4種類のAREB/ABFは3種類のSnRK2の下流で乾燥ストレス耐性を制御する
AREB/ABF型転写因子は、陸上植物に広く保存されており、乾燥ストレス応答を制御する鍵因子である。シロイヌナズナの3種類のSnRK2タンパク質リン酸化酵素の下流で機能する4種類のAREB/ABF型転写因子は乾燥ストレス耐性の向上において主要な役割を果たしている。
背景・ねらい
近年、大規模で深刻な干ばつが作物生産に甚大な被害を及ぼしており、干ばつ耐性作物の作出は急務となっている。これまでにイネやシロイヌナズナの乾燥ストレス応答のシグナル伝達系においては、3種類のAREB/ABF型転写因子が3種類のSnRK2タンパク質リン酸化酵素の下流で重要な役割を果たしていることを示してきた。しかしながら、既知の3種類のAREB/ABF型転写因子だけでは、SnRK2の下流の遺伝子発現ネットワークの制御機構を十分に説明することができなかった。本研究では、ABF1を加えた4種類のAREB/ABF型転写因子およびSnRK2タンパク質リン酸化酵素から構成されるSnRK2-AREB/ABF経路の役割とストレスシグナル伝達系における重要性を明らかにする。アミノ酸の相同性解析から、このSnRK2-AREB/ABFシグナル伝達系は、シロイヌナズナのみならず多くの作物種においても、よく保存されていることが推定されており、本成果は汎用性の高い干ばつ耐性作物の作出技術の開発に貢献することが期待される。
成果の内容・特徴
- ABF1は、その他3種のAREB/ABF型転写因子(AREB1、AREB2およびABF3)と同様に、植物細胞の核でSnRK2タンパク質リン酸化酵素と相互作用し、下流遺伝子の転写を活性化する能力を持っている。
- 4種のAREB/ABF型転写因子の機能が欠損したareb1 areb2 abf3 abf1四重変異体は、3種のAREB/ABFの機能が欠損した areb1 areb2 abf3三重変異体よりも低い乾燥ストレス耐性を示す(図1)。
- ABF1は、これまでに同定されていたAREB/ABF型転写因子であるAREB1、AREB2およびABF3遺伝子と同様に乾燥ストレス応答においても重要な役割を果たしている。
- 4種類のAREB/ABF型転写因子は、シロイヌナズナの乾燥ストレス応答およびアブシシン酸(ABA)シグナル伝達系を協調的に制御している。
- 4種類のAREB/ABF型転写因子は、3種類のSnRK2タンパク質リン酸化酵素(SRK2D/SnRK2.2、SRK2E/SnRK2.6/OST1およびSRK2I/SnRK2.3)の下流で乾燥ストレス耐性を制御している主要な転写因子である(図2)。
- 4種類のAREB/ABF型転写因子は、下流ではたらく転写因子などのシグナル制御関連遺伝子や、細胞の保護に関わるLEAタンパク質遺伝子などの機能遺伝子を多数制御している。
成果の活用面・留意点
- AREB/ABF型転写因子やSnRK2タンパク質リン酸化酵素によって制御されている乾燥ストレス応答機構は、植物種にかかわらず、きわめてよく保存されていると考えられており、幅広い作物種の干ばつ耐性の向上に関わる応用研究に役立つことが期待される。
- AREB/ABF型転写因子やSnRK2タンパク質リン酸化酵素の下流ではたらく機能遺伝子群の解析によって、新奇の機能遺伝子を利用した干ばつ耐性作物の開発が可能である。
具体的データ
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図1 AREB/ABF型転写因子の機能を欠損させたシロイヌナズナ多重変異体の乾燥ストレス耐性
4個のAREB/ABF型転写因子の機能を欠損させたareb1 areb2 abf3 abf1四重変異体、3個のAREB/ABFの機能を欠損させたareb1 areb2 abf3三重変異体および野生型株(WT)シロイヌナズナの乾燥ストレス耐性試験の結果を示す。写真は、代表的な供試ポットの乾燥ストレス前後の様子を示す。GM寒天培地上で3週間生育させた植物を土植えにし、その後1週間生育させ、給水を停止することにより乾燥ストレスを与えた。乾燥ストレス開始後11-12日目に再給水を行い、1週間後に写真撮影を行った。○印と×印は、それぞれ生存個体と死滅個体を示す。1回の実験で8個のポットを用いて実験を行い、3回の反復実験を行った。中央の模式図には、代表的な1回の実験の結果をもとに計算した生存率(生存個体数/総供試個体数)を示した。 **P < 0.01 (t-検定、野生型株との比較) -
図2 植物の乾燥ストレス応答機構の模式図
4種類のAREB/ABF型転写因子が3種類のSnRK2タンパク質リン酸化酵素の下流で乾燥ストレス耐性を制御する。スペースの都合により、SnRK2については、1種類の名称のみ表記した。
- Affiliation
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国際農研 生物資源・利用領域
- 分類
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研究A
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 環境ストレス耐性
科研費 » 基盤研究C
- 科研費
- 研究期間
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2014年度(2007~2014年度)
- 研究担当者
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吉田 拓也 ( 東京大学 )
藤田 泰成 ( 生物資源・利用領域 )
圓山 恭之進 ( 生物資源・利用領域 )
最上 惇郎 ( 東京大学 )
戸高 大輔 ( 東京大学 )
科研費研究者番号: 10533995篠崎 一雄 ( 理化学研究所 )
科研費研究者番号: 20124216篠崎 和子 ( 東京大学 )
ORCID ID0000-0002-0249-8258 - ほか
- 発表論文等
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Yoshida et al. (2015) Plant Cell Environ. 38:35-49.
- 日本語PDF
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2014_B04_A3_ja.pdf250.99 KB
2014_B04_A4_ja.pdf284.16 KB
- English PDF
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2014_B04_A4_en.pdf260.85 KB
- ポスターPDF
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2014_B04_poster.pdf402.53 KB