ゲノムワイド関連解析によるイネの側根形成に関与する遺伝子座の特定
要約
ゲノムワイド関連解析により検出された遺伝子座qTIPS-11はイネ生育初期の側根形成に関与する。推定される原因遺伝子はグリコシル加水分解酵素遺伝子である。この機能型対立遺伝子は、より多くの側根を持つ直播適性に優れたインド型イネ品種の開発に利用できる。
背景・ねらい
近年、イネにおいては移植栽培から直播栽培への移行が生じている。イネの直播栽培においては苗立ち性に優れること、すなわち、播種後速やかに健全な苗に生長する特性が重要である。しかし、近代インド型イネ品種は移植栽培を前提に育成され、苗立ち性には必ずしも優れていない。苗立ち性には、生育の極初期においては種子の大きさおよび種子のアミラーゼ活性など、種子から幼苗への養分移動に関する形質が関与するが、その後の生育段階においては根による栄養および水分の吸収が重要となる。栄養および水分の吸収は主に側根が担うことから、苗立ち性を向上させる上では生育初期により多くの側根を発達させることが鍵となる。本研究は、生育初期における側根形成に関与する遺伝子座および候補遺伝子を同定し、直播栽培への適性が高いインド型イネ品種の開発に資することを目的に実施する。
成果の内容・特徴
- 284系統のインド型イネを含む307系統を対象としたゲノムワイド関連解析により検出されたイネ生育初期(播種後2週間)の根端の数(デジタル画像解析により算出)を決定するDNA多型は11番染色体上に存在する(図1A、B)。この遺伝子座をqTIPS-11と名付ける。
- イネ系統の根端の数はqTIPS-11の対立遺伝子の違いにより異なる(図1C)。
- イネにおいては、根端の殆どは側根の根端であることから、qTIPS-11は側根の形成に関与する遺伝子座であると考えられる。qTIPS-11に側根の形成を促進する効果を持つ対立遺伝子(機能型対立遺伝子)を保持する系統のうち、71.6%(131/183)は日本型イネ系統である。また、インド型イネ系統の97.4%(633/650)はqTIPS-11に側根の形成を促進する効果を持たない対立遺伝子(機能欠失型対立遺伝子)を持つ。
- qTIPS-11の推定される原因遺伝子はグルコシル加水分解酵素遺伝子(TIPS-11-9; Os11g44950)である(図2A)。TIPS-11-9の機能を喪失したT-DNA挿入突然変異体の根端の数は、野生型の根端の数よりも25%少ない。
- 機能型対立遺伝子のTIPS-11-9はオーキシン応答因子(auxin responsive factor: ARF)を持ち、その発現はオーキシンにより誘導される。一方、機能欠失型対立遺伝子のTIPS-11-9はARFを持たず、その発現はオーキシンにより誘導されない(図2A、B)。オーキシンは側根の形成および発達を促進することが知られており、TIPS-11-9のオーキシン応答性の差異が側根および根端の数の差の要因であると考えられる。
成果の活用面・留意点
- イネ生育初期の側根の数を増加させる効果を持つTIPS-11-9の機能型対立遺伝子は、直播栽培適性に優れたインド型イネ品種の開発に役に立つことが期待される。
- qTIPS-11が、生育初期だけでなく生育全般に及ぼす効果を明らかにする必要がある。
具体的データ
国際農研熱帯・島嶼研究拠点
国際農研生産環境・畜産領域
研究
交付金›不良環境耐性作物開発
2018年度(2016~2018年度)
- 科研費研究者番号:90442722
Wang F et al. (2018) Plant Cell Environ., 41(12):2731-2743 https://doi.org/10.1111/pce.13400




