水系レベル水資源管理状況把握のための既存潅漑管理データの有効利用法
開発途上国の大規模潅漑プロジェクトにおいて、ルーチンに観測されながら活用されていない既存の潅漑管理データを有効利用し、水系レベルの水資源管理状況を把握するための基礎データに加工する簡便法を開発した。
背景・ねらい
開発途上国と言えども、経済的に開発可能な水資源開発はほぼ終わり、今後の地域開発の最大のボトルネックは、水不足と言われている。アジア・モンスーン地帯など、稲作を農業の中心とする地域では、水田農業自らの近代化に必要となる水資源の確保のみならず、その水系全体の経済・社会開発のためにも、水系レベルの水資源利用の定量的把握を通じ、水資源の一層の合理的利用による水源の捻出が求められている。しかしながら、水系レベルの水資源利用状況の定量的把握は、新たな観測網・観測要員の整備など莫大な投資が必要とされるとして、ほとんど手がつけられていない。
一方、国営クラスの大規模潅漑プロジェクトでは、水管理に関係する気象・水文・潅漑水量の他、潅漑面積・作付け作物・作期スケジュールなどのデータを潅漑システムの流量制御に利用している。しかし、これらの管理データは、水資源管理成績評価の実務には殆ど反映させることなく、無為に退蔵されているのが実状である。そこで、これらの膨大な
管理データの有効利用を図り、水系レベルの水資源管理評価のための簡便法を開発した。
成果の内容・特徴
- 評価指標の定義
(1) 成績指標:計画量に対する実績量の比率で、計画達成の度合いを表す。
(2) 影響指標:全体量に対する実績量の比率で、改善対策のインパクトの度合いを表す。 - データの定義
(1) 1次データ:実際の管理業務において使用されているデータ
(2) 2次データ:評価指標を設定する際、1次データだけでは足りない場合、流域レベルの水収支関係を用いて1次データから誘導される二次的データ(表1参照) - 評価指標の算定と成績評価
評価対象地区・期間に関わる1・2次データにより評価指標を算定し、成績指標から目標達成率を評価し、影響指標から問題点の解明と改善策の見通しを立て、管理成績の改善を図る。(表2参照)
成果の活用面・留意点
開発途上国の大規模潅漑プロジェクトで、ルーチンの潅漑管理のために観測されている既存のデータをスプレッドシートで処理するのみで、水系レベルの水資源管理成績を評価できる。管理データの精度の向上が正確な評価の基本である。
評価指標による水資源管理評価の例
- 成績指標から、第1作において16%、または246mm(WR‐WUF)の用水の不足が指摘される。
- 用水不足の要因は、ダム流入量を年間15%(DMRL/DMIN=1.15)過剰に放流しているにもかかわらず、ダム残留域流出量の利用率が30%(RVE/RVIN=0.30)、反復利用潜在可能水量の利用率が12%(IRRC/DR=0.12)と低いことである。
- ダム貯水量の年間15%の過剰放流は、10年に1度程度の頻度で貯水量不足による第1作の休閑という事態を実際に引き起こしている。
- ダム残留域流出量の利用率が低いのは、潅漑需要の高まる乾季に流量が減り、潅漑需要の低い雨期に流出量が増え、需給のタイミングが合致しないためである。この利用促進には新しいダムの建設によらざるを得ない。
- 第1作期間中の反復利用水量の余裕は682mm(DR‐IRRC)あり、246mmの用水不足を賄って余りある。ムダ地区における水不足問題の解決には、反復利用の促進が鍵となる。
具体的データ
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マレイシア最大の水稲二期作地区、ムダ地区の管理データ(1988年~1992年)による実証試験の結果は次の様である。
表1 ムダ地区の灌漑管理における1・2次データ (単位:mm/97,000ha)
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表2 評価指標
- Affiliation
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国際農研 沖縄支所
- 分類
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行政
- 予算区分
- 経常
- 研究課題
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開発途上国における潅漑管理評価手法の開発
- 研究期間
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平成8~9年
- 研究担当者
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八島 茂夫 ( 沖縄支所 )
- ほか
- 発表論文等
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Yashima, S. (1997) Data Systematization for assessing irrigation performance. REE, No.32, 42‐62.
八島茂夫 (1997) 既存情報資源の有効利用による水資源開発・利用の合理化. 第5回水資源に関するシンポジウム論文集, 701-706.
- 日本語PDF
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1997_20_A3_ja.pdf1.51 MB