アカホシカメムシの捕食性天敵ベニホシカメムシの生態的特性

要約

ベニホシカメムシは、ワタ・オクラなどのアオイ科作物の重要害虫であるアカホシカメムシ類だけを捕食する狭食性の捕食者であり、高い増殖力をもち、短日下でも非休眠であることから、アカホシカメムシ類に対する有力な捕食性天敵として位置付けられる。

背景・ねらい

   ベニホシカメムシ Antilochus coqueberti (ホシカメムシ科)は、熱帯・亜熱帯地域で広く分布し、その形態が餌であるアカホシカメムシ(ホシカメムシ科)に良く似ているため、アカホシカメムシと混同され易く、一般にはほとんど認識されていない。また、その生態的特性や、捕食性天敵としての有効性に関する報告が全く無い。
   ワタ・オクラなどにおける化学合成殺虫剤の使用低減を目指し、ベニホシカメムシをアカホシカメムシに対する有効な捕食性天敵して位置付け、その生態的特性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  1. ベニホシカメムシは野外ではホシカメムシ科アカホシカメムシ属のアカホシカメムシとズグロシロジュウジカメムシだけを捕食し、実験室内ではホシカメムシ科とホソヘリカメムシ科のカメムシを捕食するが、ホシカメムシ科に近縁なオオホシカメムシ科、ナガカメムシ科ならびにホソヘリカメムシ科に近縁なヘリカメムシ科、ヒメヘリカメムシ科のカメムシは捕食しない(表1)。
  2. ベニホシカメムシは20 ~ 30℃ の14 時間日長の長日条件で正常に発育し、アカホシカメムシを餌として与えて飼育すると、産卵から羽化までの期間は、20℃ で87.1 ± 1.4 日、22.5℃ で62.3 ± 0.4 日、25℃ で49.3 ± 0.5 日、27.5℃ で41.9 ± 0.5 日、30℃ で35.5 ± 0.7 日であり(数値はいずれも平均±標準誤差)、これらから産卵から羽化までの発育零点は12.8℃、有効積算温度は606.1 日度と推定される(図1)。
  3. ベニホシカメムシは、25℃、14 時間日長において、羽化後10 ~ 183 日齢の間に卵塊で産卵し、平均産卵前期間10.7 ± 0.7 日、平均産卵回数10.9 ± 5.9 回、平均卵塊サイズ55.2 ± 15.5 卵、平均寿命97.2± 56.9 日、平均総産卵数601.7 ± 294.5 卵であり(数値はいずれも平均±標準誤差)、高い増殖力を持つ(図2)。
  4. ベニホシカメムシは、10 時間日長の短日条件でも休眠に入らずに順調に生育し、幼虫期間や産卵前期間は長日条件よりもむしろ短かいので(表2)、冬季の短日条件でも生物的防除資材としての有効性を期待できる。

成果の活用面・留意点

  1. ベニホシカメムシを有用天敵として大量増殖する場合の飼育条件決定のための基礎資料となる。
  2. ベニホシカメムシは、20℃ を下回る温度では飼育困難である。
  3. ベニホシカメムシは、未交尾でも無精卵を産下するので、人工飼育する際、交尾が済んだことを確認する必要がある。
  4. ベニホシカメムシ各齢期における捕食量に関しては未解明である。

具体的データ

  1.  

    表1 ベニホシカメムシの餌としてのカメムシ類の適合性
  2.  

    図1 ベニホシカメムシの発育の温度反応
  3.  

    図2 25℃ 14時間日長におけるベニホシカメムシの産卵特性
  4.  

    表2 ベニホシカメムシの卵・幼虫の発育期間、産卵前期間に対する飼育温度日長の影響
Affiliation

国際農研 沖縄支所

分類

研究

予算区分
経常 法人プロ〔病害虫〕
研究課題

アカホシカメムシの捕食性天敵ベニホシカメムシの生態的特性の解明

研究期間

2001 年度(1999 ~ 2001 年度)

研究担当者

河野 勝行 ( 沖縄支所 )

高橋 敬一 ( 沖縄支所 )

ほか
発表論文等

河野勝行, 高橋敬一, 榊原充隆 (1999): ベニホシカメムシ(カメムシ目:ホシカメムシ科)の食性. 日本昆虫学会 第59 回大会講演要旨.

河野勝行 (2000): ベニホシカメムシ(カメムシ目:ホシカメムシ科)の発育と産卵特性. 日本昆虫学会第60 回大会講演要旨.

Kohno, K., K. Takahashi and M. Sakakibara (2002): New prey-predator association in aposematic pyrrhocorid bugs: Antilochus coqueberti as a specialist predator on Dysdercus species. Entomological Science, 5(4), 印刷中.

Kohno, K. (2003): Development and reproduction of Antilochus coqueberti (Heteroptera: Pyrrhocoridae), the specific predator of Dysdercus spp. (Heteroptera: Pyrrhocoridae). Applied Entomology and Zoology, Vol. 38, No. 1 印刷中.

日本語PDF

2001_25_A3_ja.pdf981.12 KB

English PDF

2001_22_A4_en.pdf73.11 KB

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