タイの作物加害ネコブセンチュウ新種の酵素表現型による同定
これまで、不明確であったタイの有害ネコブセンチュウの種を明らかにするため、エステラーゼなどの酵素の表現型によって、新種1種を含む5種を同定した。これにより、有害線虫の耕種的防除技術が大きく進展するものと期待される。
背景・ねらい
タイにおける農作物のネコブセンチュウによる減収は、7-10%と見積もられている(Sontirat, 1981)。この被害を低減させるために、近年、化学農薬が多用され、人畜や環境への悪影響が問題視されるようになり、農薬の使用を最小限にとどめた防除技術の開発が望まれている。耕種的防除はその有力な一つの方法であるが、これの実施にあたっては、作物への線虫の寄生性が種特異的であるため、線虫の種の確定が不可欠である。従来の形態的手法によるネコブセンチュウの同定はかなり難しく、かつ不正確である。そこで、この線虫の種の同定に有用な酵素の表現型に基づく同定を試みた。
成果の内容・特徴
- タイあるいは東南アジアで初めて、エステラーゼなどの酵素の表現型(phenotypes)に基づいて、サツマイモネコブセンチュウ(Meloidogyne incognita, I1, N1, 以下センチュウを省略)、ジャワネコブ(M. javanica, J3)、アレナリアネコブ(M. arenaria, A2, N1, N3)、およびイネネコブ(M. graminicola, VS1)の4種を同定した(表1)。
- タイ東北部ウドンタニの養蚕研究センターのクワ、チェンマイ野菜栽培地帯のトマト、バンコクの農業局内のジャスミンおよび野菜の一種から採集されたネコブセンチュウ4種は、その酵素表現型から未記録種であることが示唆された(表1、図2、3)。
- この種のうち、ウドンタニのクワ(図1)から発見されたネコブセンチュウ(図3-A)は新種と判定されたため、現在学会誌への記載作業を進めている。また、チェンマイのトマトから採集された線虫(図 3-B)も、新種の可能性がきわめて高いため、現在確認の観察を行っている。タイからのネコブセンチュウの新種としては、M. microcephala (Cliff et al, 1984)に次ぐ二番目の発見である。
成果の活用面・留意点
タイにおいてもエステラーゼなど酵素の表現型による同定法が、ネコブセンチュウをはじめ、他の有害線虫にも活用し得る。発見された新種は、クワへの加害が甚だしいので、早急に生態を解明し、防除法を検討する必要がある。
具体的データ
- Affiliation
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国際農研 生産利用部
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タイ農業局
明治大学
- 分類
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研究
- 予算区分
- 経常
- 研究課題
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熱帯の畑作における有害線虫の耕種的防除の開発
- 研究期間
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平成7年~8年
- 研究担当者
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樋田 幸夫 ( 生産利用部 )
KEEREEWAN Somkuan ( タイ農業局 )
TANGCHITSOMKID Nuchanart ( タイ農業局 )
八重樫 隆志 ( 明治大学 )
- ほか
- 発表論文等
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Toida, Y., Tanhchitsomkid, N., Keereewan. S. and Mizukubo, K.,: Nematode species attacking crops in Thailand with measurements of second-stage juveniles of Meloidogyne spp. JIRCAS Journal No.3, 59-68 (1996).
樋田幸夫・八重樫隆志: タイにおける野菜加害ネコブセンチュウのアイソザイムパターンによる種の同定. 日本線虫学会第4回大会予稿集, (1996).
- 日本語PDF
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1996_08_A3_ja.pdf1.31 MB