幼苗期における在来品種の窒素反応は、改良品種よりも敏感である

要約

イネの相対乾物生産重率と吸収窒素あたりの乾物生産効率には、顕著な品種間差異が幼苗期で認められ、在来品種は改良品種よりも窒素に対する反応が敏感であり、効率的乾物生産が可能である。

背景・ねらい

イネの生育にとって必須要素である窒素の吸収と乾物生産に関する遺伝的な要因を解明することは、水や土壌肥沃度などで制限のある環境下の陸稲地帯や天水田に適応したイネを開発する上で重要である。また灌漑水田などの栽培管理が容易な好適条件下においても、肥料の低投入でも効率的な生産が可能な、環境に負荷の少ない品種開発に役立てることができる。このために、イネ品種における窒素反応に関する品種間差異を明らかにする。

成果の内容・特徴

  1. 生態型(インド型および日本型)、さらに改良の違い(在来品種から近代改良品種)を考慮した合計31品種・系統(表1)を脱イオン水で24日間育苗後、窒素濃度が0 mg N L-1~80 mg N L-1の8段階の水耕液で14日間栽培し、各窒素濃度の乾物生産の差異を0 mg N L-1区との比(RDW:相対乾物重率)で比較すると、栄養生長(幼苗)期に顕著な品種間差が確認できる。
  2. これら31品種・系統は、7段階の各濃度における相対乾物重率を用いたクラスター解析(Ward法)の結果から、5つのグループ(I-V)に分けられる。(表1)
  3. 相対乾物重率と窒素利用効率の最も高いのは、インド型の在来品種のKasalath(I)であり、最も低いのは国際稲研究所(IRRI)が開発した半矮性品種群や日本の近代改良品種群など(V、10品種)である。
  4. 他の3つのグループは、インドの2品種(II)、陸稲を中心とする8品種(III)、在来品種と改良品種が混ざる9品種(IV)である。
  5. 相対乾物重率と窒素利用効率(PNUE:吸収窒素1g当たりの乾物生産量)との位置関係から、5グループを比較すると、どの窒素濃度でも同様な関係が認められ在来品種と改良品種との間では顕著な差異があるが、日本型やインド型などの生態型の異なる品種間差は明確でない(図1)。

成果の活用面・留意点

  1. Kasalathなどの在来品種の中に極めて窒素反応の良いものがあり、これら品種は低窒素条件下でも旺盛な生育が期待でき、高乾物生産性イネの開発研究に利用することができる。
  2. 本試験では硝酸アンモニウムを窒素源として用いた。今後は、吸収窒素源の違い(アンモニア態と硝酸態窒素)の影響について明らかにしていく必要がある。
  3. 本結果は、窒素の反応が最も顕著とされる幼苗期の結果であり、以降の生育期についての影響や反応についても検討していく必要がある。

具体的データ

  1. 表1 供試品種と幼苗期の窒素反応による分類

    表1 供試品種と幼苗期の窒素反応による分類
  2.  

    図1 相対乾物重率(RDW)と吸収窒素の利用効率(PNUE)からみた品種グループの位置づけ
    図1 相対乾物重率(RDW)と吸収窒素の利用効率(PNUE)からみた品種グループの位置づけ
    注:20 mg N L-1の濃度処理における試験結果。他の処理区でも品種グループ間で同様な位置関係が認められる。
Affiliation

国際農研 生物資源領域

国際農研 生産環境領域

国際農研 畜産草地領域

分類

技術B

予算区分
交付金[不良環境耐性]
研究課題

不良環境耐性プロジェクト研究

研究期間

2009年度(2006~2010年度)

研究担当者

生井 幸子 ( 生産環境領域 )

鳥山 和伸 ( 畜産草地領域 )

福田 善通 ( 生物資源領域 )

ほか
発表論文等

Namai et al. (2009) Breeding Science 59:269-276.

日本語PDF

2009_seikajouhou_A4_ja_Part7.pdf194.67 KB

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