水産部
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インドネシア沿岸漁業研究所
- 分類
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研究
- 予算区分
- 経常
- 研究課題
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耳石日周輪に基づく水産生物の年齢査定と生活史の解明
- 研究期間
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平成9年度(平成6~9年)
- 研究担当者
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巣山 哲 ( 水産部 )
TONNEK Syarifuddin ( インドネシア沿岸漁業研究所 )
上原 伸二 ( 南西海区水産研究所 )
- ほか
- 発表論文等
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Suyama, Satoshi and Syarifuddin, Tonnek (1997) Analysis of age and growth of tropical marine fishes estimated from the daily otolith growth increments. Abstract of Second Indonesia Fishery Simposium, p.86.
- 日本語PDF
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1997_14_A3_ja.pdf1.3 MB