ラオスの重要な⾷⽤⿂パケオの資源保全に資する⽣態的情報
ラオスの重要な漁業資源であるパケオ Clupeichthys aesarnensis はニシン科の小魚で、乾物や発酵食品の主要な原料であるが、主な漁場では乱獲による漁獲量の減少が強く懸念されている。本種は周年産卵することから、適切な資源管理を行うには禁漁期ではなく禁漁区の設定が有効である。
背景・ねらい
インドシナ半島に広く分布するパケオ(Clupeichthys aesarnensis、図1)はニシン科の小型魚で、主に大規模なダム湖で大量に漁獲され、乾物や発酵食品の原料となっている。近年、ラオスでは、本種の需要の高まりとともに、主な漁場であるナムグムダムにおいて過剰な漁獲による漁獲量の減少が強く懸念されており、資源管理の必要性が指摘されている。そこで、同ダムおけるパケオの日齢・成長・繁殖等の生態特性を解明することで個体群の動態を把握し、適切な資源管理の方策を提言する。
成果の内容・特徴
- パケオの耳石(扁平石)には明瞭な日周輪が形成され(図1)、日周輪の数から個体ごとの日齢を推定できる。
- 各個体の日齢から推定される孵化日分布は、本種が周年産卵することを示している(図2)。
- 生殖腺重量指数(GSI =生殖腺重量/体重 × 100)と体長の関係から、Nam Ngumダムの最小性成熟サイズは体長28-30 mmと推定される(図3)。成長パターンはvon Bertalanffyモデル[Lt=44.76·(1-exp(-0.01·t), R2=0.89, n=486)]で近似され(図4a)、このモデルから本個体群の理論的最大体長は約45 mmであり、性成熟(体長28-30mm)に至る日齢は100日強と推定される。
- 確認された個体の体長は30-40 mmのものが多く、次いで20-30 mmの個体が多い(図4b)。過去には本種の最大体長に関して70 mm以上との報告もあるが、今回の調査では体長50 mm以上の個体は極めて少なく(50mm以上の個体は0.4%)、また上記モデルの理論的最大サイズ(約45 mm)を考え合わせると(図4a)、サイズの小型化が進んだことが示唆される。この小型化は、乱獲および大型個体の選択的漁獲による進化的小型化(evolutionary down-sizing)である可能性があり、本種は資源管理の必要性が高い。
- 本種は周年産卵することから(図2)、適切な資源管理を行うには、産卵個体群の保全の観点から、禁漁期よりも禁漁区の設定が有効である。
成果の活用面・留意点
- パケオの生態特性に基づく適切な資源管理が可能となり、産卵水域を特定することで効果的な禁漁区の設定箇所を提示することができる。
- 漁師数や漁具の数も増加傾向にあることから、漁獲ライセンス制の導入や漁具数の制限等、漁獲量の規制についても検討する必要がある。
具体的データ
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図1 パケオ成魚(体長約40mm)(左)、および耳石の日周輪(右)
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図2 パケオ個体群の孵化月分布
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図3 パケオの体長とGSIの関係
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図4 パケオ個体群の成長モデル(a)と体長頻度分布(b)
- Affiliation
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国際農研 水産領域
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 農山村資源活用
- 研究期間
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2018年度(2016~2020年度)
- 研究担当者
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森岡 伸介 ( 水産領域 )
科研費研究者番号: 40455259丸井 淳一朗 ( 生物資源・利用領域 )
見える化ID: 001765 - ほか
- 発表論文等
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Morioka S et al. (2019) Fisheries Science, 85:667-675
- 日本語PDF
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2019_C06_A4_ja.pdf850.15 KB
2019_C06_A3_ja.pdf262.16 KB
- English PDF
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2019_C06_A4_en.pdf383.66 KB
2019_C06_A3_en.pdf322.38 KB
- ポスターPDF
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2019_C06_poster_fin.pdf461.95 KB