河北省トウモロコシ単収への気候要因と投入財の影響解明
トウモロコシの重要産地である河北省の2003年~2010年間の4,152戸の農家調査データをベースに、マルチレベルモデル分析を用いてトウモロコシの単収に対する気候要因と投入財の影響を解明した。単収増加への影響は、投入財の影響より気候要因の影響のほうが大きい。
背景・ねらい
2010年に中国はトウモロコシの純輸入国に転じ、国内供給力向上の可能性に注目が集まっている。しかし、耕地面積の拡大が限界に近づき、供給量の増加は単収に頼らざるを得ない状況になっている。近年化学肥料の多投による生産環境の劣化、気候変動、労働力不足等の影響が単収の増加を困難にしている。河北省は中国でトウモロコシ生産量の多い3省の内の1つで、その供給を決定する主因は単収であり、単収への影響要因を解明することはトウモロコシ供給動向の把握にとって重要である。また、安定生産に向けてのリスク分析や政策の制定にも貢献する。本研究では、河北省の9県の農家調査データを用いて地域間の異質性を考慮し、より精度の高い分析を目指した。
成果の内容・特徴
- 2003年から2010年までの4,152戸の農家サンプル調査データを用いて、OLS回帰モデル、マルチレベルモデル最尤推定法(ML)と制限付き最尤法(REML)をそれぞれ構築しパネル分析を行った結果、適合性のもっともよかったMLモデルを選定し、各投入財(種子、化学肥料、農薬、固定資産、労働力、機械作業、灌漑)、気候要因(気温、降水)の弾性値と単収への貢献度を推計した。
- トウモロコシの単収に影響する投入財の弾性値は0.176で、気候要因(生育期間の6月から9月まで)のうち気温の弾性値は-2.159、降水は0.019で、気温による負の影響が大きい。降水は正の影響となっている。月別でみると、9月の高温による単収への負の影響が大きいことがわかる(表1)。
- 投入財のトウモロコシ単収への影響では、固定資産、労働力、化学肥料、灌漑、種子投入のプラス効果が確認された。そのうち種子投入の弾性値が0.076とほかの投入要因より高く、種子選択の単収に与える影響が大きいことがわかる(表1)。
- 計測期間の単収の増加に対する各影響要因の貢献の度合いを寄与率(%)でみると、正の貢献としては6、8、9月の適度な降水と種子があげられ、負の貢献は9月と7月の気温である。相対的に気候要因の影響が大きい(図1)。
成果の活用面・留意点
- 単収への影響要因を明確にすることで影響度合いの高い要因への政策的対応が可能となる。
- パネルデータを用いた分析手法は河北省以外の地域でも応用できる。他地域への応用により、供給予測の推計精度が高まることが期待される。
- 中長期の需給予測に向けての推計パラメーターとして利用する場合には、推計期間をさらに長くする必要がある。
具体的データ
- Affiliation
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国際農研 社会科学領域
- 分類
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研究B
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 中国循環型生産
- 研究期間
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2012年度(2011~2013年度)
- 研究担当者
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銭 小平 ( 社会科学領域 )
麻 吉亮 ( 中国農業大学 )
陳 永福 ( 中国農業大学 )
草野 栄一 ( 社会科学領域 )
- ほか
- 発表論文等
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Chen Y. et al. Journal of Integrative Agriculture, 12(1), pp.101-108.
麻吉亮ら,中国農村経済2012(11)、pp.11-20.
銭小平(2012),農村と都市をむすぶ、Vol.734、No.12、pp.60-63
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